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第三章 激闘の魔闘士大会編 中等部1年生

第40話 王子様の実力

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 王子様が国外逃亡を果たしてからの行動は明確だった。
 魔闘士になるべく行動を開始した。
 拠点として活動する国は治安の良さで有名なジンパッグ国を選択して、魔闘法の情報を集めた。
 亡命ではなく、国外逃亡という扱いであったため、苦労は多かった。
 しかし、王子様には才能があった。
 魔闘法の才能ではない。
 魔闘法をシステム化する才能である。
 オーラの蓄積という技術は昔からあったが、文献などでは残っておらず、口伝によるものが大半だった。
 それらの情報を集めて、自分のものとし、体系的にまとめることに成功した。
 しかし、魔闘士協会の要請を受け、販売や配布はできなかった。
 王子様の開発した新技術も多く、それらを書物に残すことも、それをできるだけの学があったから。
 現役引退後は協会の役員というポジションに落ち着く。
 また、研究者としての才能を活かすために、大学の客員教授となる。
 論文も多数発表したことから正式に国立大学の教師として認められるようになる。
 異例の出世とも言えるが、亡国の貴族だと聞くと多くのヒトが納得してくれた。

 こうして、ツバル・シュバルツは今のポジションに落ち着く。
 並行してシャイナ・グランテの成長もあり、弟子がワールドランカーとなったことも、出世の後押しとなった。

 しかし、彼自身もワールドランカーであった経歴も持つ。
 当時闇オーラの使い手として名を馳せていたラース・ロドリゲスを倒しランカー入りを果たした。
 ランカーとしての最高成績は5位。
 5位からは1位への挑戦権が与えられる。
 1位への挑戦もしたことがある。
 しかし、当時10歳の天才チャンピオンには届かなかった。

 どういう経緯でチャンピオンになっているのかは語られていない。
 どういう人物なのかもわからない。
 謎が多すぎるが、異例の早さでチャンピオンまで上り詰めた。
 その後10年は不動の、チャンピオンであり続けた。
 謎は多いが、実力は桁違い。
 不動のチャンピオンとして君臨し続ける。
 
 チャンピオンの強さの謎がわからないから勝てない。
 この疑問にぶち当たってからは頭打ちとなる。
 シャイナはワールドランカーに入るも、10位代をキープし、積極的には上を目指さない。
 チャンピオンの強さが解明できないからだ。
 しかし、オーラの蓄積が加速できることに気づき、チャンピオンの強さに近づく。
 その頃、あらたな出会いがあった。
 ライラック・アルデウス、アネモネ・アフロディーテ、神殺しだ。
 1000年以上前の文献を読み漁ることで答えに辿り着いた。
 チャンピオンも、神殺しではないか?
 いや、1000年も生まれなかった伝説の存在が同時に3人も現れるのはあまりに都合のいい話だ。
 ひょっとすると、別の存在かもしれない。
 しかし、ライラックやアネモネならばチャンピオンに届くのではないか。
 自ら果たしたかった夢を託すには十分の人材であった。
 本来であればシャイナに果たしてほしかったが、ライラックと出会ったのも何かの縁だ。
 託すことに躊躇いはなかった。

