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終焉の銃声響く五日目
最後の質問タイム
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時計がないので相変わらず正確な時刻は分からないが、おそらく七時を過ぎたころ。
館の外に種々の鳥たちが集まり、朝を告げる歌声を響かせている。
明はしばらく黙って外の景色を眺めた後、神楽耶に向き合い、
「行くか」
と戦いの合図を告げた。
まず二人が目指したのはシアタールーム。時刻が予想通り午前七時であるのなら、喜多嶋に質問を行うことができるからだ。
とはいえここに至って彼に聞きたいことなど特にない。明たちの目的は、他プレイヤーがいるかどうかの確認である。
先頭を行く明の後ろで、神楽耶が歩数を数えているのか「四十、四十一、四十二――」と小声で呟いている。
ベッドではなく芝生の上で、しかも枕は明の膝枕であったにも関わらず、かなりよく眠れたらしい。
ゲームを終えたわけではなくとも、文字通り生死をかけた戦いに勝ったことから緊張感が和らいだのかもしれない。それが良いことなのかどうかは、少し微妙なところであるが。
別館に辿り着くと、すぐさま左右を見渡し誰か人がいないかを確認する。誰もいないのを見て取ってすぐさまシアタールームの前に移動し、ゆっくり音をたてないようにしながら扉を開けた。
微かに覗いた扉の隙間から静かに中の様子を窺おうと視線を動かす。だが、明のその努力は一瞬で砕け散った。
『やあやあ東郷様、神楽耶様。無事五日目まで生き残れたようで本当に嬉しく思います。私としては寂しいことに、今シアタールームの中には誰もいませんので、そんなこそこそとせず堂々と部屋の中に入ってきてくださいな。キキキキキキ』
初日から全く変わることのない不快な声がシアタールームの中から聞こえてくる。
つい数時間前にも似たような笑い声を聞いたなと思いながら、促されるまま明たちは部屋の中に入った。
声の主――喜多嶋の言葉に嘘はなく、シアタールームの中にはスクリーンに映った彼以外誰一人いなかった。
やはり五日目ともなると質問しに来る者も全くいないようだ。
中に人がいない以上、明たちの目的は既に達成されたと言える。おそらくまだ部屋で眠っているであろう者たちの不意を打つ準備を始めなければいけない。
スクリーンでにやにやと笑みを浮かべるピエロ男を無視し、明はさっと踵を返す。が、不意にあることを思いつき、立ち止まってスクリーンに目を向けた。
「そういえば喜多嶋。一つだけ聞きたいことがあるんだが質問良いか?」
『ええ。勿論いいですとも。今はそのための時間なわけですからね。遠慮せず何なりと質問してくださいませ』
まるで明が質問してくるのを予期していたかのように笑みを浮かべる喜多嶋。
そのいやらしい笑みを見て質問する気がかなり失せたものの、感情を無にして明は淡々と尋ねた。
「なら聞くが、お前ら運営は野田が――いや、杉並がスペルで作り出された偽物と入れ替わっていることを知っていたのか?」
『それは当然知っていましたよ。皆様の戦いっぷりは全て監視カメラから観戦させてもらっていますからね。彼が自身で作りした分身に殺される間抜けな瞬間もはっきり見ていましたとも。しかしそんなこと、東郷様自身が既に証明されたことではありませんか』
「そうだな。じゃあ追加でもう一つ聞かせてもらってもいいか」
『どうぞどうぞ。先ほども申し上げましたが、今は私への質問タイムなのですから。好きなだけ質問してくださいませ』
明は腰に隠してある銃を意識しながら、気づいてしまった不都合な疑問を投げかける。
「俺は冷凍室で杉並と話すまで、奴が偽物であることに気づけていなかった。だから当然あいつはゲームのプレイヤーであり、このゲームを実質支配していた最も厄介な敵だと考えていた。だが、実際にゲームを支配していた杉並は、スペルで作り出された偽物だった……。
