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終焉の銃声響く五日目
次会う時は
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数秒、いや、数十秒の沈黙の後、明は口を開くことなく壁から背を離した。
びくりと体を震わせる神楽耶をよそに、明は無言のまま佐久間の死体に近づき、彼の服を掴んだ。そしてそれをずるずると引きずって、一番近くの部屋の前まで運んでいく。
マスターキーを利用して部屋の扉を開け、中に佐久間の死体を投げ込む。すぐさま扉を閉め鍵をかけた。
一連の行動を呆然と眺めていた神楽耶は、状況を把握できずに明に問いかけた。
「えっと、その、質問の答えは――」
「これで六道には佐久間が死んでいるかどうかわからなくなった。あいつが俺たちと遭遇した際、スペルを唱えてすぐに殺そうとしてくる可能性はほぼゼロになったな」
今度は明が神楽耶の言葉を遮り、話を展開する。
明のその発言がこの場でどんな意味を持つのか、それに気づけないほど神楽耶は馬鹿ではない。
一瞬目を潤ませ、次の瞬間には大きく頭を下げていた。
「有難うございます……! ずっと私の分まで戦い続けてくれてて、いい加減信じてもいいんだって分かってるはずなのに……ここまで来てもこんなことを言って余計な心遣いを……。こんなこと聞かなくても、本当に殺すつもりでいるならとっくに殺されているのだって分かり切ってるのに……」
「別に謝る必要なんてない。お前の立場なら、実際にゲームから生き残るまでその疑問は続いてしかるべきだからな。まして終盤は、ただでさえ裏切りが起こりやすくなる場面だ。むしろお前の気持ちを考えず、淡々とことを進めようとしていた俺の方にこそ非がある」
裏切らない、という言葉に意味はない。
口で何度その言葉を繰り返そうとも、本当に裏切らない保証にはなりえない。むしろ、口にすればするほど言葉の重みは薄れていってしまう。
それゆえ、裏切らないことを保証するには、行動をもって相手に信じてもらうほかない。
そんなことはとっくに理解していたはずなのに、残りのプレイヤーが四人になった際の神楽耶への対応を何も考えないでいた。本当に無能というしかない。
明は自分自身に大きく嘆息する。それから気を取り直すように首を振ると、神楽耶に目を向けた。
「ところで神楽耶。お前の方こそこれからどうする。このまま俺についてくるのか?」
「え! 私は勿論東郷さんを裏切ったりしませんよ! そもそも私では東郷さんを殺せませんし、今更別のプレイヤーとチームを組む理由もありません」
こちらの意図をやや誤解して、神楽耶が慌ててそう言い募る。明とて、今更神楽耶が裏切るとは思っていない。実際そんなことをするメリットが彼女にはないからだ。
どうにも言葉足らずな自分に苛立ちつつ、明は「そういう話じゃない」と短く息を吐いた。
「お前が裏切るだなんてことは考えていない。俺が言いたいのは、この先の六道との戦いに付いてくるのかどうかについてだ」
「ああ、そういうことでしたか……」
ほっとした様子で神楽耶は胸をなでおろす。
明は手に持っていた血命館のマスターキーを翳しながら言った。
「正直ここまで来れば、わざわざ行動を共にする必要性もないと思う。特に今はこのマスターキーがあるからな。俺たちが本来なら入れないであろう秋華や姫宮の部屋にでも忍び込んで鍵をかけておけば、まず見つかる心配はない。何かきっかけがあって六道が残りのメンバーが四人であることに気づいたとしても、その場にいなければ狙われることはないだろうしな。確実に生き残るためにはどこか部屋に籠っているのが最善だ」
――まあそれも、神楽耶が俺のことを信じられるならの話だが。
心の中で最後にそんな呟きを加えつつ、明は神楽耶の表情を窺う。
予想通りというべきか、安堵ともどかしさがないまぜになった顔で神楽耶は思い悩み始めた。
仕方のないこととはいえ、幸せとは程遠い表情ばかり強いさせていることが残念に感じられる。
ゲームをクリアしてこの館を出てしまえば、おそらく二度と再び会うことはないだろう。別れる前にできれば一度、彼女の心からの笑顔を見てみたい。しかし優しすぎる彼女では、たとえゲームを無事にクリアしたとしても、心からの笑顔を浮かべられるとは思えない。むしろ死んでいった人たちに対し、そして最後まで何もしなかった自分に対し、悲痛な表情を浮かべることだろう。
かなり場違いではあるが、最後の戦いに出向く前にとびっきりのスマイルを要求してみるのもありかと、くだらない考えが頭をよぎる。
けれど、そんな馬鹿げた提案をするより早く、神楽耶は自分のとる行動を決断してしまった。
「最後の最後まで頼りっぱなしで本当に申し訳ないですけど、私は秋華さんの部屋に隠れていたいと思います。さっきの佐久間さんとの対決のように、六道さんも武器を使って襲ってくるかもしれない。その時に私がいては東郷さんの足手まといになってしまいます。ですから、残りの時間は、東郷さんがゲームに勝ってくれるまでじっと待ち続けます」
「……そうか。ならできるだけすぐに、決着をつけないとな」
明は持っていたマスターキーを神楽耶に渡す。
神楽耶はそれをぎゅと握りしめてから、上目遣いに明を見上げてきた。
「それから、別れる前に一度――」
ガシャン!!
