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紛失事件と来訪者
朝、いつものように王城内事務室に入ると、何やら騒がしい様子です。どうやらラーラが大声をあげ騒いでいるようです。
いつもは私よりも遅くに来るのに珍しいこともあるものね。と席に着くとすぐさま室長とラーラが私の元へとやってきました。
「先輩、王室保管庫にある持ち出し厳禁の戦術書がなくなっているのです。先輩知りませんか?」
戦術書が置かれている保管庫は厳重に鍵が掛けられていて許可がなければ入れないはず。私は棚卸のために毎月王室保管庫に入り確認していますが、戦術書には触れたことはありません。私は心当たりがないので首を振り否定します。
「実は今朝から行方不明になっていて、今可能性のあるところをひっくり返して探している最中なんです。この部屋の残りは先輩の机の中だけなんですが、探してもいいですか?」
私には後ろめたいことは何もないので、どうぞと手を広げます。
「では、先輩は少し離れていてくださいね。室長、探しましょう」
「あぁ」
なぜだか、重要物の紛失という大事態なのにラーラが笑っているように見えたのは気のせいでしょうか。
「なんですか、これ。先輩の机の中から男性物のハンカチが出てきたんですが」
5年前、クレイグ様にもらったハンカチをお守り代わりに机の中に入れていたのが見つかってしまいました。あまり他人には触られたくないので、急いで取り返します。
「もしかして、先輩も好きな男性いるんですかぁ? で、報われない感じ? かわいそう~」
これは今回の件とは関係のないものです。ニヤニヤと品のない笑い方をするラーラを睨みます。
「まぁ、そんな恐ろしい目で見ないでください。あっ、室長! もしかして戦術書とはこれでしょうか?」
「それだ! セシルの机の中から見つかったぞ!」
部屋中に響き渡るくらいのひと際大きな声で二人が騒ぎます。
嵌められた、と気づいた時にはもう遅く。私は騎士団による調査が終わるまでの謹慎処分を言い渡されたのでした。
それにしても、ラーラは「今朝から」紛失していたことを知っていたのはなぜ?棚卸はまだ先であるのにも関わらず。そして、不自然に早い出社。どう考えても引っかかることばかりなのになぜすぐに気が付けなかったのかしら。気が付いたところで説明できないのですけれども。悔しくて仕方ない。私の目から涙が溢れます。
幸い家族は私の無実を信じてくださり、調査結果が出るまでは部屋でゆっくりと休むようにと言ってくださったのでお言葉に甘えて静かに過ごすことにいたしましょう。
でも、調査結果が出たら私はこの先どうなってしまうのでしょうか。おそらくは今頃あの二人が有る事無い事話して私を悪者にしているのでしょう。
はぁ、というため息すらでない私は自室に閉じこもり、どんよりとした外を眺めます。
一週間ほどたった日のことでした。
いつものように外を眺めていると、見覚えのある顔の男性が我が屋敷に入ってくるのが見えました。
「セシル! セシルに合わせてくれ!」
玄関でわーぎゃー喚いているのは元婚約者のエドモンドです。婚約破棄の後、廃嫡となり家から追い出されたと聞いていましたが、一体どこから私のことを聞きつけたのでしょうか。
面倒ですが私が出ていくしかないでしょうね、と階段を降りると執事たちが一生懸命中に入るのを抑えておりました。
「おい、セシル! 聞いたぞ。お前、王城内でやらかして謹慎処分になったんだってな。今ならもう一度お前と結婚してやってもいいぞ! お前の声が出なくなったのは、愛する俺に婚約破棄を言い渡されてショックだったからだと聞いたぞ?」
無理やりエドモンドが中に入って私の腕を掴んできます。
「セシル! やっぱり俺のことが忘れられないんだろう? やり直そう。次は俺が婿養子になっても構わないから。どうせ他に結婚の申し込みなんて来ていないんだろ? こんな年増の行き遅れ女をもらってやるんだ、ありがたく思えよ」
「……!」
嫌、やめて! あなたのことなんて今も昔も大嫌いよ! あなたと結婚するくらいなら修道院に入るわ!
腕を振り払おうとしてもエドモンドは私のことなどお構いなしに、力強く私を引っ張ります。
痛い! 誰か助けて……助けて、クレイグ様……!
