78 / 98
終焉の銃声響く五日目
佐久間推断す
しおりを挟む
先ほどからの佐久間の変容についていけず、二人はその言葉の意味を理解するのに数秒の時を要した。
しかし当然。口にした本人がその隙を待つはずもない。
ナイフを振りかざし、腰を低くして疾走を開始した。
普段のおどけた様子からは想像もつかないほどの速さで明の懐に潜り込み、ナイフを素早く振り下ろす。
一閃。
まさに紙一重のところで、明はぎりぎり上半身を逸らしてナイフの一撃を避けた。
避けきれなかった髪が数本宙を舞っていくのが視界に映る。しかしそれを眺めている間もなく、佐久間が勢いよくナイフを薙いできた。
明はすぐに後ろへと飛び跳ね、それと同時にポケットから布巾を取り出し佐久間に投げつけた。
布巾に何か仕掛けでもあると勘ぐったのか。佐久間も大きく後退し、明から距離を取る。
その間に明は神楽耶へ向かい大声で、「俺の後ろから決して出るな!」と言い放った。
神楽耶は反射的に「はい!」と答えると、佐久間の追撃が再開する前に明の背後へと逃げ込んだ。
状況は振出しに戻り、佐久間は改めて腰をかがめ、駆けだす体勢を作る。
先の動きから見ても、このまま戦い続けるのは分が悪い。
明は必死に頭を働かせ、少しでも時間を稼ごうと佐久間に声をかけた。
「おい待て。突然何のつもりだ。信じてもらえそうにないから殺すなんて、狂人の発想だぞ。深呼吸でもして正気に戻れ」
「そうです、いったん落ち着いてください! このゲームは暴力禁止なんですよ。ナイフで私たちに怪我を負わせれば、その時点で佐久間さん自身が死ぬことになるんですよ!」
神楽耶も顔を強張らせつつ、明に追従して言う。
そんな二人の呼びかけを受け、佐久間は走り出そうとしていた体を起こした。しかし、それは自身の愚かさに気づいたからではなかった。勝利を確信しているが故の、絶対的な余裕が彼の動きを止めたのだ。
皮肉気な笑みを浮かべ、佐久間は二人の顔を交互に見回した。
「うふふふふ。東郷君も神楽耶さんも必死ですねえ。そんなに私と殺し合うのが怖いのですか。まあそれも当然ですよね。何せあなた方が所持しているスペルは多くても一つだけ。つまり私を殺す術を一切持っていないということなんですから。教祖様か六道君が助けに来るのを待つ以外ないわけですものね。
ああそれから神楽耶さん。このナイフにはスペルで作り出した毒が塗ってあるため、お二人を傷つけてもルール違反になることはありませんよ。なので残念ながら、その説得はあまり意味を持ちませんね」
あっさりと語られた核心を突く発言に、明も神楽耶も思わず体を硬直させる。その反応が既に答えとなってしまっただろうが、明は一応反論を試みた。
「……何を言っている。ナイフの件はともかく、俺たちがスペルを使わないのは、単にカウンタースペルを恐れているからだ。スペルならまだ残っているに決まってるだろ」
「うふふふふ。認めたくないのは分かりますが、もうばれているので否定しても無意味ですよ。簡単な消去法とちょっとした推理で、あなた方がスペルを持っていないことは導けてしまいますからね」
嗜虐心を露わにした表情で、佐久間は二人を見下ろしてくる。
はったりを言っているとは思えない堂々とした態度に、明と神楽耶の背中を冷や汗が伝う。
現状こちらの残存スペルとその能力が他のプレイヤーにばれてはいない、というのが明たちの考えだった。それは当然、誰かの前でスペルを披露したこともなければ、明たちが犯した殺人に気づいている者もいない様子だったからだ。
にもかかわらず、佐久間はこちらの所持スペル数を正確に把握してきている。
何が佐久間に気づきを与えてしまったのか。
明はすばやく思考を巡らし、自身が何を見落としているのかを模索する。そして偶然目に入った架城の死体から、今がどういった状況なのかをようやく理解した。
自身の失態に気づき、明の眉間に深いしわが刻まれる。
佐久間はそんな明の様子を見ながら、歌うように推理を口ずさみ始めた。
