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第三章 激闘の魔闘士大会編 中等部1年生

第31話 魔闘士大会サバイバル戦 後半

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 ラスボスは何かを英語で言っている。
 ウォーターマナがなんとかかんとか?
 よくわからんが、隠の特級で防御特化なのだろうか?
 まぁ、いいや。
 とりあえず、殴ろう。
 ボディにフックを入れる。
 なんとも反応がない。
 相手は完全に頭だけをガードしている。
 脳へのダメージが無ければ勝てると判断したのだろうか。
 とにかく、ガードが硬い。
 無策でこんなことするか?

 違った。

 さすがはトップランカー。
 裏技を持っていた。
 闇オーラに切り替えたのだ。

 俺は便宜上、オーラを蓄積させる技術より先に全開法を学んだが、実際は違ったのだろう。
 オーラを蓄積できることは、長時間の試合になれば、自動的にわかることだ。
 それをいちいち○○法のように名前をつけていない時代が長かっただけなのだ。
 恐らく、ラースが隠の中級でもトップランカーになれたのは、この技術があったからだろう。
 ラースめ、俺にも教えろよな。

 どう考えても、闇オーラはオーラ総量が半分に減る。
 しかし、ポテンシャルが桁違いなのだ。
 冷静に考えればわかることだ。
 半分に減る闇オーラに変換しても、効果は同じなんてことはないと。
 土と水のオーラが混ざり、泥のような見た目の闇オーラがそこにはあった。
 恐らく、ずっとオーラを溜めてこれを狙っていたんだ。
 闇でも溜められるだろうに、それをしなかったのは、俺に作戦を気づかせないためか?
 悪質な詐欺に引っかかった気分だ。
 
 ラスボスの攻撃が始まる。
 ラスボスはドロっとしたオーラを禍々しく身に纏い、俺にローキックを放ってきた。
 俺は素早く回避する。
 それほど、早くない。
 今の動きを見た感覚としては、隠の1万くらいはあるだろうか。
 
 考えていると、次の攻撃が来る。
 先程のローキックをステップに変更し、後回し蹴りが来る。
 視界の外からの攻撃に思わず左腕でガードする。
 さっきまでならオーラで完全に防いでいた攻撃だが、なぜか、左腕には激痛が走る。
 攻撃の重さが違う。
 おまけに、火オーラを攻撃ポイントに集中して纏っている。
 水と土で作った、泥のような闇オーラ。
 なるほど、泥の重さが加わったのか?
 違うな、これは重力魔術の性質だ。
 闇オーラでの代表的な魔術は重力魔術。
 その性能をオーラで再現しているのだ。
 しかし、効果は自身の重さを変更する程度のようだ。
 だから、さっきの後回し蹴りは速かったのか。
 仕組みがわかったところで、打開策となるカードはない。
 恐らく、水オーラも並行して発動しているはずなので、スタミナ切れも狙えない。
 オーラでゴリ押ししていただけの俺が、今度は逆にやり返されている。
 
 ん?

 なんで、闇オーラを纏いながらオーラの集中もできるんだ?

 そもそも、闇マナの生成はは水と土が同量必要だ。
 2つ同時に限界突破の蓄積なんてできるのか?

 あれ?
 さっき、俺もやらなかったっけ?
 さっきは、オーラの蓄積を複数オーラでできた。
 つまり、1つだけじゃないとできないと思っていたことも、やろうと思えばできたわけだ。
 俺はその可能性を探求せず、基礎の反復を愚直に行っていた。
 自ら可能性を放棄していたのだ。
 教授も二つの技が極意だとは言ったが、最終地点とは言っていない。
 シャイナの強さの謎も残ったままだ。
 そのシャイナが13位でまだまだ上がいる状況を正しく理解していなかった。

 いや、今は反省はよそう。

 相手を倒すことに集中しよう。

 やられて嫌なことはやり返そう。
 勝負事の鉄則だ。

 俺は、全開法で溜まった分だけ、闇オーラに変換した。
 ドロっとする。
 そして、理解する。
 やはり、重力魔術の要領だ。
 事前にプログラミングされていない分、こちらの方が使い勝手がいいかもしれない。
 恐らく、相手は自分の重さを重くすることと、軽くすることしかできていない。
 俺は、風オーラも纏っているので、軽くするととんでもないスピードが出そうだ。
 
 ん?

 待てよ?

 俺は陽も特級だ。
 これも光マナに合成すればどうなる?
 何か新しい能力が発動するのではないか?
 やってみよう。

 光オーラを合成する。
 火と風が混ざり、暴風の熱波を纏う。
 左腕の骨折の痛みがおさまる。
 治癒の力だ。

 なるほど、以前、シャイナが試合で顔面からキックに飛び込んでいけたカラクリはこれか。
 彼女は火オーラを蓄積していたのではなく、光オーラを蓄積していたのだ。
 魔闘士は常に薄く硬くオーラを纏うため、見えなくて当然だが。
 
 要するに、オートヒールだ。
 スタミナは水オーラで回復し、傷はオートヒールで回復する。
 これは無敵では?
 まぁ、マナ自体は半減するから火力も半減している。
 しかし、今の俺は光と闇だ。
 攻撃に重さとパワーと、速さを乗せることができる。
 どこまで通用するのか試してみよう。
 
 左腕がどの程度治ったのかを確かめるように、左ジャブを打つ。
 ラスボスのガードに当たり、俺の攻撃が相手に効いていないことを確認する。
 なるほど、あの程度ではノーダメージか。
 やはり、火オーラは必要だ。
 光オーラを解除し、火と風に分ける。
 しかし、常にどれも全開法で蓄積させる。
 オーラ総量の多い俺の方が先にラスボスの土オーラを越えるか、それとも、早くオーラを蓄積できるラスボスの方が先か?
 オーラの溜まり具合で勝負は決まりそうだ。

 しかし、それを待っていたのでは、運任せ。
 俺は仕掛ける。
 火オーラが通用しないことはわかったが、闇オーラは俺が確実に勝っているポイントだ。
 それを活かそう。
 ジャブとローキック、前蹴りを繰り返し、間合いを計る。
 俺の方がリーチが短いので、不利となるため、早めに仕掛けることにする。
 
 まず、ジャブをきっかけに飛びかかる。ラスボスに抱きつき、クリンチ状態にする。
 身長差があるため、完全に抱き付いているように見えて、カッコ悪いが、仕方がない。
 そのまま、闇オーラで重力を操作し、自身の体重を20倍くらいにした。
 俺は抱き付いた手を離さないように、ガッチリホールドしている。
 子泣き爺作戦だ。
 これは、ある程度定石なのか、すぐに投げ技で回避された。
 何度も練習している動きだった。
 やっぱり、みんなやるんだな…。
 
 投げられはしたものの、オーラでノーダメージ。
 さて、次の手を試そう。
 新しい技に心が踊り、いくらでも作戦が思いつく。
 次は重いゲンコツ作戦で行こう。
 またもや、ローキックで牽制しながら、距離を調整し、いきなり飛び上がる。
 相手の頭上で右拳に闇オーラと火オーラを集中し、頭頂に振り下ろす。
 ラスボスはすかさずガード体制に入るが、オーラが足りないことを察し、闇オーラを解除、土オーラを両腕に集めてガードを固める。
 俺の拳がガードの上から突き刺さる。
 ラスボスは足をガクガクとさせながらも堪える。
 やはり、重さはかなり火力を増加させている。
 自分の体も重くなることが問題だが、2倍~3倍なら動ける。
 重力魔術を先に使える状態になっていたのが大きい。
 
 さて、次なる作戦は、ジャブに重いジャブを混ぜる作戦だ。
 もちろん、ローキックや前蹴りなど、本来牽制のために打つもの全てに1撃必殺を混ぜ込む。
 俺がやられたら嫌なことを全てやってやろう。
 早速、ジャブの次のローキックを重くしてやった。
 これは、完全に、今までの基礎練習が役立っている。
 やはり、少しずつ削れる。
 しかし、火力不足は否めない。
 
 さぁ、次だ。
 次は、重いジャブで崩したガードの先を火オーラで狙い撃ちをしよう。
 ジャブを打つ。
 狙い通り、ガードが崩れる。
 狙い澄ました右ストレート。
 火オーラ集中している。
 相手が大きくのけぞる。
 おっ?
 これはもしや?
 思うと同時にラスボスが距離をとる。
 追走。
 ジャブ、ローキック、前蹴り、詰めて、ジャブ、右ストレート。
 一連の攻撃がラスボスに全弾ヒット。
 完全にオーラが逆転した。
 俺の火オーラが2万近くまで上昇したのだろうか。
 勝機だ。
 ガードの上からラッシュ。
 ボディにもラッシュ。
 ローキックで足を潰し、ボディ撃ちでガードを下げ、見えた顔面をストレートで撃ち抜く。
 もちろん、ストレートは闇と火のオーラ集中だ。
 闇オーラ集中は防御を捨てることになるが、光で回復できる今となっては、多少のダメージは関係ない。
 多少の被弾はあるものの、至近距離で撃ち合う。
 今はチャンスだ。
 ラスボスの膝がガクガク言い出した辺りで重いローキックを放つ。
 完全に直立できなくなり、バランスを崩す。
 反対の足にも重いローキックを放つ。
 ラスボスが苦渋の表情を浮かべる。
 中段へ回し蹴り。
 ガードはない。
 
 ベギッ!

 と、鳴り、膝が折れる。
 
 ここだ!

 ラスボスに飛びかかり、押し倒す。
 マウントポジションをとり、闇オーラを全身に纏い、体重を3倍にする。
 火オーラを右拳に集中し、顔面を撃ち抜く。
 地面と俺の拳の板挟みにあい、動けなくなる。
 油断はしない。
 さらに打つ。
 ラスボスは動かない。
 もう一発打つ。
 審判が止めに入る。
 あれ?TKOとかあったっけ?

 そこで、気づく。
 ラスボスが死にそうなのを。
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