「いてぇ! 何をする!」
いきなりエドモンドがぶらんと宙に浮きました。後ろから誰かに首根っこを掴まれているようです。
「貴様はここで何をしているのだ」
夢でしょうか。現れたのは、まさかのクレイグ様でした。
いつもは私よりも遅くに来るのに珍しいこともあるものね。と席に着くとすぐさま室長とラーラが私の元へとやってきました。
「先輩、王室保管庫にある持ち出し厳禁の戦術書がなくなっているのです。先輩知りませんか?」
戦術書が置かれている保管庫は厳重に鍵が掛けられていて許可がなければ入れないはず。私は棚卸のために毎月王室保管庫に入り確認していますが、戦術書には触れたことはありません。私は心当たりがないので首を振り否定します。
「実は今朝から行方不明になっていて、今可能性のあるところをひっくり返して探している最中なんです。この部屋の残りは先輩の机の中だけなんですが、探してもいいですか?」
私には後ろめたいことは何もないので、どうぞと手を広げます。
「では、先輩は少し離れていてくださいね。室長、探しましょう」
「あぁ」
なぜだか、重要物の紛失という大事態なのにラーラが笑っているように見えたのは気のせいでしょうか。
「なんですか、これ。先輩の机の中から男性物のハンカチが出てきたんですが」
5年前、クレイグ様にもらったハンカチをお守り代わりに机の中に入れていたのが見つかってしまいました。あまり他人には触られたくないので、急いで取り返します。
「もしかして、先輩も好きな男性いるんですかぁ? で、報われない感じ? かわいそう~」
これは今回の件とは関係のないものです。ニヤニヤと品のない笑い方をするラーラを睨みます。
「まぁ、そんな恐ろしい目で見ないでください。あっ、室長! もしかして戦術書とはこれでしょうか?」
「それだ! セシルの机の中から見つかったぞ!」
部屋中に響き渡るくらいのひと際大きな声で二人が騒ぎます。
嵌められた、と気づいた時にはもう遅く。私は騎士団による調査が終わるまでの謹慎処分を言い渡されたのでした。
それにしても、ラーラは「今朝から」紛失していたことを知っていたのはなぜ?棚卸はまだ先であるのにも関わらず。そして、不自然に早い出社。どう考えても引っかかることばかりなのになぜすぐに気が付けなかったのかしら。気が付いたところで説明できないのですけれども。悔しくて仕方ない。私の目から涙が溢れます。
幸い家族は私の無実を信じてくださり、調査結果が出るまでは部屋でゆっくりと休むようにと言ってくださったのでお言葉に甘えて静かに過ごすことにいたしましょう。
でも、調査結果が出たら私はこの先どうなってしまうのでしょうか。おそらくは今頃あの二人が有る事無い事話して私を悪者にしているのでしょう。
はぁ、というため息すらでない私は自室に閉じこもり、どんよりとした外を眺めます。
一週間ほどたった日のことでした。
いつものように外を眺めていると、見覚えのある顔の男性が我が屋敷に入ってくるのが見えました。
「セシル! セシルに合わせてくれ!」
玄関でわーぎゃー喚いているのは元婚約者のエドモンドです。婚約破棄の後、廃嫡となり家から追い出されたと聞いていましたが、一体どこから私のことを聞きつけたのでしょうか。
面倒ですが私が出ていくしかないでしょうね、と階段を降りると執事たちが一生懸命中に入るのを抑えておりました。
「おい、セシル! 聞いたぞ。お前、王城内でやらかして謹慎処分になったんだってな。今ならもう一度お前と結婚してやってもいいぞ! お前の声が出なくなったのは、愛する俺に婚約破棄を言い渡されてショックだったからだと聞いたぞ?」
無理やりエドモンドが中に入って私の腕を掴んできます。
「セシル! やっぱり俺のことが忘れられないんだろう? やり直そう。次は俺が婿養子になっても構わないから。どうせ他に結婚の申し込みなんて来ていないんだろ? こんな年増の行き遅れ女をもらってやるんだ、ありがたく思えよ」
「……!」
嫌、やめて! あなたのことなんて今も昔も大嫌いよ! あなたと結婚するくらいなら修道院に入るわ!
腕を振り払おうとしてもエドモンドは私のことなどお構いなしに、力強く私を引っ張ります。
痛い! 誰か助けて……助けて、クレイグ様……!
「いてぇ! 何をする!」
いきなりエドモンドがぶらんと宙に浮きました。後ろから誰かに首根っこを掴まれているようです。
「貴様はここで何をしているのだ」
夢でしょうか。現れたのは、まさかのクレイグ様でした。
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