私の使い魔がたわしだった件

雷庵

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九話 よう、先生ひるまねぇな?

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 アリスのいる教室の異常事態に気づいた40歳独身男の先生は教室に足を踏み入れる。

「何をしているお前たち、騒がしいぞ」

「あ、ドリュゲラス先生! おはようございます!」

 女生徒たちはドリュゲラス先生と呼ばれた男に黄色い声をあげる。それもそのはず、このドリュゲラスもイケメンであった。黒髪ロングストレートで切れ長の目でスクエアの眼鏡をかけており、それでいて独特の声質が女生徒たちの人気の理由だった。しかしアリスはドリュゲラスに興味をもっておらず、むしろ嫌悪感すら抱いていた。

「げ、ドリュゲラス先生じゃん……また黄色い声に鼻の下伸ばしててなんか嫌なのよね」

「ほんとアリスったら先生嫌いよね、まぁ私は面食いだからイケメンだったらなんでもいいけど」

 アリスは明らかに嫌な顔をする反面、ディニーはだらしない顔でドリュゲラスに視線を移していた。しかしそんな日常をものともしないドリュゲラスはさっそく空中に浮いているたわしを発見する。無言で窓に近づきたわしを凝視する、するとたわしはドリュゲラスにウインクを飛ばしサムアップして見せた。

「よう、イケメン! 俺はたわしっていうんだ、よろしくな!」

「な……たわしが喋る、だと……」

 ドリュゲラスは感嘆の声を上げる。そして強く興味を持ったかのように窓から身を乗り出す。

「お、おい! 君の名前は!?」

 しかしその問いに答えたのはたわしではなくアリスであった。たわしが発声する直前、アリスがアイコンタクトで制止したのだ。

「あれはたわし、私の使い魔です。お騒がせしてすいません」

 アリスは深々と頭を下げる。しかしそんな事でドリュゲラスの興味が潰える事はなく、ドリュゲラスはアリスの肩を両手でガシっとつかむと興奮気味に

「たわしだと!? そんな使い魔初めて聞いたぞ! どういうことか教えてくれないか!?」

 抑えきれぬ衝動にかられ知的好奇心を満たしたく声を上げるドリュゲラス、だがアリスは開口一番

「ツバとんでますよ、汚い!」

 顔についたツバをハンカチで拭いながら、心底嫌そうな顔をするアリスであった。ドリュゲラスは悪びれもせず質問を続ける。興奮状態に近いおっさんのツバ攻撃にアリスは切れそうになっていた。その時たわしが突然ドリュゲラスとアリスの顔の間に瞬間移動してくる。そしてドリュゲラスをきつくにらみつける。

「あんた……うちのマスターになにをしているんだ? 滅するぞ」

 たわしはその顔と身体にそぐわないドスのきいた声を出す。しかしドリュゲラスはひるまない。

「た、たわし君! 今君突然現れたけど、どうやったの? なにをしたの!?」

 ドリュゲラスはアリスの肩から両手を放すとたわしを両手で捕まえる……その瞬間、たわしは全身に真っ黒な魔法のオーラを放ち始めた。しかしドリュゲラスはひるまない。

「ぐ……こ、この魔力は闇系統……精神や肉体を傷つけるのが得意な系統だね……だが私の好奇心はそんなもので折れないぞ! さあ、諦めて教えたまえたわし君! アリス君でもかまわない!!」

 アリス君でも構わない……この一言でたわしは決めた。こいつは面倒くさいからヤっちまおう……と。念のためアリスのほうを向くとアリスも疲れた表情を浮かべていた。たわし脳としては問題ないという判断に至った。次の瞬間たわしはドリュゲラスの心臓を1秒止めてみることにした。

「うぜぇぇぇぇ! しねぇぇぇぇぇ!!!!!」

 たわしはつい本音をこぼすとドリュゲラスの心臓を1秒止める。心臓の役割は非常に大きく、数秒心臓が止まるだけで人間は意識と反応を失うのだ……通常の人間であれば恐怖におののくはずなのだ……はずなのだ。たわしはひどく驚いた。たしかにドリュゲラスの心臓は止まり、ドリュゲラスの血の気は失せる。意識も薄れたはずなのだ……

「こ、これが君の魔法かい? 凄い、凄いじゃないか……無詠唱で心臓を止めるなんて、それも1秒くらいっていう時間の指定もできるとは! 素晴らしい、素晴らしいぞ……!」

 たわしのみならず、アリスも周りの生徒たちもドン引きしている。いつもはクールイケメンかつ理性的であった先生が、人格が狂ったように変わっているのだ。どちらかと言えばマッドサイエンティストに近い発狂に近い状態だろう。[こいつはヤベーやつ]かもしれない……全員がその思いに至るまで多くの時間を必要としなかった。ドリュゲラスは冷や汗をかきながらも自ら血流の促進を促す魔法を使いつつも、たわしをつかみ目の色を変えて舐めるように見ている。

「はぁ……はぁ……たわしくん、僕と一緒に魔法の研究をしないかね? あぁそうだ、アリス君の使い魔だったね、良ければ君も一緒に研究に参加したまえ。なに、一から私がすべて優しく教えてあげよう、なんだったら私の権限で君に特別卒業証書を送るから専属の研究員になってくれてもかまわない!」

 ドリュゲラスの専攻は魔法創造スペルクリエーションであり、この国の中では有数の魔法創作者スペルクリエーターの一人でもあった。その先生からオファーをもらえたことそのものは素晴らしい事なのだが……アリスは大きくため息をつくと同時に、たわしも大きくため息を、二人の大きなため息は美しいほどにシンクロした。

(あの、アリス? 王立魔法研究員のほうが安全だとおもうぞ……)

 クロードは一連の流れをただただ茫然と聞くほかなかった、ただただそう思う他なかった。
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