そこで聞きたいのは、運営はあいつをどんな認識で捉えていたのかだ。ゲームに参加していた杉並の分身であり、暴力や殺人が許容されるようになったプレイヤーという認識か。オリジナルの杉並が作り出した、ただの凶器という認識か。そのどっちなのかをな」
明の問いかけを聞いた喜多嶋は、徐々に笑みを深くし、高らかに笑い出した。
『キ、キキキキキキキ! 流石は東郷様! よくぞその質問をしていただけました! そう。その点は東郷様にとっては非常に重要な問題ですからね。そして私の答えはあなたにとって望ましいものとは言えないでしょう』
「……それはつまり、後者の考えが正しいということか?」
『はい。その通りでございます』
喜多嶋の答えを聞き、明の眉間に深いしわが刻まれる。
半ば他人事のように二人の話を聞いていた神楽耶は、明の様子を見て慌てて口を挟んだ。
「えと、ちょっと待ってください。今の話ってどういうことですか? 後者の考えが正しいってことは、私たちを殺そうとした杉並はただの凶器――つまりプレイヤーと認識されはいなかったってことですか? それってまさか……」
『キキキ。おそらく御想像の通り。彼を殺さずとも、生き残りが三人になった時点でゲームは終了していたということです』
「そして俺が持っているこの銃も、プレイヤー相手には一度も使われていないとされているわけだ。要するにこいつで他のプレイヤーを撃った時にペナルティが課されるかどうかは未知のまま、と」
銃という強力な手札を手に入れたと思っていたが、どうやらそれは明の早とちりだったようだ。
思わず大きなため息が漏れてしまう。
神楽耶は絶望した様子で、「私たちは、無意味な人殺しをしてしまった……」と呟く。だがすぐ我に返り、「私からも質問良いですか」と喜多嶋に尋ねた。
「あまり駆け引きとかは得意ではないので直接聞きますけど、今東郷さんが持っている銃を使って他のプレイヤーに危害を与えた場合、それはルール違反になるのでしょうか? 喜多嶋さんが最初に話してくれたルール違反の定義では、スペルを用いたことによって可能となった暴力や殺人にペナルティは下らないという話でした。それに間違いがないなら、スペルで作り出された銃での殺害は、誰が行おうとルール違反にならないと思うのですけど」
言葉通り本当に直接聞いたなと、明はややあきれ気味に神楽耶を見つめる。
ただ、うだうだ悩んで解決する問題ではないので、実際直接聞いた方が早いのは確かである。
明と神楽耶の期待(?)に満ちた視線が喜多嶋に向かう。
喜多嶋は『キキキ』と笑い声を上げ、醜悪なピエロ顔を楽し気に歪めた。
『さて、それはお答えいたしかねます。というのも、実のところどうするかはまだ決めていないのですよ。東郷様がお持ちのその銃でもし残りのプレイヤーを楽に殺せてしまったら、ゲームの締めとしては面白くありません。ですので禁止、としたい気も致しますが、一方で残りの参加者を考えれば銃一つで制圧できるとも思えません。なので使用許可を出してもいいかとも思い――』
「要するに、ゲームを面白くさせるなら使用しても構わないってことだな」
喜多嶋の話を途中で遮り、明はそう断定する。
話を遮られることは予想していたのか、喜多嶋は特に気分を害した様子もなく『その判断で問題ないでしょう』と頷いた。
一方質問した神楽耶は、実質情報が得られていないことにがっかりしたのか小さくため息をついている。
まあこの展開自体は明からしたら想像通り。すんなりと銃の使用許可が得られるなどとはもとより考えていなかったのだから。
これで今度こそここに用はなくなり、明は神楽耶を促して外に出るように言う。
そうして神楽耶をシアタールームから出し、明も廊下に出る――その直前。今一度喜多嶋を振り返り、何気ない口調で明は尋ねた。
「そういえば、野田の奴もお前と似た気色の悪い笑い方をしていたが、実は兄弟か何かだったりしたのか?」
喜多嶋は驚いたように一瞬目を丸めるも、
『……キキキキキキ。それは勘ぐり過ぎですよ。私と彼は赤の他人です。血縁関係なんてありませんよ』
