キラースペルゲーム

天草一樹

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正義躍動する三日目

スペル強化の可能性

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「聞きたいことはこれで最後なんだが、キラースペルは何かを代償とすることで威力が上がったりはしないのか?」
「代償で威力が上がる? ええと、少なくとも僕は聞いたことがないけど、具体的にどういうことなのかな?」

 予想外の問いかけだったのか、六道は不思議そうに尋ね返してくる。
 この問いには姫宮と神楽耶も興味をそそられたらしく、二人そろって明へと視線を向けてきた。

「具体的にも何もそのままの意味だ。スペルを使う際に自身の持つ何かを捧げるイメージを持つことで、スペルの威力を上げられたりしないのかと思ったんだ。基本的にキラースペルは一人の人間しか対象に選べない。だがそれも、自分の命を捧げるイメージ持つことで複数人を対象に選べたりはしないのかと気になった」
「うーんと、覚悟を示すことでスペルが強化されるんじゃないかって考え――いや、リスクを負うことでスペルの強化を図れるかって考えかな。どうだろう? イメージ次第でスペルの強弱を決めることができるのは調べ済みだけど、根本的な威力の上昇や対象人数の増加っていうのはほとんど研究されていない気がするなあ。仮に研究されてても、そうしたリスクイメージの付与で威力が上昇するなんてことを試したことはないと思うよ」
「それは随分悠長な話だな。これぐらいのこと、誰だって思いついてもいいだろうに」
「いやいや、普通そんなこと考えないんじゃないかな。というか、どうしてそんな突飛な発想に至ったのかが気になるくらいだよ」
「俺としては別に突飛なつもりはない。キラースペルの発動にはイメージが大きくかかわるんだ。だったら発動を強化できるようなイメージを何か持てないかと考えるのは自然なことだろう。とはいえ純粋に能力発動の正確なイメージを描くだけじゃそれが叶わないのは、喜多嶋やお前の話を聞いていれば予想がついた。だったら何か、正確なイメージとは別に、スペルを強化できるイメージを持てないかと考えたんだ」

 明は事もなげにそういうと、「それからリスクイメージを持つだけのつもりはないぞ」と続けた。

「お前の言い方だとリスクイメージを持てば、それだけで強化できると考えているように聞こえるが、俺は実際にそのリスクが自分に降りかかると考えて話したつもりだ。イメージするだけでそれを現実に起こせるのがキラースペルなら、自身の命を捧げるイメージを持てば、実際に命がなくなるだろうと思ったからな」
「……いや、それは流石にどうだろうね。もしそれで自分の命がなくなったら、ある意味スペルが二つ発動していることになるんじゃないかな」
「そんなことはないだろ。むしろこんな超常的な力をリスクなしで使えているとは思えない。そしてそのリスクを受けるべきは当然スペル使用者なのだろうし、むしろ自分の命が削られることはスペル発動にそもそも必要なものだといえるはずだ。だったら俺の考えはそれを加速させているだけのこと。別にスペルが二つ発動していることにはならないだろう」
「…………」

 いつもの飄々とした態度を崩し、六道は難しい顔で考え込み始める。
 どうやら本当に、明が言ったような考えを持つ者はいなかったらしい。
 既に運営から見放されたとはいえ、スペルの解明については興味を持ち続けているのか。六道はそれから一分以上も思案した後、ようやく明へと視線を戻した。

「残念だけど、その考えが当たっているかどうかは推測すら立てられない。おそらくこのゲームを見ている研究職員も今頃慌てて検証を行おうとしてるんじゃないかな。まあ、もし東郷君の考えが当たっていたなら、スペル使用者は代償として自身の寿命を削ることになるわけだからね。そう簡単に実験できるものでもないと思うけど」
「そうか。何にしろ、現状では判断できないってことだな。なら、俺の質問はこれで終わりだ。時間をとらせて悪かったな」

 これでもう用はないと、明は神楽耶を促し自室へと歩き始める。
 あまりにもあっさりと明が会話を切り上げたため、神楽耶はワンテンポ遅れながらもその後を追いかける。それでも礼儀正しく、六道らに頭を下げることは忘れなかった。
 姫宮はまだ今の話を受けとめきれていないのか、可愛らしく口元に手をやりながら目を瞬かせている。六道もそれは同じようで、思い悩んだような表情を浮かべたまま明らの背中を見送っていた――が、ふと天啓でも閃いたか、穏やかな笑みを取り戻し口を開いた。

「そうだ。興味深い話をしてくれたお礼として僕から一つ、君の知りたがっていた情報を提供させてもらうよ。まあこのゲームを勝ち残るのには関係のない話なんだけどね」

 明が立ち止まるよう、思わせぶりな前置きをしてから六道は続ける。

「以前東郷君はどうしてキラースペルが使えるのか、それを教えろって言ってたよね。残念ながらスペルを使えるようにする道具に関しては話せないけど、君たちが今どういう状態なのかは話してあげられる。僕たち十三人には、とある道具を使ってそれぞれ十三個の共通のキラースペルが使えるよう体を改変されているんだ。そしてその使用できるスペルが書かれた紙を、一枚ずつ皆に分けて渡している。だから喜多嶋君が唱えた『大脳爆発』や『空中浮遊』は使えないけど、この場にいる他のプレイヤーのスペルは名前さえわかれば使えるんだ。因みに十三人というプレイヤー数にも訳があってね。一人に持たせられるスペルは同時に最大十三個まで。それ以上のスペルを与えてしまうと、体が爆発して死んでしまうという研究結果が出ているんだよ。だから共通のスペルを持たせられる最大人数の十三人をゲームのプレイヤー数としているんだ」
「……そうか。貴重な情報感謝する」

 振り返ることなく礼だけ述べ、明はすぐに歩みを再開する。明の隣を歩く神楽耶は、「爆発して死ぬ……」と六道の言葉に衝撃を受けていた。
 それもわからないことではない。『最大十三のキラースペルを持つことが可能』という六道の言い方からすると、十三のキラースペルを所持しきれずに体が爆発する可能性もある、ということだろう。つまり運が悪ければこの場に立つことすらできず死んでいたかもしれないわけだ。
 それからやはり、スペルが使用者の体に大きな負担を与えていることも間違いないらしい。その負担がスペルを授けられた段階でのみ生じるのか、その後の使用時にも関わってくるのかはわからない。いずれにしろ、本来の天命よりも短い人生となったのは事実なのだろう。
 そこまで考えた所で、明は軽く首を振って思考を止めた。スペルの所持や行使にリスクがあるだろうことは予測済み。今更それを恐れた所でやるべきことが変わるわけではないのだから。
 いまだ青い顔をしている神楽耶の手を握り、明は「過ぎたことだ。これ以上お前に負担がかかることはない」と囁く。
 神楽耶は青ざめた表情のままではあるが小さく頷き、明の手をぎゅっと握り返した。
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