「野田は一井に殺された。一井は橋爪に殺された。藤城を殺した者は君たちではない。宮城を殺したのは姫宮さん。姫宮さんと秋華さんを殺した者も、状況的に君たちではない。さらに架城さんの死因は毒によるもの。これも君たちがやったとは思えない。となると唯一君たちが、殺したと思われるのは橋爪雅史、ただ一人。
さてさてすると、そうすると。君たちはまだ、三つスペルを保持しているようにも思われる。しかしこれは、おかしいこととすぐわかる。もし三つもキラースペルを所持しているならば、そのうち二つを使用して、二人殺してしまえば残りは三人。君たちの勝利でゲームは終了しているはずですから。なのにそうはしていない。ではではそれは、一体なぜか?」
「……私たちのスペルが即死スペルじゃなかっただけの話じゃないですか」
神楽耶がせめてもの抵抗としてそう問いかける。
だが、佐久間は余裕の笑みを浮かべたままゆるゆると首を横に振った。
「神楽耶さん、残念ながらその可能性は低いのですよ。即死スペルでないということは、一井君のように武器を召喚するなどして、殺せる機会を増やすスペルであるということ。そしてもしそんなスペルを持っているなら、私のカウンタースペルなど恐れずに、とっくに襲ってきていることでしょう。なのにそれもしていない――
つまりあなた方は、即死系スペルも召喚系スペルも所持していないということになります」
歌うような口調から一転。犯人を追い詰める探偵のように鋭い声で、佐久間はそう断定してきた。
最初から分かっていたことではあるが、佐久間の頭は悪くない。むしろ優れているとさえ言える。
それにも関わらずうかうかと近づき、攻撃される直前まで危機感を抱いていなかった――抱けなかったのは、佐久間の術中にはまっていた証拠であろう。
今更悔やんでも意味はない。しかし悔やまずにはいられない。
表面上は平静を装いつつも、明の鼓動は苛立ちと緊張から高まっていく。
一方佐久間は自身の推理に酔い始めたのか、探偵口調のまま恍惚とした表情で語りを続けた。
「さてそうすると、再びとある疑問に直面します。それはお二方がいつスペルを使用されたのかという疑問。しかしこちらもある一つの謎と私の知識を足し合わせることにより、明確な解に辿り着きました。
なぜ、東郷君と神楽耶さんは初日も初日。私主催の自己紹介をする前からチームを組めていたのか。一見する限りでは全く善人に見えない東郷君に、どうして殺人者を嫌悪する神楽耶さんが仲間となることを了承したのか。
実は私、姫宮さんからこんな話を聞いていたのですよ。神楽耶さんが東郷君とチームを組んだのは、生き残れる可能性を高める策を提示し、そのことを納得させてくれたからだと。
この話、深く考えずに聞いたのなら、東郷君の持つキラースペルがゲームを高確率で攻略できる強力なものだった、とか。主催者も気づいていないような裏技を教え、仲間になるメリットを提示したのだろう――と推測されます。
しかし、これはよく考えると前提から間違っています。神楽耶さんの立場からしてみれば、どれだけ生き残る確率が高そうな策を提示されたとしても、それで東郷君の仲間になろうとは思えないはず。むしろそんな優秀な相手では、自分を利用するだけ利用して殺すのではないかと警戒することでしょう。
つまり、神楽耶さんを勧誘する際にまず突破しないといけない課題として、自身が裏切らないという絶対の保証を示すことが必要とされるのです。普通ならそれは叶え難い課題でしょうが、このゲームのルールを考えれば不可能ではありません。
そう! どちらか一方が全てのスペルを使い切り、それ以降パートナーと常に行動を共にすることで――」
バン
佐久間の語りを遮り、小さく館中に響く銃声。
銃弾は佐久間が持っていたナイフのみを正確に撃ち抜き、彼の手から武器を奪い去った。
何が起きたか分からない様子で、佐久間は瞬きを繰り返す。
明は銃の照準をそんな佐久間の眉間に合わせ、底冷えする声で言い放った。
「そこまで知られていたのなら、生かしてはおけないな。悪いが、今すぐに殺させてもらうぞ」
