私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

文字の大きさ
30 / 31
三章

私のバトルは見せられない

しおりを挟む
 やった。


 やっと、勝った。
 やった、やったよ。


「お兄ちゃん」


 勝ったよ、私、やったよ。
 兄に褒めてほしくて。かっこよかったと言ってほしくて。


「やったよ、お兄ちゃんッ!」


 しかし、振り返った先から返事が返ってくることはなかった。
 さよは絶句した。
 そこには、先ほどの攻撃の巻き添えを食らい、丸焦げになったレクの姿があった。


                       ☆   ☆   ☆
 
              
「ッ! なんだ今の炎は! 絃歩、急ぐぞ!」
「ンンーーッ! ンンー!」
「テメェ、絃歩オラ! ここにきてシンプルに菓子を食うな!」
「あ~、ごーぉー、キャンディー返すでしょぉ~」


「それどころじゃねぇだろ!」
「だって~もう敵さんどっか行っちゃったみたいだよぉ~?」
「どっか行っちゃったってお前……」
 

 そんなやりとりをしながら、坂本豪と乃木絃歩がようやく駆けつけてきた。
 おかしなところだらけの二人のやりとりだが、今のさよにツッコミを入れる気力は残されていなかった。


 彼女は今、目の前の問題に手一杯なのだ。
 兄妹の兄、藤宮レクは頭を抱えてしゃがみこんでいた。


「まただ……また、やっちまった。どうして、どうして俺は……」


 レクは誰に向けるわけでもなく、独り言をブツブツと呟く。


「…………」


 兄妹の妹、藤宮さよは無言で立ち尽くし、我が兄を可哀想な人だと見下ろしていた。


「さよ、俺、今日こそは憶えてられるって思ってたんだ」
「…………」


 兄の独り言と鼻をすする音。


「ああ、また。これ全部俺がやっちまったのか……」


 レクは一面焼け野原になってしまった広場を見渡す。


「…………」
「俺はいつもそうだ。キレると記憶が飛んじまうんだ。気がついたら相手が白目を剥いて倒れてるんだよ」


「…………」
「ハハッ、本当自分でも情けねーよ。哀れな兄を存分に笑ってくれ、さよ」
「…………」


 レクは伸びをしながら立ち上がり、肩についた灰を払う。


「しかし……今回は威力が桁違いじゃあねぇか。俺の爆撃能力じゃここまでは……ハッ! も、もしかして俺は、また新たな能力に目覚めてしまったのかッ!」
「…………」


 さよは感情を失ったように、兄を見つめる。


「まったく、自分で自分が怖いぜ……。ああ、ちくしょう。またしても、今回も俺は」


 少年の叫びまで―約一秒前。


「バトルの記憶が一つもねえええええええ!」
「…………」


 兄の叫び声を聞きながら、さよは思う。
 何が世界一かっこいい最強の能力者だ。
 正真正銘、この兄は最弱の能力者で間違いない。


 私の告白を。二人で勝ち取ったはずの勝利を。
 こうも簡単に忘れてしまうだなんて。
 やはり、やはり、この兄には。


 私のバトルは見せられない。



                      ☆   ☆   ☆


              
 翌朝。
 藤宮さよは、高校棟の廊下を足早に歩き、レクの教室の引扉を開いた。


「もう! お兄ちゃん、せっかくお母さんがお弁当作ってくれたのに忘れたで―」


 だが目の前の光景に言葉を失う。


「や~ん、レッくん、カーワーイーイー♡ 今日は一緒にお昼食べようね~」


 教室中の視線を集めている窓際の席。兄の膝の上にまたがるようにして座る美少女が一人。


水晶のように澄んだ瞳、すらりとした鼻筋、赤みを帯びた唇。どこか幼さを残した顔立ちと、スタイルのいい体つき。


 胸元のボタンは大胆に開けられており、短いスカートからは肉付きの良い太ももを惜しげも無く衆目に晒している。


「ちょっ、ちょ、おま、じゅ、じゅ~り~、やめろって~み、みんな見てんだろ~?」


 鼻の下を伸ばし、締まりのない顔をする我が兄。


「なっ…………なっ…………なんで」


 さよは、片手に持った巾着袋を思わずその場に落としてしまった。


「なんであんたがここにいるのよッ!?」


 さよは思わず声を張り上げる。


「お、どうした~さよ~お兄ちゃん今ちょっと忙しいんだ。な~、じゅり~」
「お兄ちゃん! 嘘でしょ、憶えてないの!? そいつは昨日戦った罪ンガゴモフガ……」


 言いかけたさよの口を急いで立ち上がった樹梨が手で塞ぐ。


「きゃ~藤宮くんの妹さん!? ちょ~かわいい~萌える~小動物みた~い、小さすぎてミジンコと間違えるレベル~、ちょぉ~っとお姉さんとお話ししようね~」


 樹梨は半ば強引にさよを教室の端まで連れて行く。


「ブハァッ! 離せ罪獣! なんで生きてるのよ! 今ここで倒してやる!」
「やれるもんならやってみなさい、このちんちくりん! レッくんの力がないと何もできないクセによくそんな大口が叩けるものね!」


「だいたいその『レッくん』って何よ気持ち悪い! あんたもしやまだお兄ちゃんの命を狙ってるの!?」


「そんなわけないでしょ! 私は昨日思ったの。レッくんこそが私の王子様なんだって。躊躇なく自分の命を賭して無力な妹を守る姿、そして変貌した筋肉怪物を見ても受け入れる寛容さ。

レッくんに出会い結ばれることが、私の運命。この人間界に送り込まれた理由なの!」


「あんた昨日復讐がどうとか言ってたじゃない!」
「あーそんなこともあったわね」
「軽ッ!? いいんだ! その程度でいいんだ!?」


「言ったでしょ、私の能力は『適応』することだって」
「ただ自分に都合よく解釈してるだけでしょ!」


 二人は教室の端で舌戦を繰り広げる。


「おーい、どうしたさよ、じゅり~」
「あ! なんでもないよ~レッく~ん」
 

 樹梨は猫なで声で返事をして、「あんたレッくんに私が罪獣だってことバラしたらタダじゃおかないからね」と一言さよは釘を刺される。


「レッくぅ~ん、たーだーいーまー」


 樹梨は抱きつくようにレクの元まで戻る。
 すると後ろの席から、ポキポキと指の関節を鳴らす音が聞こえる。


「…………」
「ヒィッ! ど、どうしたんだよ、薫子、え? 誰を殺すんだよ!? 物騒なこと言うな!」


「…………」
「やーん♡ こんな根暗とも話してあげるレッくんやーさーしーいー」


 甘えた声をあげてレクの首に腕を回す。


「…………コロス」


 ぼそりと呟きが漏れる。


「表出ろこのアバズレが! それ以上レクきゅんにきったねぇ声で話しかけてみろ、その顔ミンチにしてやるからな!」


 クラス中に聞こえる声で。
 田中薫子は椅子から立ち上がり、怒号を上げた。


「しゃ、喋った……」


 クラスの誰かが声を発する。


「喋った」
「あの、薫子さんが……」
「喋ったぞーーー!」


 それまで周りを囲っていたクラスメイト達は一斉に薫子の元に駆け寄り、彼女を神輿のように奉り胴上げを始める。


「離せえええ! 私は今からこいつの体を肉片に変えてドブ川に捨てるんじゃああ!」


 空中に持ち上げられながら薫子が叫ぶ。あっという間にクラス中が阿鼻叫喚と化す。
 そしてさよは一人教室を後にして、深いため息を吐いた。


 それは、キャラが一八〇度変化した安西樹梨に。
 それは、死闘を繰り広げた相手すら忘れて鼻の下を伸ばしている残念な兄に。
 

 朝日が窓から差し込む。その眩しさに、さよは思わず目をすがめた。
 キンコンカンコンと古典的なチャイムに紛れて。




 藤宮さよは、もう一度大きなため息を漏らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...