366日の愛の花束

１月

１月１２日 キンセンカ

陽だまりに咲くキンセンカのオレンジ色の花びらは、茜色の夕暮れのように、彼の瞳の色をしていた。高校１年生の夏、同級生より少し遅れて美術部の体験入部を行ったときに、私は彼、理久先輩に出会った。美術部室の片隅で、古びた画架の前に立っていた彼は、真剣な眼差しでキャンバスに向かっていた。その姿は、まるで静物画の中に閉じ込められた、美しい彫刻のようだった。

理久先輩は寡黙で、言葉は少ないけれど、彼の描く絵には、溢れんばかりの情熱が宿っていた。特にキンセンカの絵は、彼の代表作とも言えるほど、何度も描き重ねられていた。花瓶に生けてあるもの、一面の花畑になっているもの、一輪だけが中央に大きく描かれているもの。描かれ方も様々なキンセンカの、鮮やかなオレンジ、繊細な花びら、そして、中心の深い褐色。その絵を見ていると、彼の心の奥底にある、誰にも見せない絵に対する熱い想いが伝わってくるようだった。

ある日、私は勇気を振り絞って彼に声をかけた。「絵を描いている途中に話しかけてすみません。理久先輩が描かれているキンセンカの絵、すごく素敵ですね。」彼の視線が、描いていたキャンバスから私へと移った。一瞬、戸惑ったような表情を見せた後、彼は静かに微笑んだ。その笑顔は、キンセンカの花びらのように、柔らかく、温かかった。

理久先輩の絵をもっと見てみたい、理久先輩のような絵を私も描きたい、と理久先輩にあこがれて私は、美術部に入部した。入部してみると、もともと美術部員が少ないうえに、部活動に熱心な生徒は少なく、美術部室には理久先輩と私しかいない日もあった。

そのような状況の中で、私たちは、美術部室で、絵を描いたり、話をしたりするようになった。理久先輩の言葉は少ないけれど、彼の絵を通して、彼の想いを、彼の心を、私は少しずつ知っていくことができた。キンセンカの絵は、彼が私に伝える、静かな恋の告白だったのだ。秋の風が吹き抜ける頃、理久先輩は、キンセンカの絵を私にプレゼントしてくれた。その絵には、彼の想いが、そして、私の未来への希望が、鮮やかに描かれていた。その絵は、今も私の宝物であり、私と彼の、永遠の誓いとなっている。










1月12日
誕生花：キンセンカ
花言葉：別れの悲しみ
　　　　忍ぶ恋
科・属： キク科・キンセンカ属
和名・別名： 金盞花
　　　　　　カレンデュラ
　　　　　　ポットマリーゴールド
　　　　　　トウキンセンカ