しかし当然。口にした本人がその隙を待つはずもない。
ナイフを振りかざし、腰を低くして疾走を開始した。
普段のおどけた様子からは想像もつかないほどの速さで明の懐に潜り込み、ナイフを素早く振り下ろす。
一閃。
まさに紙一重のところで、明はぎりぎり上半身を逸らしてナイフの一撃を避けた。
避けきれなかった髪が数本宙を舞っていくのが視界に映る。しかしそれを眺めている間もなく、佐久間が勢いよくナイフを薙いできた。
明はすぐに後ろへと飛び跳ね、それと同時にポケットから布巾を取り出し佐久間に投げつけた。
布巾に何か仕掛けでもあると勘ぐったのか。佐久間も大きく後退し、明から距離を取る。
その間に明は神楽耶へ向かい大声で、「俺の後ろから決して出るな!」と言い放った。
神楽耶は反射的に「はい!」と答えると、佐久間の追撃が再開する前に明の背後へと逃げ込んだ。
状況は振出しに戻り、佐久間は改めて腰をかがめ、駆けだす体勢を作る。
先の動きから見ても、このまま戦い続けるのは分が悪い。
明は必死に頭を働かせ、少しでも時間を稼ごうと佐久間に声をかけた。
「おい待て。突然何のつもりだ。信じてもらえそうにないから殺すなんて、狂人の発想だぞ。深呼吸でもして正気に戻れ」
「そうです、いったん落ち着いてください! このゲームは暴力禁止なんですよ。ナイフで私たちに怪我を負わせれば、その時点で佐久間さん自身が死ぬことになるんですよ!」
神楽耶も顔を強張らせつつ、明に追従して言う。
そんな二人の呼びかけを受け、佐久間は走り出そうとしていた体を起こした。しかし、それは自身の愚かさに気づいたからではなかった。勝利を確信しているが故の、絶対的な余裕が彼の動きを止めたのだ。
皮肉気な笑みを浮かべ、佐久間は二人の顔を交互に見回した。
「うふふふふ。東郷君も神楽耶さんも必死ですねえ。そんなに私と殺し合うのが怖いのですか。まあそれも当然ですよね。何せあなた方が所持しているスペルは多くても一つだけ。つまり私を殺す術を一切持っていないということなんですから。教祖様か六道君が助けに来るのを待つ以外ないわけですものね。
ああそれから神楽耶さん。このナイフにはスペルで作り出した毒が塗ってあるため、お二人を傷つけてもルール違反になることはありませんよ。なので残念ながら、その説得はあまり意味を持ちませんね」
あっさりと語られた核心を突く発言に、明も神楽耶も思わず体を硬直させる。その反応が既に答えとなってしまっただろうが、明は一応反論を試みた。
「……何を言っている。ナイフの件はともかく、俺たちがスペルを使わないのは、単にカウンタースペルを恐れているからだ。スペルならまだ残っているに決まってるだろ」
「うふふふふ。認めたくないのは分かりますが、もうばれているので否定しても無意味ですよ。簡単な消去法とちょっとした推理で、あなた方がスペルを持っていないことは導けてしまいますからね」
嗜虐心を露わにした表情で、佐久間は二人を見下ろしてくる。
はったりを言っているとは思えない堂々とした態度に、明と神楽耶の背中を冷や汗が伝う。
現状こちらの残存スペルとその能力が他のプレイヤーにばれてはいない、というのが明たちの考えだった。それは当然、誰かの前でスペルを披露したこともなければ、明たちが犯した殺人に気づいている者もいない様子だったからだ。
にもかかわらず、佐久間はこちらの所持スペル数を正確に把握してきている。
何が佐久間に気づきを与えてしまったのか。
明はすばやく思考を巡らし、自身が何を見落としているのかを模索する。そして偶然目に入った架城の死体から、今がどういった状況なのかをようやく理解した。
自身の失態に気づき、明の眉間に深いしわが刻まれる。
佐久間はそんな明の様子を見ながら、歌うように推理を口ずさみ始めた。
「野田は一井に殺された。一井は橋爪に殺された。藤城を殺した者は君たちではない。宮城を殺したのは姫宮さん。姫宮さんと秋華さんを殺した者も、状況的に君たちではない。さらに架城さんの死因は毒によるもの。これも君たちがやったとは思えない。となると唯一君たちが、殺したと思われるのは橋爪雅史、ただ一人。
