氷焔の冒険者~元ヲタは異世界で侍になるそうです~

不知火 氷雨

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第一章

10 訓練の成果

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「ブルルァッ! ブルゥ......!」

 俺の目の前で、鼻息荒く憤っているのは一般にダッシュボアと呼ばれる魔物だった。普通のイノシシの2倍ほどの体格と全長の半分もある大きな牙、それに生半可な刃物では傷すら付けることはできない毛皮、それらが合わさって中々の雰囲気を醸し出している。

「よし......かかってこいよ、猪豚」

 俺は刀を抜き、挑発をする。馬鹿にされたことが分かったのか、ダッシュボアは激しく首を振って、こちらを睨みつけてきている(ような気がする)。
 それを見て、俺もすぐに臨戦態勢へ入る。

―――――強化魔法Lv.5・全身強化・視覚強化
―――――常在戦場の構え

 先程までの空気感とは、一変して糸が張り詰めたような緊張感が漂い始めた。あんなに鼻息荒く暴れていたダッシュボアも静かにこちらを窺っている。
 先に張られた糸を切って動き出したのは、ダッシュボアだった。その"走る猪"という名に相応しく、その牙を突き刺さんと突進してくる。ただの突進と侮るなかれ、その威力は直撃すれば大の大人など紙切れのように吹き飛ばしてしまうだろう。

「まぁ......当たればの話だけどな」

 俺は強化された視覚と極限まで研ぎ澄まされた反射神経のおかげで、引き延ばされたように感じる時間の中、タイミングを合わせて横へ飛ぶ。

「......しっ!」

――――――魔力纏化・刀身強化
――――――刀術Lv.5・骨断ち

 
 すれ違い、そのまま刀を納める。
 ダッシュボアの体はそのまま走り抜け、前のめりに倒れる。......その頭を俺の足元に置いていったが。

「おぉ......そこそこ綺麗に切れるようになったかな」

 自らが切った切り口を検分して、評価を下す。
 かなりの時間、戦闘と訓練に費やしてきたのだし、これくらいは出来ないと駄目だろう。

「さてと......」

 ダッシュボアの頭を掴み、胴体のところまで持っていく。初めの頃はこういうのを見ただけで、吐きそうになっていたが、流石に慣れてきた。

(それがいい事なのかは分からないけどな......)

 アイテリアルから貰ったあの赤黒いナイフを取り出し、解体を始める。首は落としていたので、血抜きは済んでいるから楽だ。
 腹にナイフを入れ、開こうとしたとき。

「......はぁ、早くしないと肉の質が落ちるのに」

 ナイフを太ももの鞘に納めて、立ち上がる。
 振り返れば、先程の個体よりも一回り大きなダッシュボアが居た。どうにもブチ切れているらしく、血走った目で明らかに俺を見据えていた。

(これは......つがいだったか)

 ダッシュボアはつがいの仲が良く、一生を同じパートナーと過ごすと言われている。それにあやかろうと夫婦の円満を願って、結婚式などでもダッシュボアの料理が出されるそうだ。
 ただ、それだけにつがいが老衰以外で死ぬと残った方は凶暴になり、手がつけられなくなるという。
 今、俺の目の前にいる個体がまさにそうだろう。激しく首を振り、今にも襲いかかって来そうである。
 しかし、まぁ俺には関係ないのだが。

「よし、今日は幸先いいな。このサイズは中々お目にかかれないぞ」

 俺はその場で腰を落とし、刀の柄を握りしめる。

――――――魔力纏化・刀身充足
――――――強化魔法・全身強化
――――――常在戦場の構え

 「ブモァッ! ブルルゥッ!!」

 俺の殺気に反応したのか、こちらへと思いっきり突進してくる。慌てずに相手を見据え、タイミングを測る。

――――――刀術Lv.5 居合・飛燕

 抜刀と同時に逆袈裟に刀を振り抜く。まだ距離はあるが、問題は無い。
 刀を振った軌跡をなぞるようにして、魔力で形作られた斬撃が飛んでいく。
 このままいけば、あの猪の頭をかちわるだろう。

「......なっ!?」

 しかし、予想に反してその斬撃はよけられ、後ろにあった木を切り倒すのみに終わった。

(ま、まずいっ!! )

――――――強化魔法・脚力強化
――――――縮地

 俺は跳んで突進を躱す。ダッシュボアはそのまま背後にあった木に突っ込み、薙ぎ倒していた。

「おいおい......勘弁してくれよ」

 普通、ダッシュボアは一度走り出すと直線的にしか動けない為、避けやすく狩りやすい初心者向けの魔物だ。だから俺も走ってくる奴に対して斬撃を飛ばした訳だし。
 つまり、何が言いたいかというとあの個体はおそらく、ダッシュボアではない・・・・・・・・・・。かと言って俺には種類なんて分からない。師匠なら分かるのだろうが。

「そんな時にはコレだな」

ーーーーーー鑑定Lv.4


種族:ラッシュボア

ダッシュボアの上位種である猪型の魔物。通常のダッシュボアよりも身体が大きく、若干黒っぽい毛色をしている。またその牙も太く、より鋭くなっている。
それなりに自在に動き回れる為、初心者が直進しかできないダッシュボアと間違えて挑み、死亡するケースが多い。通称"初心者殺しビギナーキラー"


「やっぱりか......」

 単調な攻撃では避けられるということだ。ではどうすればよいか?
 幾つか手段は思いつく。一つは避けることが出来ない程、多彩な攻撃を仕掛け、手数で翻弄する方法。さして難しくはないが、大変そうなのであまり取りたくない手段である。
 もう一つは避けられてしまうのなら、動けなく......。

「って危なっ!」

 ヒーロー物の必殺技シーンの時みたく、考えている間に待ってくれるはずもなく、ラッシュボアはこちらに攻撃を仕掛けてきた。
 当たらないように逃げ回りながら、先程目の前まで迫ったいた牙を思い出す。

(物凄く鋭そうな牙だったな......あれならこう・・した方がいいか?) 

 一つの作戦を思いついたので、実行に移す。後ろからラッシュボアが追いかけてきていることを確認して、近くの岩壁に向けて走る。
 岩壁の前に立ち、ギリギリまで引き付けてから、自身も岩壁に向かって走り、駆け上がっていく。直後、ズンッと腹の底に響くような音がして下を見れば、作戦通り強靭な牙が突き刺さっていた。

――――――強化魔法・脚力強化

 俺は壁を蹴って、跳ぶと下のラッシュボアに向けて落ちていく。そして近づいてきた時、刀の柄に手を掛け構える。

――――――魔力纏化・刀身強化
――――――刀術Lv.5 居合・枝垂柳しだれやなぎ

 落ちる力に任せながら刀を 一気に引き抜き、なびく柳の枝のようにするりと首を断ち切る。
 何の抵抗もなく首が落ちていく。 

「ふぅ......疲れた」

 ようやく戦闘も終了し、俺は解体を始めていくのだった。

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