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かの世界には悪魔がいた。
それらは人々と契約を結び、対価の代わりに契約者の望むものを与えていた。
しかし、大概悪魔との契約には落とし穴が潜んでいる。
悪魔たちはそれを狡猾に隠し、契約者を嵌め、その魂をせしめるのだ。
中でも“大悪魔”と称される者達は、他の悪魔たちとは別格の地位にある。
得られる力も相応だが、同時に失う物も大きいのだ。
今から語る悪魔も、そんな大悪魔の内の一人だ。
かの者の名は『マルキド』。
悪魔の中でも別格の大悪魔であり、魔界随一の戦士でもある。
その容姿は赤き身体に黒い二対の翼、頭の横から伸びる二つの捻じれ角という、正に悪魔といえるものだ。
かつては天使として神に仕えていたものだ。
彼は人々に罰を下し、戒める役目を神から賜っていた。
しかし、ある時からマルキドは罰を与えることに愉悦し、人々を戒めるのではなく“苦しめる”ことに意味を見出すようになった。
そして数多の人々に無意味な加虐を科した末、神から翼を奪われて魔界へと落ちていった。
以来彼は悪魔となり、呼び出したものに“不死”を与えると言い伝えられるようになった……。
――彼を呼び出せば不死が手に入るという話は間違いではない。付け加えるならば、マルキドに不死を与えられた直後、契約者は彼に徹底的に嬲られることになるという点だ。
「不死身になったんだ。幾ら甚振ったって問題ないだろう?」
彼はとにかく人の“悲鳴”を好んだ。
特に追い詰められ、生命の淵に達したときに上げる艶のある悲鳴が大好きだ。
だが、自身の持てる力で人に振るえば、相手はあっという間に肉塊と化してしまう。
だからこそ彼は契約者を不死にした後に加虐を実行するのだ。
大体の契約者は彼の暴力には耐えられず、その上で死ぬことすら許されない。
早々に「不死じゃなくしてくれ!」と叫ぶだろう。
だが、その程度でマルキドが満足する筈がない。
契約者の喉が潰れるまで痛めつけた後、彼の気まぐれで許すか許されるかが決まる。
マルキドが契約者の悲鳴に聞き飽きれば解放され、彼は魔界に帰っていくだろう。
だが、マルキドが契約者の悲鳴を気に入ってしまった場合は最悪だ。
哀れな契約者の魂は魔界へと連れ去られ、永遠にマルキドの為に悲鳴を上げ続けるスピーカーとなってしまうのだから……。
契約者の中には抵抗する者もいた。
名の知れた魔術師ならば、彼の暴行に多少は対抗することも出来たのだ。
だが、マルキドは大悪魔であり、その中でも特に強大な力を持っていた。
ただの人間ではとても太刀打ち出来ない程の力だ。
マルキドが悪魔になってからの2000年間、彼に打ち勝った者は片手で数えられる程しかいない。
だが、そんな数少ない戦士には流石のマルキドも敬意を評し、自身の魔術を伝授したという。
「不死にはしてくれないのか?」という話ではあるが、それはマルキドにも出来かねることなのだ。
そもそも不死にする手法自体が『マルキドが契約者の身体に憑りつく』というものである。
即ち彼を遠ざければ、必然と不死性は失われてしまうのだ。
同時にこれはマルキドにとってもリスクのある方法であった。
彼との契約満了の成立条件は『契約者は不死の権利を放棄する』か『彼を物理的に屈服させる』かのどちらかとなっていた。
故にマルキドはそのどちらかが達成されない限り、魔界に帰ることが出来ず契約者から離れることが出来なくなる。
ただし、彼は大悪魔。
そんな状況はこの2000年の間に一度も訪れることはなかった。
そんな状況になるのは契約者がマルキドの加虐を“喜び”と捉えるような狂人ぐらいである。
――ぐらいであった筈なのだが……。
それらは人々と契約を結び、対価の代わりに契約者の望むものを与えていた。
しかし、大概悪魔との契約には落とし穴が潜んでいる。
悪魔たちはそれを狡猾に隠し、契約者を嵌め、その魂をせしめるのだ。
中でも“大悪魔”と称される者達は、他の悪魔たちとは別格の地位にある。
得られる力も相応だが、同時に失う物も大きいのだ。
今から語る悪魔も、そんな大悪魔の内の一人だ。
かの者の名は『マルキド』。
悪魔の中でも別格の大悪魔であり、魔界随一の戦士でもある。
その容姿は赤き身体に黒い二対の翼、頭の横から伸びる二つの捻じれ角という、正に悪魔といえるものだ。
かつては天使として神に仕えていたものだ。
彼は人々に罰を下し、戒める役目を神から賜っていた。
しかし、ある時からマルキドは罰を与えることに愉悦し、人々を戒めるのではなく“苦しめる”ことに意味を見出すようになった。
そして数多の人々に無意味な加虐を科した末、神から翼を奪われて魔界へと落ちていった。
以来彼は悪魔となり、呼び出したものに“不死”を与えると言い伝えられるようになった……。
――彼を呼び出せば不死が手に入るという話は間違いではない。付け加えるならば、マルキドに不死を与えられた直後、契約者は彼に徹底的に嬲られることになるという点だ。
「不死身になったんだ。幾ら甚振ったって問題ないだろう?」
彼はとにかく人の“悲鳴”を好んだ。
特に追い詰められ、生命の淵に達したときに上げる艶のある悲鳴が大好きだ。
だが、自身の持てる力で人に振るえば、相手はあっという間に肉塊と化してしまう。
だからこそ彼は契約者を不死にした後に加虐を実行するのだ。
大体の契約者は彼の暴力には耐えられず、その上で死ぬことすら許されない。
早々に「不死じゃなくしてくれ!」と叫ぶだろう。
だが、その程度でマルキドが満足する筈がない。
契約者の喉が潰れるまで痛めつけた後、彼の気まぐれで許すか許されるかが決まる。
マルキドが契約者の悲鳴に聞き飽きれば解放され、彼は魔界に帰っていくだろう。
だが、マルキドが契約者の悲鳴を気に入ってしまった場合は最悪だ。
哀れな契約者の魂は魔界へと連れ去られ、永遠にマルキドの為に悲鳴を上げ続けるスピーカーとなってしまうのだから……。
契約者の中には抵抗する者もいた。
名の知れた魔術師ならば、彼の暴行に多少は対抗することも出来たのだ。
だが、マルキドは大悪魔であり、その中でも特に強大な力を持っていた。
ただの人間ではとても太刀打ち出来ない程の力だ。
マルキドが悪魔になってからの2000年間、彼に打ち勝った者は片手で数えられる程しかいない。
だが、そんな数少ない戦士には流石のマルキドも敬意を評し、自身の魔術を伝授したという。
「不死にはしてくれないのか?」という話ではあるが、それはマルキドにも出来かねることなのだ。
そもそも不死にする手法自体が『マルキドが契約者の身体に憑りつく』というものである。
即ち彼を遠ざければ、必然と不死性は失われてしまうのだ。
同時にこれはマルキドにとってもリスクのある方法であった。
彼との契約満了の成立条件は『契約者は不死の権利を放棄する』か『彼を物理的に屈服させる』かのどちらかとなっていた。
故にマルキドはそのどちらかが達成されない限り、魔界に帰ることが出来ず契約者から離れることが出来なくなる。
ただし、彼は大悪魔。
そんな状況はこの2000年の間に一度も訪れることはなかった。
そんな状況になるのは契約者がマルキドの加虐を“喜び”と捉えるような狂人ぐらいである。
――ぐらいであった筈なのだが……。
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