唐突に、ガラスをたたき割ったような音が鳴り響いた。
驚いて二人は周りを見回すが、少なくとも見える範囲では何も変化はない。
そうして戸惑っていると、今度は椅子を壁に叩きつけたかのような鈍い音が聞こえてきた。
先ほどとは違い音に対して集中していたため、それが鬼道院の部屋がある方から聞こえてきたことに気づく。
するとさらに、食器が割れるような音が連続して鳴り響いた。
明と神楽耶は顔を見合せ、どうするか目で問い合う。
この状況で秋華の部屋まで一人で行かせるのはリスクが高いように思え、佐久間を投げ込んだのとは別のできるだけ近い部屋を指さし、そこに隠れているようジェスチャーする。
神楽耶は小さく首を縦に振ると、油断なくその部屋に近づき、鍵を使って扉を開けた。そして部屋に入る直前、明に向かって深々とお辞儀をした。
次に会う時はおそらくゲーム終了後。
場合によってはこれが今生の別れとなるかもしれない。
ここまで自分を助けてくれた明への深い感謝の念からか、神楽耶は中々頭を上げない。新たに破裂音が聞こえた所でようやく顔を上げ、最後にもう一度だけ明の瞳をしっかり見据えてから小さく頭を下げる。
そして静かに扉を閉めると、中からしっかり鍵をかけた。
びくりと体を震わせる神楽耶をよそに、明は無言のまま佐久間の死体に近づき、彼の服を掴んだ。そしてそれをずるずると引きずって、一番近くの部屋の前まで運んでいく。
マスターキーを利用して部屋の扉を開け、中に佐久間の死体を投げ込む。すぐさま扉を閉め鍵をかけた。
一連の行動を呆然と眺めていた神楽耶は、状況を把握できずに明に問いかけた。
「えっと、その、質問の答えは――」
「これで六道には佐久間が死んでいるかどうかわからなくなった。あいつが俺たちと遭遇した際、スペルを唱えてすぐに殺そうとしてくる可能性はほぼゼロになったな」
今度は明が神楽耶の言葉を遮り、話を展開する。
明のその発言がこの場でどんな意味を持つのか、それに気づけないほど神楽耶は馬鹿ではない。
一瞬目を潤ませ、次の瞬間には大きく頭を下げていた。
「有難うございます……! ずっと私の分まで戦い続けてくれてて、いい加減信じてもいいんだって分かってるはずなのに……ここまで来てもこんなことを言って余計な心遣いを……。こんなこと聞かなくても、本当に殺すつもりでいるならとっくに殺されているのだって分かり切ってるのに……」
「別に謝る必要なんてない。お前の立場なら、実際にゲームから生き残るまでその疑問は続いてしかるべきだからな。まして終盤は、ただでさえ裏切りが起こりやすくなる場面だ。むしろお前の気持ちを考えず、淡々とことを進めようとしていた俺の方にこそ非がある」
裏切らない、という言葉に意味はない。
口で何度その言葉を繰り返そうとも、本当に裏切らない保証にはなりえない。むしろ、口にすればするほど言葉の重みは薄れていってしまう。
それゆえ、裏切らないことを保証するには、行動をもって相手に信じてもらうほかない。
そんなことはとっくに理解していたはずなのに、残りのプレイヤーが四人になった際の神楽耶への対応を何も考えないでいた。本当に無能というしかない。
明は自分自身に大きく嘆息する。それから気を取り直すように首を振ると、神楽耶に目を向けた。
「ところで神楽耶。お前の方こそこれからどうする。このまま俺についてくるのか?」
「え! 私は勿論東郷さんを裏切ったりしませんよ! そもそも私では東郷さんを殺せませんし、今更別のプレイヤーとチームを組む理由もありません」
こちらの意図をやや誤解して、神楽耶が慌ててそう言い募る。明とて、今更神楽耶が裏切るとは思っていない。実際そんなことをするメリットが彼女にはないからだ。
どうにも言葉足らずな自分に苛立ちつつ、明は「そういう話じゃない」と短く息を吐いた。
