3 / 3
2話
しおりを挟む
物理的に馬車をどうにもできないなら、南京錠をどうにかできれば多少の怪我を覚悟で飛び降りる事ができるのではないかしら。わたくしの得意な魔法は土。空でも飛ばない限り有利な状況です。
先の尖った石の礫を魔力で作り出し連続で南京錠に当てようと試みますが、私からは南京錠が見えにくく、また馬車も高速で動いているため壊すに至りません。4度目の挑戦をしたところで騎士に扮した男達に気付かれ、南京錠にも強化魔法が付与されてしまいました。ああ!わたくしが状態異常魔法さえ使えていれば金属を脆くして破壊しやすくできましたのに!
再度悔しさに苛まれながら、おそらく追ってきているであろう侯爵家の私兵たちへの目印として、馬車が通った轍を強化・硬化して消えにくくしました。私の魔力も余分に含ませておりますので、我が侯爵家の優秀な魔法士ならば追跡出来ることと思います。
馬車からの脱出が難しいとなると、次の手立てを考えねばなりません。この兵たちが森についたあと私をどうするのか。そのまま置き去りにするのか、それとも直接手を下してくるのか。
王宮から連れ出される際、当然ですが力では敵いませんでした。ならばわたくし自身に身体強化をかけたうえで土煙での目潰しからの逃走が1番かしら。それか地面を槍のように突出させて、鎧の関節部分を狙う…いえ、複数人相手にそのような緻密な操作はわたくしこれまで経験した事がないわ。
馬車の扉部分に極小さく取り付けられている指2本分ほどの窓から取り囲む兵たちの人数を確認します。周りを並走している騎馬兵は6人。御者をしている兵が1人か2人だとして、最少でも7人…。この人数では関節を狙うのは難しいわ。できて足を大地に縫い止めて動けなくさせる事かしら…。
これまで戦闘訓練も受けてきたとはいえ実戦は数えるほど。それも環境をしっかりと整えられたうえでのことでした。緊張と恐怖に自然と呼吸があがり指先が震えます。チャンスは1度きりですわ。きちんと状況を見極める行動を選択しなければ。
わたくしは目を閉じ呼吸を整えます。上手くいくよう何度も頭の中でイメージトレーニングを行い、じっとその時が来るのを待ちます。恐怖は一先ず置いておいて、煮え湯を飲まされた悔しさを活力にしますわ…!
ガタガタと五月蝿い音を立てて馬車は進みます。王都の周囲は石畳が整備されているので揺れは比較的抑えられていましたが、途中から揺れが激しくなり舗装された道が終わったことがわかります。異常な速さです。これは馬たちにも強化魔法をつけていますね。しかも休憩なく進めるよう持続して付与をかけ続ける事のできる優秀な付与魔法士がいるのは間違いありません。
「(ああ、大地の女神様…どうかわたくしに力を貸してくださいませ)」
思わず両手を胸の前で組み、女神に祈りを捧げます。殿下の婚約者としてこれまで教会に慰問などしてきましたが、ここまで真剣に祈りを捧げたことはありません。こんなことになるのでしたら、普段から真面目に祈っておけば良かったですわ。
そうこうしているうちに、馬車が乱暴に止まりました。突然の急停車にわたくしは馬車の床に横倒しになってしまいます。
すぐに体勢をなおさないと!わたくしが床に手をついて上体を起こした瞬間、南京錠が外され扉が開け放たれました。咄嗟に魔力を練り上げ土魔法を放とうとしますが、その前に兵に手を捕まれ引きずり出されます。
立ち上がることもできず左肩から地面に倒れ込むと、うつ伏せに体を抑え込まれました。そのあと両手を後ろに引っ張られたかと思うと、カシャンとなにかを両手首に嵌められました。無理矢理首をひねって背後を確認すると、手首には鈍く光る黒色の石がついた手錠が嵌められていました。
ああ、なんてこと…!
「魔封石の手錠だなんて…!」
頭から血の気が引き、眼の前がチカチカと点滅し始めます。魔法を封じられてしまうと、わたくしにはもう抵抗の手段がありません。その上兵たちは私の両足にも同様の足枷を嵌めました。
そのまま兵に担がれ、森に入る手前の位置から森の中に運ばれます。このように動きを封じられてしまえば、逃げることすら叶いません。呆然としてしまい、暴れることすらできません。
「(わたくし、ここで死ぬのだわ)」
抵抗しようと奮い立たせていた気持ちがすっかり消え失せ、無抵抗なわたくしを確認した兵は無造作にわたくしを投げ落としました。受け身も取れず、わたくしは頭を地面から突き出ていた石に打ち付けました。
ガツン
先の尖った石の礫を魔力で作り出し連続で南京錠に当てようと試みますが、私からは南京錠が見えにくく、また馬車も高速で動いているため壊すに至りません。4度目の挑戦をしたところで騎士に扮した男達に気付かれ、南京錠にも強化魔法が付与されてしまいました。ああ!わたくしが状態異常魔法さえ使えていれば金属を脆くして破壊しやすくできましたのに!
