私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

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二章

豪と絃歩

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 夜の小学校にて子犬に扮した罪獣との戦いを終えた、翌朝。藤宮さよとレクはいつも通り、制服姿で通学路を歩いていた。


「なぁ、さよ」


 起きるのが遅れたレクは、眼を擦りながら妹の方を向く。


「なーに?」
「俺ってほんとに能力者なのかな……」


 さよは目を丸める。心臓が止まりそうになる。
 バレてしまった。
 目の前が真っ暗になりそうだった。
 どうして、なにかボロが出たのか。


 確かに普段から矛盾だらけのことを言い聞かせてきたが、まさか怪しんでいるのか。いや、我が兄に限ってそれはない。このバカ……………いや、ちょっと人より抜けているお兄ちゃんに限ってそんなことはないはず。


「な、なんで?」


 焦りを悟られぬよう平然とした態度を取り繕う。
 兄の返事を前に、さよは息をのんだ。


「最近思うんだよ、俺は神なんじゃないかって」
「ふぇっ?」


 思わず素っ頓狂な声がさよの口から漏れる。自分の耳を疑った。

「俺が本気を出せば、いや出さずとも、この国を、この世界を服従させる事は容易な気がするんだ……」

 神妙な面持ちで何を語っているのか。


「それくらい最近の俺の進化っぷりは、常識を超えていると思うんだ。戦いの中で成長しすぎているというか。ホント自分がチートキャラ過ぎて怖くなるんだよ……」


 『成長』というのは昨日、私が二秒で思いついた『風の能力』の事を言っているのか。そういえばその後、勝手に『記憶に干渉する』とかなんとか言っていた気もする。さよは深く息を吐き出し、胸を撫で下ろす。


「私はテロリストの妹にはなりたくないよ」

 さよは兄の言うことを真剣に聞いた自分を情けなく感じた。

「ま、冗談だけどなー」 


 本当に冗談だと思っているのか。
 さよは兄の頭を心配する。


「はぁー。ホント一回くらい記憶を失くさず戦ってみてーなー」


 レクは虚空を見つめてボヤく。
 さよは、「お兄ちゃんはいつも倒れてるだけだよ」と言いたくなる気持ちをグッと堪えた。
 信号が赤に変わり、二人は立ち止まる。
 すると近くのバス停から黄色い声が聞こえた。


 目をやると、そこでは大学生風の女性数名が、ポーズを決めて写真を撮っていた。
 いわゆる自撮りというやつだ。あとで可愛く加工してSNSに投稿するのだろう。
 なんでもない光景。彼女らの声にだけ反応したさよは視線を移す。するとそこにはハッとして、光明が差したような表情をする兄がいた。


「思いついたぞ! さよ、頼みがある」


 さよは果てしなく嫌な予感がした。そしてそれは見事に的中する。


「俺の戦ってる姿を録画してくれ! スマホのカメラでいいから! 頼むぞ、今日の夜な!」


 さよはどうにか断る方法を考えた。しかし思いつかない。ダメだという理由が無い。「どうしてこんな簡単なこと思いつかなかったんだ」と小躍りしている兄を恨んだ。


「わかった……」


 力なく返事をする。
 せめて思いつくのが、気絶する直前だったら良かったのに。さよは肩を落とす。
 早急に対策を練らないと。


 信号が青に変わり、さよは重い一歩を踏み出した。そこに相変わらず朝の冷たい風が強く吹く。二人の前を歩いていた女生徒のスカートがめくれそうになる。その様子をレクは凝視する。
 妹のこころ、兄知らず。


 鼻の下を伸ばす兄を睨みつけ、さよは持っていた手提げの鞄で背中を叩く。日頃の鬱憤を晴らすように、その手には力がこもっていた。
 レクはバツの悪そうな顔を浮かべると、咳払いをして姿勢を正し、「なぁさよ」と話しかける。


「なに」


 刺々しく言い放つ。自然とイライラが態度に出る。


「なんだよ怒るなって」
「怒ってない」
「……大体な、俺が悪いんじゃないぞ、スカートが悪いんだ」
「はぁぁぁ?」


 思わず大きな声が出る。


「スカートなんて構造上、ぜんっぜん大事なものを隠すのに向いてないだろ!」
「それはまぁそうだけど。いやらしい目で見るのは気持ちが悪いの!」
「そうそう、パンチラといえば、見せパンってあるだろ?」
「インナーパンツのこと?」
「そんなカタカナは知らない」


 レクは胸を叩き、なぜか自慢気に誇る。


「女子ってよく『あ~これ見せパンだから見えても大丈夫~』とか言うけど、見えた時点で俺の勝ちだからな?」
「……勝ち負けなの?」
「イエス! 見られたくないならノーパンで過ごすことだな! 逆転の発想! コペルニクス的転回! くぅ~また論破してしまいましたわ~敗北を知りたいぜぇ……」
「とんでもない暴論だね! それに論破ってお兄ちゃんが一方的に話してただけでしょ!」


 さよがもう一度鞄を振り被ると、レクは逃げ出した。


「待てー!」と声をあげ兄の後を追う。


                      ☆   ☆   ☆


「いたぞ」

 兄妹のやりとりを遠くから見つめる制服姿の少年、坂本豪さかもとごうは呟いた。
 ツーブロックの髪型につり上がった瞳。


 男にしては細い体で、白いワイシャツと灰色のスラックスを身に纏う。ベルトの位置からはシルバーチェーンが垂れており、チャラついた第一印象を人に与える。


「ようやく見つけた。あれが城森の継承者……」


 一ヶ月ほど前。記憶を失くす寸前、城森から組織に送られたメールには、とある少女に自身の能力を継承したと書かれてあった。その後近くの病院にて城森と清水の姿を発見。関係者に扮した人間が二人に接触したところ、城森だけではなく清水も記憶を失っていた。彼女も能力を何者かに継承したようだが、その人物は不明。城森が継承したという少女の件も情報が少なく、この一ヶ月間、少女の発見は組織の最優先事項として扱われた。


