喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク

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5年前の婚約破棄

「セシル = マクラグレン伯爵令嬢との婚約を破棄することをここに宣言する!」

 王国主催の初代国王デヴィッド・アーサー・リッチフィールドの生誕記念パーティーにて場違いな宣言をいきなり始めたのは、私の婚約者であるエドモンド = アランデル伯爵令息です。

 そして、エドモンドの腕にしがみつくように隣にいるのはたわわな胸が零れ落ちそうなデザインのドレスを身にまとった見知らぬ女性。立ち居振る舞いからしても娼婦のようですが、貴族しか招待されていないパーティーに参加できているということは彼女も貴族なのでしょうか。

「お待ちください。理由をお聞かせ願います」

 おおよそ検討はついていますが、念のため確認しましょう。

「よかろう。セシル = マクラグレン伯爵令嬢は私の隣にいるナンシー・リード男爵令嬢の美しさに嫉妬し、ドレスにワインをかける、足をヒールで踏みつけるなどの嫌がらせを行い、あまつさえ、階段から突き落とそうとしたそうではないか! こんな非道な女は話がアランデル伯爵家にはふさわしくない! アランデル伯爵家にはナンシーのような可憐で愛想の良い、かわいげのある女性が最適である。ナンシー、私と結婚してくれるかい」
「はいっ! エドモンド様……嬉しいですっ」

 やはり女性関係でしたか。婚約が決まる前からもエドモンドの女癖の悪さは聞いておりました。婚約すれば少しはお控えになるかと思っていたのですが、全く変わることはありませんでした。むしろ、愛人にしてやるからと女性をたぶらかして遊び放題だったようです。実際に私もその場面に出くわしたことがあります。何度も注意はしましたが、効果はありませんでした。

 今回はそのナンシーとかいう女に色々吹き込まれたのかもしれませんね。だって私心当たりが全くありませんもの。

「お言葉ですが、私はナンシー様と会うのは今日が初めてです。誰かとお間違いではないでしょうか」
「酷いわっ! セシル様は私がエドモンド様から可愛がられているのを知って、嫉妬で私を殺そうとしたのよ! あの時、『エドモンド様を返して』って言葉は忘れないわ」
「証拠はありますの?」
「何を言っているのだ! 被害にあったナンシーが言っているんだぞ! ワインで汚れたドレスもヒールで傷ついた足も見せてもらっている!」

 淑女として他人には見せることのない足をご覧になっているということは、相当深い関係になっているのね。

 何で私がこのだらしない出来損ないと結婚しなければならないのかしら。今でこれなら結婚してからも相当苦労しそうよね。今まで我慢していたのが馬鹿みたいだわ。いいわ。婚約破棄いたしましょう。

「一つ、確認がございます。私たちの結婚はアランデル伯爵とお父様によって交わされた契約結婚でございます。婚約破棄について、アランデル伯爵はご存知なのでしょうか」
「父上には私の責任のもとにこのパーティーの後、報告する。父上も喜んでくれるに違いない」
「万が一、お心変わりすることは」
「ない!」
「承知いたしました。それでは婚約破棄を受け入れましょう。ここにいる皆さんが証人ですわ。では後ほど、婚約破棄に関しての慰謝料をアランデル伯爵家、リード男爵家に。また契約不履行の違約金をアランデル伯爵家に請求いたしますのでご承知おきくださいませ」

 淑女の礼をし、この場から離れようとすると、

「ちょっと待ってよ! 何で私がそんなの払わなくちゃいけないのよ」

 ナンシーが後ろから大声で叫ぶのが聞こえました。この、学も品もない方にわかりやすく説明して差し上げましょう。

「あら?ご存じないのかしら。私たちはあくまでも政略結婚です。アランデル伯爵家の事業が不振のため、我が父であるマクラグレン伯爵が、資金援助をすることになりましたの。私を嫁がせ、経営の立て直しを図ることを条件に。今までも少しずつですが金銭援助をしていましたが、今回の婚約破棄で契約が反故されたので、賠償請求をするのは当然のことですわ。アランデル伯爵はそれをお許しになるのかしら? かなりの金額になるでしょうが、それを踏まえての婚約破棄ですもの。廃嫡で済めばよいですわね。では失礼」
「待って、それならエドモンド様との結婚に何にもうまみがないじゃない! この結婚はなしよ! あなたにお返しするわ! だから私への慰謝料請求はやめて。そうでなければ私もあなたに今までされたことの慰謝料と損害賠償請求をするわよ!」

 これナンシーの本音なのですね。金銭目的で近づき、ちょうどよく騙されたのがエドモンドだったと。

「返品不可ですわ。それに、私への損害賠償請求ですが、証拠を固めてからにしてくださいませ。まずは騎士団に自作自演の犯行について相談したらいかがかしら?」

 この騒ぎを聞きつけたのか、ちょうど会場を警備していた騎士団員がやってきました。

「別室で話を聞こう」

 そういうと暴れるナンシーを会場から引っ張り出して行きました。

「いやぁ、待って、違うのぉ~!!! 許せない! 絶対に許さないんだから!」

 さて、エドモンドはというと、

「このバカ息子が! 貴様は廃嫡し次男のアレックスを嫡男とする!」

 騒ぎを聞きつけたアランデル伯爵が顔を真っ赤にして怒鳴りつけています。それはそうでしょう。せっかく得られた資金援助が取り消しの上、さらに賠償まで支払わなくてはいけなくなったのですから。

 さて、私は少し休ませてもらおうかしら。

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