再度悔しさに苛まれながら、おそらく追ってきているであろう侯爵家の私兵たちへの目印として、馬車が通った轍を強化・硬化して消えにくくしました。私の魔力も余分に含ませておりますので、我が侯爵家の優秀な魔法士ならば追跡出来ることと思います。
馬車からの脱出が難しいとなると、次の手立てを考えねばなりません。この兵たちが森についたあと私をどうするのか。そのまま置き去りにするのか、それとも直接手を下してくるのか。
王宮から連れ出される際、当然ですが力では敵いませんでした。ならばわたくし自身に身体強化をかけたうえで土煙での目潰しからの逃走が1番かしら。それか地面を槍のように突出させて、鎧の関節部分を狙う…いえ、複数人相手にそのような緻密な操作はわたくしこれまで経験した事がないわ。
馬車の扉部分に極小さく取り付けられている指2本分ほどの窓から取り囲む兵たちの人数を確認します。周りを並走している騎馬兵は6人。御者をしている兵が1人か2人だとして、最少でも7人…。この人数では関節を狙うのは難しいわ。できて足を大地に縫い止めて動けなくさせる事かしら…。
これまで戦闘訓練も受けてきたとはいえ実戦は数えるほど。それも環境をしっかりと整えられたうえでのことでした。緊張と恐怖に自然と呼吸があがり指先が震えます。チャンスは1度きりですわ。きちんと状況を見極める行動を選択しなければ。
わたくしは目を閉じ呼吸を整えます。上手くいくよう何度も頭の中でイメージトレーニングを行い、じっとその時が来るのを待ちます。恐怖は一先ず置いておいて、煮え湯を飲まされた悔しさを活力にしますわ…!
ガタガタと五月蝿い音を立てて馬車は進みます。王都の周囲は石畳が整備されているので揺れは比較的抑えられていましたが、途中から揺れが激しくなり舗装された道が終わったことがわかります。異常な速さです。これは馬たちにも強化魔法をつけていますね。しかも休憩なく進めるよう持続して付与をかけ続ける事のできる優秀な付与魔法士がいるのは間違いありません。
「(ああ、大地の女神様…どうかわたくしに力を貸してくださいませ)」
思わず両手を胸の前で組み、女神に祈りを捧げます。殿下の婚約者としてこれまで教会に慰問などしてきましたが、ここまで真剣に祈りを捧げたことはありません。こんなことになるのでしたら、普段から真面目に祈っておけば良かったですわ。
そうこうしているうちに、馬車が乱暴に止まりました。突然の急停車にわたくしは馬車の床に横倒しになってしまいます。
すぐに体勢をなおさないと!わたくしが床に手をついて上体を起こした瞬間、南京錠が外され扉が開け放たれました。咄嗟に魔力を練り上げ土魔法を放とうとしますが、その前に兵に手を捕まれ引きずり出されます。
立ち上がることもできず左肩から地面に倒れ込むと、うつ伏せに体を抑え込まれました。そのあと両手を後ろに引っ張られたかと思うと、カシャンとなにかを両手首に嵌められました。無理矢理首をひねって背後を確認すると、手首には鈍く光る黒色の石がついた手錠が嵌められていました。
ああ、なんてこと…!
「魔封石の手錠だなんて…!」
頭から血の気が引き、眼の前がチカチカと点滅し始めます。魔法を封じられてしまうと、わたくしにはもう抵抗の手段がありません。その上兵たちは私の両足にも同様の足枷を嵌めました。
そのまま兵に担がれ、森に入る手前の位置から森の中に運ばれます。このように動きを封じられてしまえば、逃げることすら叶いません。呆然としてしまい、暴れることすらできません。
「(わたくし、ここで死ぬのだわ)」
抵抗しようと奮い立たせていた気持ちがすっかり消え失せ、無抵抗なわたくしを確認した兵は無造作にわたくしを投げ落としました。受け身も取れず、わたくしは頭を地面から突き出ていた石に打ち付けました。
ガツン
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる