366日の愛の花束

辛已奈美(かのうみなみ)

文字の大きさ
56 / 60
2月

2月23日 コブシ

しおりを挟む
春の陽射しが、まだ冷たい空気を温め始めた頃。高校三年生の麻友は、通学路にある老木のコブシの木に、毎朝寄り添っていた。そのコブシの木は、彼女にとって、忘れられない恋の証だった。

毎朝コブシの木に寄り添うたびに、麻友の心は微かに切なく締め付けられた。木のそばに立つと、翔一との記憶が鮮やかに蘇り、彼の温かな手の感触や、心の奥底から溢れ出した幸福感が鮮明に思い出される。彼女の心には、まだその日々が色褪せることなく息づいていた。

一年前に、麻友は同じクラスの翔一と恋に落ちた。翔一は、絵を描くのが得意で、いつもスケッチブックを携えていた。ある日、麻友は翔一がコブシの木の下で、熱心にコブシの花を描いているのを見つけた。純白の花びらと、力強い枝ぶりのコントラスト。翔一の描くコブシは、麻友の心にも春の芽を吹き込んだ。

その時の麻友の心は、未知の感情に揺さぶられた。彼の真剣な表情、手にこもる力強さ、そして花の美しさに魅了され、自分の中に新たな感情が芽生えたことに気づいた。麻友の胸は、初めての恋の予感に弾んだ。

二人は、そのコブシの木の下で、初めてのキスをした。淡いピンク色の花びらが、二人の頬に触れた。しかし、夏休みに翔一は、美術系の専門学校へ進学するため、東京へ引っ越してしまった。最後にあったときに、「また、ここで、一緒に春を迎えよう。」と翔一は言った。

その瞬間、麻友の心には、喜びと寂しさが交錯した。初めてのキスは、まるで夢のように甘美で、その瞬間が永遠に続くことを願った。しかし、別れの言葉を聞いたとき、現実の重さが彼女の心にのしかかった。「また会える」と信じたい気持ちと、翔一が遠くに行ってしまう現実の間で揺れ動いた。

それから一年半。麻友は、コブシの木に毎日訪れ、翔一を想っていた。冬を越え、再び花を咲かせたコブシの木は、まるで翔一の帰りを待っているかのようだった。

麻友は、毎日のようにコブシの木に話しかけ、心の中の孤独を癒していた。彼女は自分自身に問いかけながら、翔一との再会を夢見ていた。「彼は今、何をしているのだろうか?私のことを覚えているのだろうか?」そんな思いが彼女の心を支配した。

卒業式の朝、麻友はいつものようにコブシの木の下にいた。すると、背後から聞き慣れた声がした。「麻友…」。振り返ると、そこには、少し大人びた表情の翔一が立っていた。一年ぶりの再会に、麻友は涙が止まらなかった。

麻友の心は、再び温かさと喜びに満たされた。翔一の声を聞いた瞬間、一年分の孤独と寂しさが一気に解き放たれ、涙が溢れ出した。翔一の顔を見たとき、麻友は彼に対する想いが変わらないことを確信した。

「麻友、待っていてくれてありがとう」と翔一は、少し照れくさそうに微笑み、小さなスケッチブックを差し出した。そこには、麻友とコブシの木が、美しく描かれていた。麻友は、コブシの花びらが舞う中、翔一の手を握った。再び、春の芽が二人の心に芽生えたのだった。

そのスケッチブックを手に取った瞬間、麻友は言葉にできない感動を覚えた。翔一が描いた絵には、彼の想いと共に、彼女への深い愛情が込められていた。コブシの花びらが舞う中、麻友と翔一の心は再び一つになり、春の芽が再び二人の心に芽生えた。










2月23日
誕生花:コブシ
花言葉:友情
    歓迎
科・属:モクレン科・モクレン属
和名・別名:辛夷




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...