「お前が裏切るだなんてことは考えていない。俺が言いたいのは、この先の六道との戦いに付いてくるのかどうかについてだ」
「ああ、そういうことでしたか……」
ほっとした様子で神楽耶は胸をなでおろす。
明は手に持っていた血命館のマスターキーを翳しながら言った。
「正直ここまで来れば、わざわざ行動を共にする必要性もないと思う。特に今はこのマスターキーがあるからな。俺たちが本来なら入れないであろう秋華や姫宮の部屋にでも忍び込んで鍵をかけておけば、まず見つかる心配はない。何かきっかけがあって六道が残りのメンバーが四人であることに気づいたとしても、その場にいなければ狙われることはないだろうしな。確実に生き残るためにはどこか部屋に籠っているのが最善だ」
――まあそれも、神楽耶が俺のことを信じられるならの話だが。
心の中で最後にそんな呟きを加えつつ、明は神楽耶の表情を窺う。
予想通りというべきか、安堵ともどかしさがないまぜになった顔で神楽耶は思い悩み始めた。
仕方のないこととはいえ、幸せとは程遠い表情ばかり強いさせていることが残念に感じられる。
ゲームをクリアしてこの館を出てしまえば、おそらく二度と再び会うことはないだろう。別れる前にできれば一度、彼女の心からの笑顔を見てみたい。しかし優しすぎる彼女では、たとえゲームを無事にクリアしたとしても、心からの笑顔を浮かべられるとは思えない。むしろ死んでいった人たちに対し、そして最後まで何もしなかった自分に対し、悲痛な表情を浮かべることだろう。
かなり場違いではあるが、最後の戦いに出向く前にとびっきりのスマイルを要求してみるのもありかと、くだらない考えが頭をよぎる。
けれど、そんな馬鹿げた提案をするより早く、神楽耶は自分のとる行動を決断してしまった。
「最後の最後まで頼りっぱなしで本当に申し訳ないですけど、私は秋華さんの部屋に隠れていたいと思います。さっきの佐久間さんとの対決のように、六道さんも武器を使って襲ってくるかもしれない。その時に私がいては東郷さんの足手まといになってしまいます。ですから、残りの時間は、東郷さんがゲームに勝ってくれるまでじっと待ち続けます」
「……そうか。ならできるだけすぐに、決着をつけないとな」
明は持っていたマスターキーを神楽耶に渡す。
神楽耶はそれをぎゅと握りしめてから、上目遣いに明を見上げてきた。
「それから、別れる前に一度――」
ガシャン!!
唐突に、ガラスをたたき割ったような音が鳴り響いた。
驚いて二人は周りを見回すが、少なくとも見える範囲では何も変化はない。
そうして戸惑っていると、今度は椅子を壁に叩きつけたかのような鈍い音が聞こえてきた。
先ほどとは違い音に対して集中していたため、それが鬼道院の部屋がある方から聞こえてきたことに気づく。
するとさらに、食器が割れるような音が連続して鳴り響いた。
明と神楽耶は顔を見合せ、どうするか目で問い合う。
この状況で秋華の部屋まで一人で行かせるのはリスクが高いように思え、佐久間を投げ込んだのとは別のできるだけ近い部屋を指さし、そこに隠れているようジェスチャーする。
神楽耶は小さく首を縦に振ると、油断なくその部屋に近づき、鍵を使って扉を開けた。そして部屋に入る直前、明に向かって深々とお辞儀をした。
次に会う時はおそらくゲーム終了後。
場合によってはこれが今生の別れとなるかもしれない。
ここまで自分を助けてくれた明への深い感謝の念からか、神楽耶は中々頭を上げない。新たに破裂音が聞こえた所でようやく顔を上げ、最後にもう一度だけ明の瞳をしっかり見据えてから小さく頭を下げる。
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