私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

文字の大きさ
11 / 31
二章

墓地での私闘

しおりを挟む
「俺の戦ってる姿を録画してくれ!」


 ベッドの上で転がるさよの頭に、レクの言葉が何回も再生された。
 結局午前中と午後、全ての時間を使い対応策を練ってみたが、何も思い浮かばないまま、時刻は二三時を回っていた。
 枕に顔を埋めるさよ。すると乱暴に扉を叩く音がした。こちらの返事も待たずして、扉は開かれた。


「さよ! まだか! まだ敵は来ないのか!」


 藤宮レクは、敵の気配を、「エナジー」を感じ取ることができない。元来それは能力者としてありえないことだった。さよは昨日、「気配を察知するのが私の能力なのかも」とうそぶいたが、察知できるのが普通であり、察知できないレクの方が異常であった。


 さよは今日ほど罪獣と会いたくない日はなかった。
 自分が罪獣の気配を察知し、気づかず呑気に寝ている兄を叩き起こすこともあった。「眠い眠い」と悪態をつく兄に対し、怒りを抑え「お兄ちゃんがいないと世界が滅びるの」となんとか兄のやる気を出させたこともあった。



「はぁ」


 さよの口から深いため息が溢れる。その時、ピクンと肩が動いた。
 ああ、この感覚は。
 一瞬さよの動作が止まったのをレクは見逃さない。


「来たんだな、行くぞ!」
 強引に手を掴まれ、パジャマのまま外に連れられる。

「あ、え、ちょっと」

 さよの抵抗も虚しく、二人は今日も罪獣を退治しに夜の街へ出る。


 泣きたくなる気持ちを抑え、さよはエナジーの気配を追う。このままどこか適当なところに連れて行き、「見当たらない、逃げられた」と言ってしまおうかと考えたが、根が真面目なさよは正直に気配のする場所へ向かってしまう。


 着いた先は霊園だった。
 あたりは闇に包まれ、物音一つしなかった。
 月光の下では、汚れた暮石も堂々とそびえ立っていた。添えられている花が怪しく見える。
 場所が場所なだけに、さよは恐怖を覚えた。全身からじんわりと汗が流れ、思わず帰りたくなる。


「ここか! いい場所じゃないか!」


 墓場だというのにレクは涼しい顔をしている。レクはジャージのポケットに手を突っ込み何かを探す。しかし、目当てのものが見つからないようで、「しまった」という表情を作る。


「やっべー、さよ、スマホ持ってる? 俺忘れて来ちゃった」


 さよのポケットは長方形に膨れていた。
 なんで持って来てしまったのだろうと後悔するが、すでに心中どうにでもなれと諦めていた。


「……持ってるよ」
「じゃあお前ので頼むわ」


 するとレクはさよの真正面に立ち、「あめんぼ赤いなアイウエオ」と発声練習を始め、咳払いをしてからオッケーと合図する。
 まだ罪獣もいないのに、ここから撮り始めるのか。
 さよは意外に思い、スマホを取り出すと録画モードにする。


「はいどーもー、あなたの心にREC、REC! レクTVへようこそ~」


 さよはすぐさま録画を停止した。
 言葉を失う。


「おい、なんで止めるんだよ~」


 まだ言葉が出ない。悪寒がするのは、墓地のせいか。いや違う。
 言葉は出ないが、首を横に振る。体が目の前の光景を拒絶していた。


「い、今の……なに……」
「何ってレクTVの挨拶だろ」
「さよは思うの……二度とやらない方がいい」


 意味がわからなかった。寒気を通り越して吐き気さえ覚える。
 兄の言っていることも、「REC」の意味を知らない兄も、レクTVなるものも。


「もっかい撮り直しじゃねーかよー、編集大変なんだぞ~」


 レクは文句を言いながら、垂れ下がったさよの腕を持ち上げ、カメラを正面に構えさせる。
 さよは体から力が抜け、まるでマネキンになったように、兄のなすがままになる。


「はいどーもー、あなたの心にREC、REC! レクTV……ゔぇえっっ!」


 カエルのような声を上げ、レクはその場に倒れていた。その背後には鎌を持った死神のような罪獣。背後からの一撃でやられたレクは、後頭部から血を流す。
 さよは相変わらず、硬直したまま、真顔だった。


 無。


 おそらく兄がやられて、ここまで無心でいるのは初めてだ。
 ざまぁみろ。とも思わなかった。
 もうこのまま帰ろう。さよがその場を後にしようとした時、鎌を持った罪獣が襲いかかる。
 そしてさよは、仕方なく、視界の端で捉える兄の血液に目を向け、覚醒した。


 兄に対してここまで無心だったのに、その血液に興奮する自分が、なんとも恥ずかしかった。
 振り下ろされた鎌を片手で受け止め、そのまま握り潰す。
 左右の手に力を込め、炎を宿すと、罪獣の頭部を挟み焼き尽くした。


 数秒の出来事。
 まさに瞬殺。


 死神風の罪獣が焼かれる光景は、さながら聖火で浄化されてるようだった。
 戦闘を終えたさよは、離れた草むらに視線を感じる。
 振り返ると、その気配は既に失せていた。


 気のせいか。そう思い、一撃でやられた兄の元まで歩み寄る。
 あくまで元の姿に戻るため。
 そう言い聞かせながらも、頬は熱を帯び、吐息が漏れた。
 さよはまたも自己嫌悪に浸るが、こみ上げる情欲を抑えることは不可能だった。兄の血液を堪能すると、しばらくして元の姿を取り戻す。額に汗が滲んでいた。それを破けた服で拭うと、辺りを見渡す。


「さて、どうしよう……」


 どう演出を施そう。今日はどういう設定にしよう。
 いや、その前に。
 さよは思い出す。


「あ、スマホ……」


 見ると足元には、業火に焼かれ、スマートフォンだったものが転がっていた。液晶画面は粉々に割れ、形は変形している。
 さよはその場に崩れ落ちた。


「この前買い換えたばかりなのに……」

 涙で視界が霞んだ。

「うぅ……う……」

 するとレクが意識を戻し、体を起こす。


「また俺は…………ハッ、そうだ! さよ、ど、どうだ! しっかり撮れたか、俺の姿!」


 レクは顔を近づける。
 さよは俯きながら、地面を指差す。自らの手で破壊してしまったスマートフォンを。


「お、お兄ちゃんの、覚醒したエナジーが、凄まじすぎて…………壊れた」


 レクは胸に刻むように、さよの言葉を聞くと身震いをする。


「うおおお! まじか! そんなにすごかったのか!?」


 レクは一人、墓地にて叫ぶ。すっかり機嫌を良くしたレクは帰り道でも調子に乗ったままだった。


「やっぱ機械なんて所詮は人間が作ったものだからな~。人を凌駕し神の域にまで差し掛かっているこの俺のエナジーには耐えられなかったか……」
「………………」
「だが、次の手段を考えないとな~。なーさよ、どうやったら俺が、俺の覚醒している姿を見られるか一緒に考えてくれよ!」
「………………」


 さよは家に着くまで終始無言だったが、レクは一人で喋り続けていた。
 スマートフォン、どうしよう……。
 肩を落とす妹と、誇らしげな表情をする兄。
 さよは霊園から家に辿り着くまでの記憶がなかった。
 自室に戻り呆然と立ち尽くすと、風呂に入るのも忘れ泥のように眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...