とすぐに否定して見せた。
明は目を細めて喜多嶋のその顔を見つめた後、結局何も言わず、今度こそシアタールームを後にした。
館の外に種々の鳥たちが集まり、朝を告げる歌声を響かせている。
明はしばらく黙って外の景色を眺めた後、神楽耶に向き合い、
「行くか」
と戦いの合図を告げた。
まず二人が目指したのはシアタールーム。時刻が予想通り午前七時であるのなら、喜多嶋に質問を行うことができるからだ。
とはいえここに至って彼に聞きたいことなど特にない。明たちの目的は、他プレイヤーがいるかどうかの確認である。
先頭を行く明の後ろで、神楽耶が歩数を数えているのか「四十、四十一、四十二――」と小声で呟いている。
ベッドではなく芝生の上で、しかも枕は明の膝枕であったにも関わらず、かなりよく眠れたらしい。
ゲームを終えたわけではなくとも、文字通り生死をかけた戦いに勝ったことから緊張感が和らいだのかもしれない。それが良いことなのかどうかは、少し微妙なところであるが。
別館に辿り着くと、すぐさま左右を見渡し誰か人がいないかを確認する。誰もいないのを見て取ってすぐさまシアタールームの前に移動し、ゆっくり音をたてないようにしながら扉を開けた。
微かに覗いた扉の隙間から静かに中の様子を窺おうと視線を動かす。だが、明のその努力は一瞬で砕け散った。
『やあやあ東郷様、神楽耶様。無事五日目まで生き残れたようで本当に嬉しく思います。私としては寂しいことに、今シアタールームの中には誰もいませんので、そんなこそこそとせず堂々と部屋の中に入ってきてくださいな。キキキキキキ』
初日から全く変わることのない不快な声がシアタールームの中から聞こえてくる。
つい数時間前にも似たような笑い声を聞いたなと思いながら、促されるまま明たちは部屋の中に入った。
声の主――喜多嶋の言葉に嘘はなく、シアタールームの中にはスクリーンに映った彼以外誰一人いなかった。
やはり五日目ともなると質問しに来る者も全くいないようだ。
中に人がいない以上、明たちの目的は既に達成されたと言える。おそらくまだ部屋で眠っているであろう者たちの不意を打つ準備を始めなければいけない。
スクリーンでにやにやと笑みを浮かべるピエロ男を無視し、明はさっと踵を返す。が、不意にあることを思いつき、立ち止まってスクリーンに目を向けた。
「そういえば喜多嶋。一つだけ聞きたいことがあるんだが質問良いか?」
『ええ。勿論いいですとも。今はそのための時間なわけですからね。遠慮せず何なりと質問してくださいませ』
まるで明が質問してくるのを予期していたかのように笑みを浮かべる喜多嶋。
そのいやらしい笑みを見て質問する気がかなり失せたものの、感情を無にして明は淡々と尋ねた。
「なら聞くが、お前ら運営は野田が――いや、杉並がスペルで作り出された偽物と入れ替わっていることを知っていたのか?」
『それは当然知っていましたよ。皆様の戦いっぷりは全て監視カメラから観戦させてもらっていますからね。彼が自身で作りした分身に殺される間抜けな瞬間もはっきり見ていましたとも。しかしそんなこと、東郷様自身が既に証明されたことではありませんか』
「そうだな。じゃあ追加でもう一つ聞かせてもらってもいいか」
『どうぞどうぞ。先ほども申し上げましたが、今は私への質問タイムなのですから。好きなだけ質問してくださいませ』
明は腰に隠してある銃を意識しながら、気づいてしまった不都合な疑問を投げかける。
「俺は冷凍室で杉並と話すまで、奴が偽物であることに気づけていなかった。だから当然あいつはゲームのプレイヤーであり、このゲームを実質支配していた最も厄介な敵だと考えていた。だが、実際にゲームを支配していた杉並は、スペルで作り出された偽物だった……。
そこで聞きたいのは、運営はあいつをどんな認識で捉えていたのかだ。ゲームに参加していた杉並の分身であり、暴力や殺人が許容されるようになったプレイヤーという認識か。オリジナルの杉並が作り出した、ただの凶器という認識か。そのどっちなのかをな」
