私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

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二章

戦いの結末

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 絢爛豪華な調度品が並んだ一室に、少女の叫び声が響く。


「お兄ちゃんっ!」


 さよは窓の外を眺める。痛めつけられる兄を見つめ、悲鳴にも似た声をあげた。


「お願い、もうやめて! 離して!」


 瞳を潤ませ、乃木絃歩に解放するよう求める。


「確かに、ごーはやりすぎでしょぉ~」


 絃歩も庭にいる二人を見つめ、心配そうな表情をする。


「だから! 豪くんを止めるためにもこの縄を解いて! お兄ちゃんを守らなきゃ!」
「ふぇぇ~でも、勝手にそんなことしたら、豪に怒られちゃう……」


 しょぼーんとした様子で絃歩は俯く。


「わかった」さよは覚悟を決める。
「あなた達の仲間に、組織に入るから。だから、離して……」


 芯の通った声で、真っ直ぐ絃歩を見つめる。


「ほんと? ほんと? あとで嘘って言わない?」
「言わない……」
「じゃあ今から契約書を持ってくるから、そこにサインするでしょぉ~」
「後でするから! 早く離して! 早く私を、お兄ちゃんの元まで行かせて!」


 苛立ったさよは屋敷中に聞こえるような声で怒鳴った。
 さすがの絃歩もあまりの剣幕に圧倒され「はいぃっ!」と怯えたように返事すると、さよの体を縛っていた縄に噛み付く。


 ガシガシと、鋭い歯を立て、絃歩は麻縄を噛みちぎった。自由を取り戻したさよは、跡がついた手首と足首をさすりながら、部屋を飛び出す。絃歩はその後を追うこともせず、夢中で縄をしゃぶっていた。
 柔らかい赤の絨毯を踏みつけ、廊下を走る。
 壁には淡いタッチの風景画が何枚も並んでいたが、さよは目もくれずに玄関へと向かう。


 私のせいだ。
 自分を責めた。
 私のせいで、お兄ちゃんが。


 考えれば考えるほど、涙が溢れ出しそうになる。しかし今は泣いている暇などない。
 不死身な兄が痛めつけられる姿を見て、組織に加入すると言ってしまった。殴られた痛みも、切りつけられた傷も、彼の能力が発動すればすっかり消えてしまう。


 ただそれは、レクが、兄が死んでしまうということが前提の話だ。
 あの一室で、黙って兄の力尽きる姿を見ていられるさよではなかった。たとえ自分の下した選択が、この先の自分たちを苦しめることになったとしても。


 お兄ちゃんは、私が守るんだ。


 さよは精巧な彫刻がされた手すりを掴み、階段を降りる。


 間に合って。
 妹は庭園へと急いだ。




 屋敷の庭園では、未だ戦闘という名の一方的な暴力が続いていた。おぼつかない足で、レクは立ち上がるが、もう何度目かの豪の拳で地に沈められる。
 目の上は腫れ、顔中が青いアザだらけだった。腕に力が入らず、立ち上がることさえできない。全身に痺れが走り、キーンと耳鳴りがする。それは脳からのSOSだった。


 呼吸をすることで精一杯だ。


 うつ伏せで倒れていると目の前の石畳の道を、アリの行列が進んでいる。
 以前テレビで探検家がアフリカの国を訪れた際、町外れの村でアリを食べた。と体験談を話していた。
 曰くアリは酸っぱい味がするらしい。
 目の前のこいつらもレモンみたいな味がするのか……。


 俺は酸っぱいのは得意で、辛いものが苦手だ。さよは逆だ。酸っぱいものが苦手で辛いものが得意。兄妹で違うから母さんは苦労していることが多い。カレーなんかもさよは辛口が好きだが俺が食べられないので甘口にしてもらっている、出てきたカレーにさよはいつも不満そうにしている。だが唐揚げなんかが食卓に並ぶといつもレモンがない。それで俺は家の唐揚げが好きじゃなくて、歩いて六分で着く居酒屋の唐揚げが好きで。中でも沖縄のザンギが好きで、そこの居酒屋は焼きそばも美味しくて、俺は毎回注文するんだけど、その度にさよが……。


 レクの顔の横に革靴が踏み下ろされる。


 現実から逃れるように、ぼんやり遠のいていたレクの意識がそのつま先に集中する。


 いけない、俺は、何を考えていたんだ。


 なんでこんなどうでもいいことを考えているんだ。何を思い出してるんだよ。


 まさか、これが。


 走馬灯ってやつか?


 レクはうまく働かない頭を動かす。
 どうして……能力が発動しない。
 いつもなら、気がついたら敵が倒れている。
 戦闘は俺の意識が戻った時には終了していて。
 目に映るのは荒れ果てた戦場で。
 隣には妹が、ボロボロな服を着たさよがいる。
 それがいつもだ。


 それが俺のバトルだ。


 いつも、俺は、こんな痛い思いをしていたのか。こんなに血を流して、アザを作って、覚醒していたのか。
 そうだとしたら、俺の、一体どこが最強なんだ。
 レクは首根っこを掴まれ、無理やり立たされる。
 豪の腕が首に巻きつき、ヘッドロックをされる。
 足が震え、腕に力が入らない。


 まだか、まだ終わらないのか。


 次、瞬きをしたら、終わっているのか。
 あとどれくらい経ったら、俺は覚醒するんだ。
 あとどれくらい経ったら、全てが終わるんだ。
 

 レクは明らかに衰弱しきっていたが、豪の息も絶え絶えであった。人の体というものは固く頑丈だ。一方的に殴り続ける豪の拳は腫れ上がり、擦り剥けていた。


「さすがのゴキブリ野郎もそろそろ力尽きたか?」


 絞首する腕に力が入る。レクの顔が赤くなり、うめき声を上げ咳を出す。


「がっ…………あっ……」
 

 段々意識が薄れていく。
 目の前がチカチカする。
 

 ああ、死ぬ。
 

 死を覚悟した時。
 

 ――――ドクンッッッ!


 突然レクの心臓が強く脈打つ。
 

 胸の内にある歯車がゆっくりと動き出し、体のうちから何かが溢れてくる。レクは自分が「あれ、ここはどこだ」と考えていることに気がつく。今までの記憶が飛び飛びになる。歯車は高速で回り出す。鼓動はさらに激しくなる。
 

 ああ、そうか。これが―。
 ようやく、
 やっと、覚醒する。


 俺の、勝ちだ。


 レクの唇が横に伸びる。それは首を絞められ筋肉が痙攣しているのではない。
 レクは、笑った。
 背後を振り向き、震える手を上げ豪に向かって中指を立てる。


「お前の負けだ」


 豪は恐ろしそうに顔を歪めた。
 その瞳が、恐怖に染まったように見えた。
 レクは自身の勝利を確信しながら、意識をなくす。
 

 それと同時に。
 

 藤宮レクの能力が発動する。
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