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信頼できない町

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 王都を出発して2日。

「そろそろ今日の宿泊予定地であるモドガルという町に到着します。王都からも近いこともあって何事もなく過ごせましたが、この町にはライオネルの協力者、もしくは本人が潜んでいる可能性は極めて高いと思われます。油断せず、気を付けてください」

 私たちは顔を見合わせて頷きあった。

「ところで、リオンはライオネルを見たことがあるの? もしライオネルについて詳しく知っていたら教えてほしいの」
「俺は、直接は見たことがない。ただ、噂によると外見は母親に似てとても良く、それだけで騙される女が数多くいたそうだ」
「そんなにも見た目がいいなら目立ってすぐに見つかりそうね」
「ちなみに、ステラは俺の見た目についてどう思う?」
「えっ、リオンの? うーん……そうね、遅筋と速筋のバランスが素晴しいわ。力も体力も両方レベルが高そう。服を着ていてもわかる胸筋の厚みがとっても素敵ね」

「ステラには見つけられないかもしれないな……」

 リオンがぼそっと呟き、隣のアルがククッと笑っている。私何か変なこと言ったかしら。

 そうこうしている間に、馬車が止まった。

「着きましたよ、モドガルに」




 モドガルは北ソザーレに最も近く、ワイン製造が盛んで数多くの商人たちが訪れる。そのため、互いに見ず知らずの者が多く、犯罪者が潜伏するには最適な町だ。それでも、今まで治安が良かったのは地主であるハミルトン伯爵が自警団を結成させ見回り等してきから。ハミルトン伯爵はライオネルとその協力者がこの町に潜んでいることを知っているのだろうか。

「まずはハミルトン伯爵に挨拶をしに行きましょう。もしかしたら何か知っているかもしれないわ」



 ハミルトン伯爵の邸宅は町の中心部にある。
 屋敷の前で馬車を降り、中へと入る。

「これはこれは、ステラ様ではないですか。こんな遠いところまでようこそいらっしゃいました。……何か、重要な話があるようですな」

 ハミルトン伯爵は私たちを見てすぐに何かあると察し応接間へと通してくれた。

「なるほど、ライオネル、ですか」
「えぇ。何か知らないかしら。このままではこの町もいずれ被害が出るわ。少しでも何か変わったことや怪しい者がいたら教えてほしいの」

 ハミルトン伯爵は私たちの顔を一人一人見つめ、そして首を横に振りながらため息を着いた。

「確かに、ここ数か月モドガルにはガラの悪い者の出入りが見受けられます。そしてそれと共に窃盗、強盗などの犯罪率も大きく跳ね上がり、今では女子どもは夜間外出禁止をしている家も数多くあります。自警団だけではとても対処ができず困っているのですよ」
「やっぱりそうなのね。私たちの考えではこの町にその犯行の協力者がいると思っているの。心当たりはないかしら」
「いえ、特には。組織犯罪とは考えていませんでしたし、捕らえたものはキルティ国の者ばかりで、こちらが勝手に処刑するわけにもいかず、追放するぐらいしかできなかったので……」
「なるほどね。追放で済むならやりたい放題ね。わかったわ、ありがとう。ついでになんだけれども、この町で信頼できる宿屋を教えてもらえないかしら」
「ステラ様ともあろうお方を宿屋になど泊まらせられませんっ。今日はもう日が暮れていますし、是非我が屋敷に泊っていってください」

 私たちはハミルトン伯爵のご厚意によって屋敷に泊めてもらうだけではなく、夕食までごちそうしていただけることになった。

「豪華なおもてなしが出来ず申し訳ない」
「いえ、こちらこそ急にお邪魔してしまったのです。いただけるだけでありがたいですわ」
「そうだ、ステラ様は16歳を超えてますな。せっかくだからモドガル特産のワインを是非飲んでいってください」
「まぁ嬉しい! ありがたくいただくわ」

 グラスになみなみと注がれた赤ワインを口にすると、酸味と甘みのバランスがよく、ビロードのような舌触りがした。さすが特産品なだけはある。

 ただ、ワインの香りとは別に何か混ざったような香りがする。
 二人を見ると何事もないようにワインを飲んでいる。私の気にしすぎかしら。



「長旅でお疲れでしょう。部屋に案内しましょう。ゆっくりお休みください」

 食事が一段落し会話も落ち着いた頃、ハミルトン伯爵の声掛けによりお開きとなった。ちょうど少し眠たくなってきたところだから丁度いいタイミング。

 屋敷の都合で、私とアルは隣同士、リオンは離れの部屋を用意してもらった。
 アルと部屋の前で別れるとき、目があった。お互いに頷きあってそれぞれの部屋へと入る。



 強烈な睡魔に耐え湯浴みを終わらせた私は、そのままベッドにダイブした。

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