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02.強者

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 とてつもない強さの弓を見せられて、ようやくあたしは彼女の正体に気が付いた。バジリスクという高ランク魔物が現れて、応援を要請したという話だ。地元の冒険者には、バジリスクの出没地点に決して近付かないようにギルドからお達しが出た。
 バジリスクの強さ自体は竜に及ばないものの、目が合うと体を硬直させられるという状態異常攻撃が厄介で、Sランク冒険者でも戦いたくない相手だという。
 彼女がこれからバジリスクを倒しに行くところだとしたら、あたしに構っている暇はないだろう。さっと来てさっと倒してしまったんじゃないだろうか。とすると今日ギルドに来たのは討伐報告のためかもしれない。
 ……と、そんなことを考えていると彼女がこっちを見ている。そうだ、あたしが彼女に射を見せろと言った以上、今度はあたしが見せないといけない。
 正直あの強弓を見た後であたしのショボい弓を見せるのは気が重い。でも、彼女はあたしに強くなりたいかと聞いた。あのPTパーティ脱退の経緯を見てて、あたしの実力も察した上で、強くなるためのヒントか何かを与えようとしてるに違いない。彼女に師事するつもりで射を見てもらうしかない。

 余計な荷物を下ろして弓の用意をしている間に、師匠は革の服を着込んでしまった。あたしは立ち位置に立つと、矢を番えて丸太を狙った。
「上から四分の一くらいのところに虫食いの穴があるので、そこを狙ってください」
 師匠にそう言われて目を凝らし、やっと見付けた穴は本当に小さかった。小指の先も入らないくらいだ。でも尖ったやじりの先を入れるくらいならなんとかなるだろう。呼吸を整えて弓を引き、矢を放つと手応えがあった。
(やった!)
「いい射ですね。後はどこを狙ってもいいので、手持ちを全部使ってください。出来るだけ強い矢で」
 あたしには会心の一射だったけど、師匠にとってはこれくらい当たり前なんだろう。気を取り直して次々に矢を放った。師匠はあたしの背中側に立っている。気のせいか、射というよりあたし自身が観察されてるようで落ち着かないけど、雑念を払って射に集中した。最初の矢を中心にして渦巻状に矢を並べていった。

「おいおい、そんな奴から弓を教わってるのか?」
 訓練場に接する道の方から声がした。元いたPTパーティの剣士だ。
(そんな奴って……バジリスクを倒す凄腕の弓師なのに)
 一瞬そう思ったけど、師匠の実力を知らなければ私が教える側に見えるんだろう。つまり、そんな奴とは私のことだ。
「訓練中です。関係ない人は入らないでください」
 訓練場に入り込んできた元PTメンバーに、師匠は言った。けど、魔術師がそのまま歩いて来て立ち位置に立った。
「ここは弓師だけじゃなくて、魔術師も使うのよ? こんな風にね……ファイヤージャベリン!」
 右手を丸太に向けて二拍ほど溜めると火の槍を放った。丸太の上の方は黒焦げになり、刺さっていた矢は消し炭になってしまった。
「子供の火遊びは余所でやってもらえますか」
 師匠はそう言うと、的の方に向かって三本の指を伸ばした。そのまま溜めもなく指先から三本の火の矢が放たれた。矢の速さは師匠が弓で放った矢と同じくらいで、魔術師の火の槍よりもはるかに速い。そして立っている丸太と、半分に裂けて倒れていた丸太に中り、またしても雷のような大音響とともに粉々に砕け散った。
「確かにここは魔術師も使う射場しゃじょうですが、他人が使っている的を勝手に使っていいなどということはありません。お前が駄目にした的の代わりに、お前をあそこに立たせて的にしましょうか?」
「ひぃっ」
 師匠が魔術師の方に腕を上げかけると、魔術師は怯えて後ずさり、転んで尻餅をついた。
「お前、魔術師だったのかよ。なんで弓の訓練なんかしてるんだ? 魔力切れ対策か? 俺のPTに入れよ、弓なら俺が教えてやるよ」
 今度は剣士が勝手なことを言いだした。
「お前がですか? お前たちのPTの弓師だったのは彼女でしょう」
「冒険者になる前は弓も使ってたんだ。上手いもんだぜ」
 一応、弓を使っていたのは本当だ。弓の腕ではあたしに及ばなかったけど。
「この弓を引けたら、話くらいは聞いてあげましょう」
 師匠はそう言って肩にかけていた弓を剣士に差し出した。
「楽勝だぜ」
 剣士はそう言って弓を持ち、弦に指をかけて引いたけど、肘のあたりまで引いたところで顔色が変わった。
「どうしました? こっちは訓練を中断しているんです。さっさとしてくれませんか」
 当たり前だけど、剣士が顔を真っ赤にして力を込めても師匠の強弓を引くことはできない。とうとう剣士の顔は黒ずんできた。
「弓も引けない素人のくせに訓練の邪魔をしに来たんですか? 早くしなさい」
 師匠は剣士の左手首を掴むと、弦にかけた剣士の指に手を被せて強引に広げた。
「ぐああああっ」
 剣士の指が弦の張力に耐え切れずに切断され、ぼとぼとと地面に落ちた。
「大きいのは口だけですか。本当に身の程知らずの雑魚ですね」
 師匠は弓を回収して冷たく言い放った。
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