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夜の王都1
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「フレデリック殿下!!」
突然、蹴破らんばかりの勢いで扉が開く。
「――なっ?」
一糸纏わぬ姿のリーンとベッドの上で戯れていたフレデリックの元に、血相を変えた近衛兵が駆け込んできた。
王国を揺るがす一大事に、近衛兵は挨拶もなく片膝をつく。
「貴様あっ! 許可もなく入ってくるとは不敬であるぞ!」
しかし、フレデリックの怒りは近衛兵の言葉で瞬時に消え去った。
「魔物がっ! 魔物の群れが、王都に侵入しました!」
「な、なんだと!?」
飛び起きたフレデリックは、信じられないといった表情で固まっている。
リーンを聖女として、微塵も疑っていないからだ。そのリーンはフレデリックの隣で、シーツを被り怯えている。
「……フン。狼か野良犬の群れを、魔物と見間違えているのだろう?」
「狼型の魔物も確認されています」
「だから、それを魔物と勘違いしているだけだ」
「ですが、ゴブリンやオークもいるのです」
夜の暗がりでも、さすがにオークを人間と見間違えるのは無理がある。
「ば、馬鹿な。あり得ん!」
「実際に門兵たちと戦闘になっており、死傷者もでています」
「…………っ」
いよいよ認めざるを得なくなったフレデリックは、ようやく愛するリーンに視線を向けた。
「リーンよ。今日まで魔物の侵入を阻んできた聖女の結界はどうなっているのだ?」
どうもこうも聖女ではないのだから、リーンには答えようがない。いつものように、愛嬌を振りまいて誤魔化すことにした。
「え~っとぉ……なくなっちゃった? かも? エヘヘッ」
「笑いごとではない! 民衆に被害が出ているのだぞ!」
「だって……わからないんだもん」
初めてフレデリックに強い言葉で責められ、リーンが泣きそうな顔になる。
「う、う~む。どうしたものか……聖女の力が弱まっているのか?」
これ以上、リーンに詰め寄って泣かれては困る。苛立ちを抑えたフレデリックはベッドから下り着替え始めた。
「フレデリック様……」
聖女ではないとバレたら捨てられてしまう。リーンは必死に考えた。ベルフェルミナのせいにしようにも、王都にはいないのだから義姉のせいにはできない。
「陛下には?」
「はっ! すでに報告しております」
「陛下はどのような対処を?」
「第一騎士団が王都の魔物を排除に、第二、三、四騎士団は近郊の町に向かうことになりました」
「そうだな。王都周辺の町や村も魔物に襲われている可能性は高いだろう。いったい、どれほどの被害になることやら」
「心配なさらずとも、我らエストロニア王国が誇る精鋭揃いの騎士団が、早々に制圧することでありましょう」
平和ボケで実戦経験の無い近衛兵に力強く言われても、フレデリックの不安が取り除かれることはなかった。
「まったく。こんな時にパトリックが休暇とはな。行き先も言わずにフラッと出ていきおって。あいつもよくわからん男だ。俺は陛下の元に行かねばならん。お前は結界をどうにかしてくれ、頼んだぞ」
「う、うん……」
侍女を呼びつけ軍服に着替え終えたフレデリックは、近衛兵を従えて部屋を出ていった。
「――何なのよ! もうっ!」
一人になったリーンが枕を投げつける。
ベルフェルミナがいれば、不都合なことは全て義姉のせいにできた。
国外追放したのは早計だったかもしれない。やはり、牢屋に入れて手の届くところに置いておけばよかった。
どこまでも自分勝手な考えで、リーンは頭を悩ませるのであった。
「はあ……。あいつのせいで結界が消えた言い訳を考えなきゃ」
突然、蹴破らんばかりの勢いで扉が開く。
「――なっ?」
一糸纏わぬ姿のリーンとベッドの上で戯れていたフレデリックの元に、血相を変えた近衛兵が駆け込んできた。
王国を揺るがす一大事に、近衛兵は挨拶もなく片膝をつく。
「貴様あっ! 許可もなく入ってくるとは不敬であるぞ!」
しかし、フレデリックの怒りは近衛兵の言葉で瞬時に消え去った。
「魔物がっ! 魔物の群れが、王都に侵入しました!」
「な、なんだと!?」
飛び起きたフレデリックは、信じられないといった表情で固まっている。
リーンを聖女として、微塵も疑っていないからだ。そのリーンはフレデリックの隣で、シーツを被り怯えている。
「……フン。狼か野良犬の群れを、魔物と見間違えているのだろう?」
「狼型の魔物も確認されています」
「だから、それを魔物と勘違いしているだけだ」
「ですが、ゴブリンやオークもいるのです」
夜の暗がりでも、さすがにオークを人間と見間違えるのは無理がある。
「ば、馬鹿な。あり得ん!」
「実際に門兵たちと戦闘になっており、死傷者もでています」
「…………っ」
いよいよ認めざるを得なくなったフレデリックは、ようやく愛するリーンに視線を向けた。
「リーンよ。今日まで魔物の侵入を阻んできた聖女の結界はどうなっているのだ?」
どうもこうも聖女ではないのだから、リーンには答えようがない。いつものように、愛嬌を振りまいて誤魔化すことにした。
「え~っとぉ……なくなっちゃった? かも? エヘヘッ」
「笑いごとではない! 民衆に被害が出ているのだぞ!」
「だって……わからないんだもん」
初めてフレデリックに強い言葉で責められ、リーンが泣きそうな顔になる。
「う、う~む。どうしたものか……聖女の力が弱まっているのか?」
これ以上、リーンに詰め寄って泣かれては困る。苛立ちを抑えたフレデリックはベッドから下り着替え始めた。
「フレデリック様……」
聖女ではないとバレたら捨てられてしまう。リーンは必死に考えた。ベルフェルミナのせいにしようにも、王都にはいないのだから義姉のせいにはできない。
「陛下には?」
「はっ! すでに報告しております」
「陛下はどのような対処を?」
「第一騎士団が王都の魔物を排除に、第二、三、四騎士団は近郊の町に向かうことになりました」
「そうだな。王都周辺の町や村も魔物に襲われている可能性は高いだろう。いったい、どれほどの被害になることやら」
「心配なさらずとも、我らエストロニア王国が誇る精鋭揃いの騎士団が、早々に制圧することでありましょう」
平和ボケで実戦経験の無い近衛兵に力強く言われても、フレデリックの不安が取り除かれることはなかった。
「まったく。こんな時にパトリックが休暇とはな。行き先も言わずにフラッと出ていきおって。あいつもよくわからん男だ。俺は陛下の元に行かねばならん。お前は結界をどうにかしてくれ、頼んだぞ」
「う、うん……」
侍女を呼びつけ軍服に着替え終えたフレデリックは、近衛兵を従えて部屋を出ていった。
「――何なのよ! もうっ!」
一人になったリーンが枕を投げつける。
ベルフェルミナがいれば、不都合なことは全て義姉のせいにできた。
国外追放したのは早計だったかもしれない。やはり、牢屋に入れて手の届くところに置いておけばよかった。
どこまでも自分勝手な考えで、リーンは頭を悩ませるのであった。
「はあ……。あいつのせいで結界が消えた言い訳を考えなきゃ」
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