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ある時、マルキドは魔界の自宅で柔らかいソファーでくつろいでいた。
お気に入りの魂に鞭を打ち、我々が音楽を聴く感覚で悲鳴を嗜んでいた。
が、彼はしばらくボーっ壁を見つめた後、こう呟いた。
「……暇」
マルキドはもう100年近く現世に呼び出されることがなかった。
彼を呼び出した者、その光景の一部始終を目撃していた者、彼を倒すことに成功した者……。
彼らがかの悪魔は決して呼び出してはいけないと言い伝え、彼の召喚技法は悉く焼き払われてしまった。
悪魔は魔界と現世の出入りを自由には出来ない。
なので現世の人間に呼び出されない限り、魔界で空虚な毎日を過ごす他ないのだ。
「……仕方ない、また現世の塵共の様子を見てみるか……」
マルキドが指を鳴らすと、彼の前方に現世の様子が映し出された。
その世界は人間の他にエルフやゴブリンといった多種多様な種族が暮らしていたが、悪魔はそれらを纏めて“塵”と呼んでいた。
「へっ、相変わらずしょっぱい魔法を使ってるねぇ、おままごとかよそれ!」
現世で健気に生きる者達を嘲りつつも、各地の場面を切り替えていく。
だが結局マルキドが望むようなシーンは見つからなかった。
「ん何だよ、戦争も殺人も起きてねぇじゃねぇかよ!つまんねぇなぁ……」
ビジョン越しに悲鳴に聞くという試みは失敗に終わり、マルキドは自棄になってソファーに勢いよく寝転んだ。
「流石に、派手に暴れ過ぎたか?畜生!多少はセーブしときゃよかった……」
節操も無く暴れ回った過去の自分を責めつつも、マルキドにやれることは何も無かった。
彼は最強クラスの悪魔なのでこれ以上高みを目指す必要も無く、こうして何もせず寝転がりながら過ごす毎日が続いていた。
現実世界のニートとなんら大差ない生活だ。
「あーあ、今日も寝て過ごすか……。いつまで続くんだろうなこれ……」
――とここでマルキドの脳内に声が響いてきた。
『マルキド、マルキド?起きてるか?』
これは悪魔同士のテレパシーであり、声の主はマルキドの数少ない友人である“アモン”であった。
「あぁ、もうすぐ寝そうになったが、お前の声のせいで起きたぞ」
「おや、そいつはすまなかった。まぁでもいいか、新しい詩が完成したんだ。一緒に酒でも飲みがてら読んでくれないか?」
「また詩かよ……お前、俺に文学的側面があると思うのか?そういうのは塵相手にやってくれ」
『まぁそういうなよ。君のような性格ひん曲がったような素人の意見だって必要なのだよ?』
「テメェぶっ飛ばされてぇのか⁉」
マルキドは飛び起き、唸り声を上げる。
『ハハハ、その気になってくれたかい?』
「まぁいい、丁度酒も嗜みたいところだったんだ。直ぐにお前ん家に行く……」
マルキドがふと現世のビジョンに目を向けると、彼はそれに釘付けになった。
そこには魔術師が何やら魔法陣の真ん中で呪文を唱えている光景が映し出されていた。
その儀式の手法、間違いなくマルキドを召喚するためのものだった。
「ま、待ってくれ!今正に俺を呼び出そうとしてる塵を見つけた!」
『え?そんなの後回しでいいだろう?早く家に来てくれないか!』
「馬鹿言え!こいつは……こいつは名品だぞ!」
儀式を続ける魔術師は狐の獣人であった。
いわゆる“メスケモ”という奴である。
頭には三角帽子を被って眼鏡を掛けており、胸元の空いた服を着てフリルのついたショーツを履いていた。
スタイルはとても良く、スリーサイズも、ノズルの長さも、尻尾のモフモフ加減も、何から何までマルキドの性癖にドストライクだった。
「はぁっ!こんな奴が俺を呼び出そうとするなんて……良い時代になったもんだ!今すぐ、今すぐ奴の元に赴いてやろう!」
『おいマルキド⁉聞いてるのか?』
「あぁ⁉……あ、すまん。興奮し過ぎてしまった……」
マルキドはダラダラと垂らした涎を手で拭う。
『少し落ち着け、その塵はまた明日相手すればいいだろう?』
「いや、こんな名器をここで逃す訳にはいかんよ!直ぐに魂を攫ってきてやる!長くは掛からんさ!」
『あ!おい、マルキド……』
マルキドはアモンの言葉にも耳も貸さず、悲鳴を求めて現世へと向かった。