さてさてすると、そうすると。君たちはまだ、三つスペルを保持しているようにも思われる。しかしこれは、おかしいこととすぐわかる。もし三つもキラースペルを所持しているならば、そのうち二つを使用して、二人殺してしまえば残りは三人。君たちの勝利でゲームは終了しているはずですから。なのにそうはしていない。ではではそれは、一体なぜか?」
「……私たちのスペルが即死スペルじゃなかっただけの話じゃないですか」
神楽耶がせめてもの抵抗としてそう問いかける。
だが、佐久間は余裕の笑みを浮かべたままゆるゆると首を横に振った。
「神楽耶さん、残念ながらその可能性は低いのですよ。即死スペルでないということは、一井君のように武器を召喚するなどして、殺せる機会を増やすスペルであるということ。そしてもしそんなスペルを持っているなら、私のカウンタースペルなど恐れずに、とっくに襲ってきていることでしょう。なのにそれもしていない――
つまりあなた方は、即死系スペルも召喚系スペルも所持していないということになります」
歌うような口調から一転。犯人を追い詰める探偵のように鋭い声で、佐久間はそう断定してきた。
最初から分かっていたことではあるが、佐久間の頭は悪くない。むしろ優れているとさえ言える。
それにも関わらずうかうかと近づき、攻撃される直前まで危機感を抱いていなかった――抱けなかったのは、佐久間の術中にはまっていた証拠であろう。
今更悔やんでも意味はない。しかし悔やまずにはいられない。
表面上は平静を装いつつも、明の鼓動は苛立ちと緊張から高まっていく。
一方佐久間は自身の推理に酔い始めたのか、探偵口調のまま恍惚とした表情で語りを続けた。
「さてそうすると、再びとある疑問に直面します。それはお二方がいつスペルを使用されたのかという疑問。しかしこちらもある一つの謎と私の知識を足し合わせることにより、明確な解に辿り着きました。
なぜ、東郷君と神楽耶さんは初日も初日。私主催の自己紹介をする前からチームを組めていたのか。一見する限りでは全く善人に見えない東郷君に、どうして殺人者を嫌悪する神楽耶さんが仲間となることを了承したのか。
実は私、姫宮さんからこんな話を聞いていたのですよ。神楽耶さんが東郷君とチームを組んだのは、生き残れる可能性を高める策を提示し、そのことを納得させてくれたからだと。
この話、深く考えずに聞いたのなら、東郷君の持つキラースペルがゲームを高確率で攻略できる強力なものだった、とか。主催者も気づいていないような裏技を教え、仲間になるメリットを提示したのだろう――と推測されます。
しかし、これはよく考えると前提から間違っています。神楽耶さんの立場からしてみれば、どれだけ生き残る確率が高そうな策を提示されたとしても、それで東郷君の仲間になろうとは思えないはず。むしろそんな優秀な相手では、自分を利用するだけ利用して殺すのではないかと警戒することでしょう。
つまり、神楽耶さんを勧誘する際にまず突破しないといけない課題として、自身が裏切らないという絶対の保証を示すことが必要とされるのです。普通ならそれは叶え難い課題でしょうが、このゲームのルールを考えれば不可能ではありません。
そう! どちらか一方が全てのスペルを使い切り、それ以降パートナーと常に行動を共にすることで――」
バン
佐久間の語りを遮り、小さく館中に響く銃声。
銃弾は佐久間が持っていたナイフのみを正確に撃ち抜き、彼の手から武器を奪い去った。
何が起きたか分からない様子で、佐久間は瞬きを繰り返す。
明は銃の照準をそんな佐久間の眉間に合わせ、底冷えする声で言い放った。
「そこまで知られていたのなら、生かしてはおけないな。悪いが、今すぐに殺させてもらうぞ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる