366日の愛の花束

辛已奈美(かのうみなみ)

文字の大きさ
7 / 60
1月

1月6日 マンサク

しおりを挟む
早春の山道、まだ雪解けしきらない斜面に、鮮やかな黄色の花をつけたマンサクが咲いていた。 その黄金色の輝きに目を奪われたのは、絵を描くのが趣味の、一人暮らしの準備のためにこっちに来たばかりの大学生、楓だった。

楓は、目を奪われて以来毎年この場所でスケッチをするのが習慣になっていた。そして大学を卒業した今年も、マンサクの枝ぶりをいつものように丹念に描き留めようとしていた。すると、視線の先に、同じようにマンサクを眺めている青年がいた。背が高く、落ち着いた雰囲気の、おそらく楓と同年代と考えられる彼は、スケッチブックを膝に抱え、真剣な眼差しでマンサクを捉えていた。

楓は、今までには見たことがない青年が、楓と同じくマンサクを真剣に見ているところに共感して、勇気を振り絞って声をかけた。「このマンサクとても素敵ですよね。」

見知らぬ女性に、急に声をかけられた青年は少し驚いた様子だったが、すぐに優しい笑顔を見せた。「声をかけていただきありがとうございます。僕も素敵だと思います。この鮮やかな黄色は、春の訪れを感じさせてくれますね。」

二人はそのままずっと言葉を交わしていた。気が付けばマンサクについて、絵を描くことについて、そして互いのことについて語り合っていた。青年は拓也と名乗り、植物学者を目指しているという。今日は植物学者になるという、目標をかなえるための研究用にマンサクの観察と、帰った後に使うための絵をスケッチしに来たという。楓は、拓也の穏やかな語り口と、マンサクへの深い愛情に惹かれた。

日が暮れ始め、別れ際に拓也は言った。「来年も、ここに同じようにマンサクが咲きます。もし、よろしければ、またここで会いませんか?」楓は「ぜひ会いたいです。」と答え、二人はあえて連絡先の交替など今後の連絡手段を作らないで、それぞれの家に帰っていった。

楓は、来年もマンサクの下で会うという約束に、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。黄色の花びらのように鮮やかな希望が、彼女の心の中に芽生えた。来年、同じ場所で、同じマンサクを前に、再び拓也と出会えることを願って。 マンサクの黄金色の輝きは、二人の心に芽生えかけた恋の証人になった。










1月6日
誕生花:マンサク
花言葉:ひらめき
    神秘
    幸福の再来
科・属:マンサク科・マンサク属
和名・別名:万作
      満作




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...