――この時の彼は知らなかった。今回の契約者が、ただの塵ではなかったということを……。
お気に入りの魂に鞭を打ち、我々が音楽を聴く感覚で悲鳴を嗜んでいた。
が、彼はしばらくボーっ壁を見つめた後、こう呟いた。
「……暇」
マルキドはもう100年近く現世に呼び出されることがなかった。
彼を呼び出した者、その光景の一部始終を目撃していた者、彼を倒すことに成功した者……。
彼らがかの悪魔は決して呼び出してはいけないと言い伝え、彼の召喚技法は悉く焼き払われてしまった。
悪魔は魔界と現世の出入りを自由には出来ない。
なので現世の人間に呼び出されない限り、魔界で空虚な毎日を過ごす他ないのだ。
「……仕方ない、また現世の塵共の様子を見てみるか……」
マルキドが指を鳴らすと、彼の前方に現世の様子が映し出された。
その世界は人間の他にエルフやゴブリンといった多種多様な種族が暮らしていたが、悪魔はそれらを纏めて“塵”と呼んでいた。
「へっ、相変わらずしょっぱい魔法を使ってるねぇ、おままごとかよそれ!」
現世で健気に生きる者達を嘲りつつも、各地の場面を切り替えていく。
だが結局マルキドが望むようなシーンは見つからなかった。
「ん何だよ、戦争も殺人も起きてねぇじゃねぇかよ!つまんねぇなぁ……」
ビジョン越しに悲鳴に聞くという試みは失敗に終わり、マルキドは自棄になってソファーに勢いよく寝転んだ。
「流石に、派手に暴れ過ぎたか?畜生!多少はセーブしときゃよかった……」
節操も無く暴れ回った過去の自分を責めつつも、マルキドにやれることは何も無かった。
彼は最強クラスの悪魔なのでこれ以上高みを目指す必要も無く、こうして何もせず寝転がりながら過ごす毎日が続いていた。
現実世界のニートとなんら大差ない生活だ。
「あーあ、今日も寝て過ごすか……。いつまで続くんだろうなこれ……」
――とここでマルキドの脳内に声が響いてきた。
『マルキド、マルキド?起きてるか?』
これは悪魔同士のテレパシーであり、声の主はマルキドの数少ない友人である“アモン”であった。
「あぁ、もうすぐ寝そうになったが、お前の声のせいで起きたぞ」
「おや、そいつはすまなかった。まぁでもいいか、新しい詩が完成したんだ。一緒に酒でも飲みがてら読んでくれないか?」
「また詩かよ……お前、俺に文学的側面があると思うのか?そういうのは塵相手にやってくれ」
『まぁそういうなよ。君のような性格ひん曲がったような素人の意見だって必要なのだよ?』
「テメェぶっ飛ばされてぇのか⁉」
マルキドは飛び起き、唸り声を上げる。
『ハハハ、その気になってくれたかい?』
「まぁいい、丁度酒も嗜みたいところだったんだ。直ぐにお前ん家に行く……」
マルキドがふと現世のビジョンに目を向けると、彼はそれに釘付けになった。
そこには魔術師が何やら魔法陣の真ん中で呪文を唱えている光景が映し出されていた。
その儀式の手法、間違いなくマルキドを召喚するためのものだった。
「ま、待ってくれ!今正に俺を呼び出そうとしてる塵を見つけた!」
『え?そんなの後回しでいいだろう?早く家に来てくれないか!』
「馬鹿言え!こいつは……こいつは名品だぞ!」
儀式を続ける魔術師は狐の獣人であった。
いわゆる“メスケモ”という奴である。
頭には三角帽子を被って眼鏡を掛けており、胸元の空いた服を着てフリルのついたショーツを履いていた。
スタイルはとても良く、スリーサイズも、ノズルの長さも、尻尾のモフモフ加減も、何から何までマルキドの性癖にドストライクだった。
「はぁっ!こんな奴が俺を呼び出そうとするなんて……良い時代になったもんだ!今すぐ、今すぐ奴の元に赴いてやろう!」
『おいマルキド⁉聞いてるのか?』
「あぁ⁉……あ、すまん。興奮し過ぎてしまった……」
マルキドはダラダラと垂らした涎を手で拭う。
『少し落ち着け、その塵はまた明日相手すればいいだろう?』
「いや、こんな名器をここで逃す訳にはいかんよ!直ぐに魂を攫ってきてやる!長くは掛からんさ!」
『あ!おい、マルキド……』
マルキドはアモンの言葉にも耳も貸さず、悲鳴を求めて現世へと向かった。
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