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EP1_2章
2章_10 足りないもの
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担架で運び出されていくマルスの元に、
エルザが駆け寄ってきた。
「金髪君、ありがとう。」
そう言ってエルザは担架に牡牛のツノを二本乗せた。
「これはあなたの戦果。飾るのも良いし、
鍛えて武具に変えるも良い。
一等星の素材なんてほとんど手に入らないものだから、
よく考えて使って。」
「金髪君じゃねえ。マルス・トライゼンだ。」
遠のく意識の中で、
マルスは初めてエルザの笑顔を見た気がした。
次々に怪我人がテントへ運び込まれていく中、
守備軍に場を任せたエルザは再び馬を駆っていた。
「欠けていたダイヤモンドは、一つじゃなかったんだ・・・」
まっすぐに夜空を見つめたエルザの瞳は、
牡牛座を還してもなお形の揃わない星空の六角形を見つめていた。
一方、延々と続く通路をひたすら走ったカムランは、
ついに太った男の後ろ姿を捉えていた。
体格に似あわず、かなり足の速い男だが、
カムランは少しずつ、確実に距離を詰めていく。
通路の果て、深く水の張った袋小路でついに男を追い詰めた。
「おい小僧、さっさと仕事に戻れ!」
すっかり息切れした男は、声を振り絞ってそう叫んだ。
「変な隠し通路の中を逃げていく人間がいたら、
誰だって気になるさ。
バッグいっぱいに鉱石を抱えたままで、
一体どこに行くつもりなんだ?」
茶化すようなカムランの態度に、男は激昂した。
「ガキの分際で大人をナメるんじゃねえ!」
男はナイフを取り出して叫ぶ。
「いいか。これ以上俺に付いて来るんじゃねえ。
命が惜しくなかったらな。誰かに口外してみろ、
喉笛切り裂いてやるからな!」
一旦は腰に下げた工具に隠した剣を後ろ手に握ったが、
カムランはとりあえず今は泳がせたほうが得策だと考えた。
「わかったよ。ナイフをしまってくれ。
こっちはただの好奇心なんだからさ、
おっかないことはよそしてほしい。」
両手を上げて下がっていくカムランを見届け、
袋小路の上から垂れていた縄梯子を使い、
男は上へとよじ登っていった。
物音が収まったことを確認すると、
カムランは男を追って上に登った。
どうやら井戸の底に通じる道だったらしい。
縄梯子は男が地上に上げてしまっていたため、
カムランは周りの積石の隙間を掴んで登るしかなかった。
男に遅れることおよそ数分、
カムランも地上にたどり着いた。
井戸の周囲は暗く、あまり建物もない。
エルザが駆け寄ってきた。
「金髪君、ありがとう。」
そう言ってエルザは担架に牡牛のツノを二本乗せた。
「これはあなたの戦果。飾るのも良いし、
鍛えて武具に変えるも良い。
一等星の素材なんてほとんど手に入らないものだから、
よく考えて使って。」
「金髪君じゃねえ。マルス・トライゼンだ。」
遠のく意識の中で、
マルスは初めてエルザの笑顔を見た気がした。
次々に怪我人がテントへ運び込まれていく中、
守備軍に場を任せたエルザは再び馬を駆っていた。
「欠けていたダイヤモンドは、一つじゃなかったんだ・・・」
まっすぐに夜空を見つめたエルザの瞳は、
牡牛座を還してもなお形の揃わない星空の六角形を見つめていた。
一方、延々と続く通路をひたすら走ったカムランは、
ついに太った男の後ろ姿を捉えていた。
体格に似あわず、かなり足の速い男だが、
カムランは少しずつ、確実に距離を詰めていく。
通路の果て、深く水の張った袋小路でついに男を追い詰めた。
「おい小僧、さっさと仕事に戻れ!」
すっかり息切れした男は、声を振り絞ってそう叫んだ。
「変な隠し通路の中を逃げていく人間がいたら、
誰だって気になるさ。
バッグいっぱいに鉱石を抱えたままで、
一体どこに行くつもりなんだ?」
茶化すようなカムランの態度に、男は激昂した。
「ガキの分際で大人をナメるんじゃねえ!」
男はナイフを取り出して叫ぶ。
「いいか。これ以上俺に付いて来るんじゃねえ。
命が惜しくなかったらな。誰かに口外してみろ、
喉笛切り裂いてやるからな!」
一旦は腰に下げた工具に隠した剣を後ろ手に握ったが、
カムランはとりあえず今は泳がせたほうが得策だと考えた。
「わかったよ。ナイフをしまってくれ。
こっちはただの好奇心なんだからさ、
おっかないことはよそしてほしい。」
両手を上げて下がっていくカムランを見届け、
袋小路の上から垂れていた縄梯子を使い、
男は上へとよじ登っていった。
物音が収まったことを確認すると、
カムランは男を追って上に登った。
どうやら井戸の底に通じる道だったらしい。
縄梯子は男が地上に上げてしまっていたため、
カムランは周りの積石の隙間を掴んで登るしかなかった。
男に遅れることおよそ数分、
カムランも地上にたどり着いた。
井戸の周囲は暗く、あまり建物もない。
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