そして、現在…

「ライ君、魔力の伸びが落ちているようですね。やはり、全力を出さなければ伸びないですか?」
 ツバルが確認する。

「いや、全力ですよ。アネモネやシャイナに誤解を産むような表現は避けてください」

「おっと、失言でしたね。しかし、私相手なら本気を出しやすいのでは?」

「それはそうですね。教授なら最悪死んでもいいと思えます」

「あはは。冗談でも悲しいですよ」

「いえ、半分以上は本気ですよ。」

「さて、初めはライ君でいいですかね?次にアネモネさんの相手をしましょう」

「わかりました」
 アネモネは同意する。

「お願いします」
 ライも同意。

「それじゃあ、どうぞ」
 ツバルが構えて、攻撃を促す。

 ライは全開法と、加速蓄積をすぐに使い、飛びかかる。
 ライの魔力であれば、もっとも適切な行動と言える。
 巨大な魔力と、それを加速することで得られる大量のオーラ。
 普通であれば、それを使って攻めることで、相手はオーラ総量についてこれず、攻撃も、防御も成り立たない。
 そう、普通であれば。
 ツバルは、適切なオーラ比率で拳にオーラを集める。
 光と闇が調和し、ちょうどライのオーラを貫くほどのオーラを練り、ボディへのパンチ。
 ライのオーラはなかったように消え去り、貫通してライの体へ届く。
 火オーラを使わなかったのは、この試合を、早く終わらせることが目的でないからだ。
 ライは顔を歪めるも、耐える。
 そして、ツバルの実力を悟り、今自分が受けた攻撃を分析する。
 そこで理解できたことは、オーラの比率を分析すること。
 適切な比率で適切量で相殺すれば、体に纏っているオーラは貫通されること。
 今までの対戦相手に何度も喰らわされた不意打ち。
 まさに奥義であろう。
 完璧な読みがなければ成立しない攻撃。

「わかりましたか?」
 ツバルは優しく確認する。

「ええ。わかりやすくありがとうございます」

 理解したライはオーラを調整する。
 ツバルを守っているオーラの質を理解して、調節する。
 どこにどれだけのオーラが必要なのか計算する。
 その後の動きと使うオーラの種類を考え、作戦を練る。
 頭が整理できたところで動き出す。
 まずは、さっきのお返しとばかりに、完璧なオーラ比率で打ち消し、拳の力で殴る。
 ツバルがニヤっと笑う。
 ライは殴ると同時につけた糸オーラを使って引力を発生させる。
 ツバルは途中で相殺させ、勢いを利用してライに襲いかかる。
 ツバルのミドルキック。
 ガードするも、糸オーラがついてくる。
 急いで相殺するが、今度はツバルの斥力を使われた。
 予想と違う方向への強制移動を、させられ、ライは戸惑う。
 ツバルは、糸オーラを、投げつけ着弾と同時に引力が発動する。
 ライは、今度は急に引きつけられるも、読み通り。
 ツバルが触れた瞬間、ライは無色オーラを展開。
 時を止める。
 ツバルは時を止められ、身動きできない。
 オーラを火オーラに切り替えて、ツバルのオーラを貫くように打ち込む。
 錬った無色オーラが尽きると、ツバルの時が動き出す。
 と、同時に、ツバルに打ち込まれた攻撃が発動する。
 ツバルは何発もの攻撃を時が動くと同時に食らう。
 何が起きたか理解し、反撃の体制を作る。
 光オーラで回復しつつも時間を止められることへの恐怖に戦慄する。
 オーラが繋がれば逆に利用して時を止められる。
 無色オーラへの、打開策がなく、困り果てる。
 しかし、それはツバルの計算内であった。
 オーラが繋がって困るなら、繋がっていることを気づかれなければいい。
 加速蓄積させたオーラを薄く広く展開する。
 トレーニングに使っている体育館全体に薄く広げて、誰も気付けないようにする。
 まずは斥力でライを壁に押し付ける。
 引力で惑星との引力を高める。重さにして1000倍。這いつくばっているところを歩いて近づき、チェックメイト。

 ツバルの勝利で終わった。

「時を止めたあたりから魔闘士協会では禁止している攻撃のオンパレードでしたね。お互い様ってことで許してくださいね」

 そう、魔闘士協会では、肉弾戦以外の攻撃は禁止している。
 肉体への直接的な引力と斥力あたりが限界と定めている。
 肉体の、攻撃以外で相手にダメージを与えることは禁止事項だ。
 
 その後アネモネも挑むが、攻撃のバリエーションに対応できず圧倒された。
 反撃する場面もあったが、有効打ではなく、終わってから悔しそうにしていた。

 しかし、やはり、本気で挑むことは重要らしく、かなりの魔力強化がされていた。
 これからの、方針として、無色オーラは積極的に使っていくことを決められた。
 無色オーラを使うことで、さらに駆け引きの要素が高まったが、それがより、本気度を高めることにつながり、合宿は順調に進んでいった。
 しかし、シャイナに無色オーラを使うのは躊躇われたが、本人から「使って下さい」と懇願されたので、使っていくことになった。
 だからといって、シャイナにライ達が勝てるようになるまではかなりの時間が必要だった。
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