明の問いかけを聞いた喜多嶋は、徐々に笑みを深くし、高らかに笑い出した。
『キ、キキキキキキキ! 流石は東郷様! よくぞその質問をしていただけました! そう。その点は東郷様にとっては非常に重要な問題ですからね。そして私の答えはあなたにとって望ましいものとは言えないでしょう』
「……それはつまり、後者の考えが正しいということか?」
『はい。その通りでございます』
喜多嶋の答えを聞き、明の眉間に深いしわが刻まれる。
半ば他人事のように二人の話を聞いていた神楽耶は、明の様子を見て慌てて口を挟んだ。
「えと、ちょっと待ってください。今の話ってどういうことですか? 後者の考えが正しいってことは、私たちを殺そうとした杉並はただの凶器――つまりプレイヤーと認識されはいなかったってことですか? それってまさか……」
『キキキ。おそらく御想像の通り。彼を殺さずとも、生き残りが三人になった時点でゲームは終了していたということです』
「そして俺が持っているこの銃も、プレイヤー相手には一度も使われていないとされているわけだ。要するにこいつで他のプレイヤーを撃った時にペナルティが課されるかどうかは未知のまま、と」
銃という強力な手札を手に入れたと思っていたが、どうやらそれは明の早とちりだったようだ。
思わず大きなため息が漏れてしまう。
神楽耶は絶望した様子で、「私たちは、無意味な人殺しをしてしまった……」と呟く。だがすぐ我に返り、「私からも質問良いですか」と喜多嶋に尋ねた。
「あまり駆け引きとかは得意ではないので直接聞きますけど、今東郷さんが持っている銃を使って他のプレイヤーに危害を与えた場合、それはルール違反になるのでしょうか? 喜多嶋さんが最初に話してくれたルール違反の定義では、スペルを用いたことによって可能となった暴力や殺人にペナルティは下らないという話でした。それに間違いがないなら、スペルで作り出された銃での殺害は、誰が行おうとルール違反にならないと思うのですけど」
言葉通り本当に直接聞いたなと、明はややあきれ気味に神楽耶を見つめる。
ただ、うだうだ悩んで解決する問題ではないので、実際直接聞いた方が早いのは確かである。
明と神楽耶の期待(?)に満ちた視線が喜多嶋に向かう。
喜多嶋は『キキキ』と笑い声を上げ、醜悪なピエロ顔を楽し気に歪めた。
『さて、それはお答えいたしかねます。というのも、実のところどうするかはまだ決めていないのですよ。東郷様がお持ちのその銃でもし残りのプレイヤーを楽に殺せてしまったら、ゲームの締めとしては面白くありません。ですので禁止、としたい気も致しますが、一方で残りの参加者を考えれば銃一つで制圧できるとも思えません。なので使用許可を出してもいいかとも思い――』
「要するに、ゲームを面白くさせるなら使用しても構わないってことだな」
喜多嶋の話を途中で遮り、明はそう断定する。
話を遮られることは予想していたのか、喜多嶋は特に気分を害した様子もなく『その判断で問題ないでしょう』と頷いた。
一方質問した神楽耶は、実質情報が得られていないことにがっかりしたのか小さくため息をついている。
まあこの展開自体は明からしたら想像通り。すんなりと銃の使用許可が得られるなどとはもとより考えていなかったのだから。
これで今度こそここに用はなくなり、明は神楽耶を促して外に出るように言う。
そうして神楽耶をシアタールームから出し、明も廊下に出る――その直前。今一度喜多嶋を振り返り、何気ない口調で明は尋ねた。
「そういえば、野田の奴もお前と似た気色の悪い笑い方をしていたが、実は兄弟か何かだったりしたのか?」
喜多嶋は驚いたように一瞬目を丸めるも、
『……キキキキキキ。それは勘ぐり過ぎですよ。私と彼は赤の他人です。血縁関係なんてありませんよ』
とすぐに否定して見せた。
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