私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

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二章

監禁

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 藤宮さよは豪邸の一室に囚われていた。
 手足を縄で椅子に縛られ、座らされる。
 一瞬の出来事だった。


 制服に着替えたさよは、玄関を出て朝の新聞を取ろうとポストに向かった。次の瞬間には、口にガムテープを巻かれ手足を抑え付けられ体の自由を失った。
 そして現在に至る。


 藤宮家のリビングより広い一室にさよはいた。部屋には高級そうな調度品が並んでいる。
 何時間とこの椅子に拘束されているのに、背中やお尻が全く痛くならなかった。
 ワインレッドの絨毯は見るからに高価そうで、天井にはシャンデリアがあった。
 

 お兄ちゃんはちゃんと遅刻せずに間に合ったのだろうか。学校の方には先ほど自分の口から欠席すると伝えた、もちろんそれは自分の意思ではないのだが。
 

 さよは物思いに耽た。レースのカーテンの隙間からガラス越しに外を見ると、そこには噴水のある庭園があった。ノックの音が二回して、扉が開く。


「よう、藤宮さよ。どうだ気は変わったか」


 そこには昨日、駅前の大通りで話しかけて来た坂本豪の姿があった。自分たちとは違う学校の制服。ベルトの辺りからはシルバーチェーンが垂れている。


「何度も言ってる通り、加入はしません」


 朝から何回も繰り返されたやりとりだ。豪は辟易してため息を吐く。


「強情な奴は好きだが、流石に程度っていうものがあるぜ藤宮さよ」
「だから言ってるでしょ! 私を組織に加入させたいなら、お兄ちゃんも一緒に入れて!」


 レクのことを言うと、豪はあからさまにイラつく。


「無理だ。だいたい、なんであんな奴と一緒に戦ってる。一般人を巻き込むなって教わらなかったのか? それとも
あのしぶといゴキブリ野郎を盾にでも使ってるのか?」


 さよは昨日のことが思い当たるが、悟られぬように睨み返す。
 違う、盾に使ったのではない。あれは、私が覚醒するために仕方がなくやったことだ。
 自分自身に言い聞かす。


「つーかお前、なんで今朝から能力を発動させない。お前の力ならそんな縄くらいなんでもないだろ」


 さよは言葉に詰まる。


「それは……出来ない」


 豪は指の関節をポキポキと鳴らしながら歩み寄り、息がかかるほどの距離から睨みつける。


「お前、舐めてんのか?」


 さよは俯く。
 このようなやりとりが永遠と繰り返されていた。
 さよは、出来ることなら組織に入りたくはない。


 組織の人間と行動を共にし、情報を共有するとなれば、当然自分の能力を打ち明けないとならない。すると必然的に、レクの「不死身だが気絶する前後の記憶が抜け落ちる」という能力も話すことになる。兄の能力を知る人間が増えるということは、それだけ兄の耳に自分の能力が伝わるリスクが増えるということだ。


 もしも兄が真実を知ってしまったら。
 今まで自分が最強の能力者だと信じていたのに、それが一瞬で崩れてしまったら。
 兄はどれだけ傷つくだろうか。


 考えたくもない。
 さよにとってそれだけは避けなければいけない事態だ。
 お兄ちゃんのために、絶対に私は真実を知らせるわけにはいかないのだ。絶対に。


 お兄ちゃんは、私が守るんだ。


「…………」


 さよは下を向き、真一文字に口を閉じる。
 その様子に豪は痺れを切らしたのか、舌打ちをすると、懐からナイフを取り出す。鋭利なナイフがシャンデリアの光を反射させる。


「藤宮さよ、五秒以内に自分の能力を説明しろ。そうしないと今からお前を殺す」


 それが脅しであることは分かっていた。自分の命を奪うチャンスは朝から何度となくあったはずだ。


「五……」


 しかし、さよにも体力の限界が来ていた。


「四……」


 いつまで反抗的な態度を取れるか自信もない。


「三……」


 それに、正直に自分の能力を告白した方が兄も組織に加入できるかもしれない。そうすれば、兄を一人にすることもない。私が今以上に警戒すれば、なんとかなるかもしれない……。


「二……」
「私は……」


 さよはいよいよ観念し、口を開く。


「一……」
「私の能力は……」


 その時、庭から誰かの叫び声が聞こえた。
 幻聴か、とも思われた。
 しかし、目の前の豪もカウントを止め、窓の方へと顔を向けている。そしてもう一度、微かに声が聞こえる。


 それは勘違いかもしれないが、兄の声に似ている気がした。
 自分でも都合のいい、幸福な勘違いだと思う。エナジーの気配さえ感じることができない兄が、どうして助けに来てくれるというのだ。


 人は、自分が信じたいように思い込む生き物らしい。
 そんな人間をいつも間近で目にしているというのに。
 私は何を勘違いしているんだ。


 自分自身に呆れた。だが一瞬でも、兄が助けに来てくれたという勘違いは心を満たした。


 そして、もしも。
 それが勘違いじゃなかったとしたら。



 私は世界一、幸せな妹だろう。



 ノックもせず扉が大きく開かれた。


 目の前には乃木絃歩が立っている。
 彼女にしては珍しく、焦ったような顔を浮かべていた。


「豪、ヘンタイ! じゃなくてタイヘン! さよちゃんのお兄ちゃんが来ちゃったちゃん!」


 さよは耳を疑った。
 絃歩の言葉を聞いた豪は、急いで窓に近づき刺繍が施されたカーテンを乱暴に開ける。そこには広大な庭園にポツンと、我が兄、藤宮レクが丸腰で立っていた。
 

 そして大声で叫んでいる。


「さよーーーーー助けに来たぞおおおおおお!」


 今度は聞き間違えることはない。


 ―正真正銘、私の大好きなお兄ちゃんが助けに来てくれた。
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