 城森太陽は組織内でも一位二位を争う実力者だった。その彼が継承した人間は重要な存在だった。
 その少女をようやく発見したのである。
 しかも自分たちが。


 豪はその事実を噛み締めるように、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ごーぉー、いとほ、お腹空いたでしょ~」


 豪の隣には自分の名前、「いとほ」を一人称にする乃木絃歩のぎいとほがいた。
 胸元に赤いリボンを付けたセーラー服を着て、豪の袖を引っ張る。


 髪を一つにまとめてポニーテールにした絃歩は本来なら日本人形のように可愛らしく、端正な顔立ちの少女だ。
しかし、目の下にはクマがあり、常に口呼吸のため、締まりのない表情をしている。のんびりとした口調は覇気がない印象をさらに強める。


「お前、さっき朝メシ食べてきたんじゃねぇのかよ」


 学年は豪が中学二年生、絃歩が中学三年生。年齢も一四と一五で絃歩の方が一つ先輩だ。しかし、微塵も威厳を感じない絃歩に、豪は出会った直後から敬語というものを使っていない。そして、絃歩本人もそのことについて特に何も疑問を抱いていない。


「お腹、空いた、でしょ~」


 タイミングよく、「グ~」と絃歩のお腹が鳴る。


「いいからアイツらの尾行を続けるぞ」


 前のめりに歩く豪に対し、絃歩はさながら血に飢えたゾンビのようにフラフラと歩を進める。


「絃歩、本部に連絡しろ」


 豪が命令口調で告げる。
 しかし、絃歩の返事は聞こえない。
 豪は後ろを振り向くと、そこには屈んで地面から生える草をむしっている絃歩の姿があった。ブチブチと草を抜くと、そのまま口まで運ぼうとする。


「やめろ絃歩! 道草を食うんじゃねぇ!」


 豪は急いで駆け寄り、後ろから羽交い締めにして絃歩の動きを制し、無理やり立たせると手首を強く握り歩かせる。

「ごーぉー、いたいー、離して~」
「知るかバカ絃歩」
「離してってミミちゃんも言ってるよ~」


 豪の頬に温もりが押し付けられる。そこには絃歩がリュックから取り出した、桃色のウサギの人形があった。ウサギと言っても首から下は人の体を模しており、顔の部分だけがウサギの姿をしていた。人形の表情は穏やかに微笑んでいる。


「ミミちゃん」と名付けられたそれは、絃歩が幼稚園の時から共に過ごしている親友らしい。
 初めは立っていたであろう耳も今ではダランと垂れていて、年季を感じる人形だ。
豪は「きったねぇ」と言ってそれを払いのけ、「中学生にもなって人形とかキモいぞ」と吐き捨てる。
すると絃歩は目線を落とし、手元の人形を凝視する。


「なんだよ、悔しかったらなんか言い返してみろよ」


 豪は挑発的な態度をとる。
 しかし、絃歩の返事は聞こえない。

 
「ウサギ肉って美味しいのかな」


 絃歩はポツリと呟いた。
 その口端からはヨダレが溢れる。


「お前、やめろ! 何を考えてる!」
「あぁ、これ。ただの繊維の塊か。ねぇ、棉って美味しいのかな?」


 絃歩の声はそれまでの粘っこいものから一変して低くなる。
 そして口を大きく開け、ミミちゃんの頭部にかじりついた。


「やめろおおお! 親友を食べるなあああ!」


 豪は離そうとするものの、絃歩の目は血走っており、野生の獣の目をしている。完全にイカれてしまっていた。一方のミミちゃんは片目を飲み込まれ、頭部を引っ張られるが、なおも笑顔を崩さない。
 さすが親友。
 豪は仕方なく爪を立てて、自分の腕を思い切りつねる。すると次の瞬間には、人形は豪の手元にあった。
 絃歩は今まで口にあったものが急になくなり、キョトンとしている。しかし、赤く腫れた豪の腕に目を落とすと「あ~、ごぉーずる~い」と拗ね始める。


「ごはん返して~」
「親友を非常食扱いするな! 没収だ!」


 そして豪は思い出したように後ろを振り向く。
 先ほどまでいた藤宮兄妹の姿は見えなくなってしまった。


「お前のせいで見失ったじゃねぇかこのバカ絃歩!」


 豪はミミちゃんで絃歩の頭を何回も叩く。


「いたい~」


 絃歩は抵抗することもせず、気をつけのポーズをして叩かれていた。
 そして自分のスマホを取り出し、起動すると「そろそろ行かないとがっこーちこく~」と、彼女は叩かれながら、画面に映る時間を豪に向けて見せた。


「ぜんっっっぶお前のせいだからな!」


 最後に強く吐き捨てると、手にした人形を絃歩に押し付ける。
 そしてゴミでも触ってしまったように、わざとらしく彼女のシャツで両手を拭く。


「はやく~ちこく~」 

 腕を振って唇を尖らせる絃歩は、まるで中学生には見えない。


「うるせぇ」


 豪はポキポキと首の骨を鳴らした。


「また今日もね」


 絃歩が優しく囁いた。
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