25 / 32
第一章
22 職業病は時として人を狂わせる
しおりを挟む街へ出て、最初に向かったのが服屋だった。
「おお......」
「ここは一年ほど前にできたところで、普段着から儀礼用の服まで数多くを取り揃えている人気のお店なんですよ」
見上げた視線の先には、シックで落ち着いた雰囲気のおしゃれな看板があり、そこには「ネーナの服屋」とだけ書かれている。おそらく店主の名前なのだろう。
「すごいなぁ、わかってたことだけどこうまで変わってると感慨深いものがあるね」
「アリアお姉さんはいつからここを離れていたのです?」
「んーとね、二年ぐらい前かな」
「ほへー、だいぶ前ですね」
「まぁね」
しゃべる彼女たちを置いて、俺は服屋のドアへと向かう。
あのまま、待っていたらいつまでも入れなさそうだからな......。
「ここからでいいのかな? ごめんくださーい!」
扉を開けて中を覗いてみる。
まず視界に飛び込んできたのは壁一面に飾られたさまざまな服。色とりどりのものがあり、その中には絶対着たくないと思うようなものも存在した。
しかし、遠目でもしっかりと作られているのがわかる。人気だというのは確かなようだ。......あんまり服飾関係は詳しくないけどな。
「いないのかな?」
声をかけてみるが、返事が返ってくる様子がない。これは出直さないといけないのだろうか。
「「どうしたの(です?)」」
と、ここで話していた彼女らも中へと入ってきた。
何度か声を掛けたが、返事がないことを説明する。
「そうかぁ......どうしようか?」
「もういっかい、呼んでみるです。すぅ......ネェェナさぁぁぁん!!」
「うおっ!?(きゃっ!)」
アーゼが軽く息を吸い込んだかと思うと、次の瞬間その小さな体のどこから出ているのか、と突っ込みたくなるほどの声量で声をかける。
数瞬して、ドタンッ! という音が響いた後、どたばたとこちらへと何かが駆けてくるのがわかる。
「す、すいません! ちょっと寝ちゃってたみたいで......]
そして、奥から顔を出したのは素朴そうな顔をした女の人だった。
寝起きらしいボサっとした金髪を携え、申しわけなそうに、たははと笑う。
「いえ、大丈夫ですよ」
へこへこと謝る彼女に大丈夫だと告げ、今日来た要件を伝える。
「普段着ですか......全員分かな?」
「いや、こっちのソウジ君の分だけです」
アリアが彼女の問いにおれの分だけだと答えるが、自分のはいらないのだろうか?
「なるほど、ソウジくんだっけ? ちょっと来てもらえるかな」
「?? はい」
店主――――アーゼの言葉通りならネーナさんのもとに向かうと、おれの身体に触れてまさぐり始めた。
「っ! な、なにするん――]
「――ただの採寸ですよ。ほら、動かな......」
採寸だと言った直後、彼女はなぜかフリーズして言葉を途中で切った。
「......どうしました?」
「ねぇ、ソウジ君」
「っ!?」
疑問に思い、彼女の方を振り向くが獲物を見つけた肉食獣のような視線を向けられる。
「ねぇ、この服どこで手に入れたの?」
思わず目を見開いてしまった。叫びたい衝動を必死に抑える。
(テンプレきたぁぁぁぁぁ!?)
今の自分の服装は日本のものだ。見た目などがあまり周りと比べて違和感がないので忘れていたが、やはりプロが見れば気づくのか......。
とにかく、今は誤魔化すしかない。
「い、いえ。旅に出る時に親が持たしてくれた一張羅なので、どこで手に入れたとかは分からないです」
くっ! 少し苦しかったか......?
「そうですか......残念ですが知らないなら仕方ないです」
(いいのかよっ!)
「そ、そうですね」
さっきまでの生き生きとした表情はどこへやら、一転してこの世の終わりのような表情をするネーナさん。さすがに不憫に思い、妥協案を出すことにした。
「あ、あの......この服返却してもらえるのならお貸ししてもいいですよ」
「ほんとですかぁぁっ!?」
俺の着ていた上着を差し出すといきなりがばぁっと起き上がり、詰め寄ってくる。
近い、近い! 良い匂い! ごちそうさまです!!
じゃなくて......!
「はい、ほんとですよ」
「ありがとうございますぅ!!」
目をキラキラとさせて、俺の手を握り、ぶんぶんと振ってくる。
先ほどとのテンションの差が激しすぎて正直ついていけない.......。
「この縫製、この生地!! なんという技術! うへへぇ」
いけない顔だ......人に見せちゃいけない顔だよ、これは。
アリアやアーゼは、引いてしまって言葉も出ない様子だ。
「あ、あの......」
「んふふ......はっ!? す、すみません」
「いえ、大丈夫です......]
どうやら戻ってきてくれたようなのでとりあえず服を身繕ってくれるように頼んだ。
「普段着ですね、何着くらいでしょう?」
「そうだね、五セットかな。下着から上下の服含めてだね」
おお......先ほどまで沈黙を保っていたアリアがようやく会話に参加した。
にしても五セットか、お金足りるかな......。
「そうですねー......先ほどの服のこともありますし、全てお譲りしますよ」
「「え......?」」
「うんと、うちの店でも質の良いものからいくつか身繕ってきます」
俺たちが反応できない間に彼女は言うが早いかと奥に引っ込んでいってしまった。
「えーっと......どうしようか」
「......どうしようってどうもできないし、お言葉に甘えないか?」
「うん、まぁそうだね」
残された俺達二人(一人は店を見て回ってるようだ)は困惑するしかなかった。
◇
「はい、どうぞっ!」
しばらくして、彼女は大量の服と共にあらわれた。
量が多すぎて、彼女の顔が見えないほどだ。
「わあぁぁぁ!! すっごいいっぱいの服だね」
「はい、高そうなのです!」
さすがの女性陣、量にうんざりすることもなく目をキラキラと輝かしている。
言っておくが、君たちの服じゃないんだからな......。
「じゃあ、合わせていくよっ!」
「はい、存分にしていただいて結構です! 向こうに鏡もありますのでぜひご利用してください」
「はぁ......」
こうして俺は女性陣の着せ替え人形と化していくのだった。
あれも違う、これも違う、ときゃいきゃい騒ぎながら俺に服をあてていくこと十数分......。
「じゃあ、これをいただきます」
「承りました。では、こちらの服はしばらくお借りします」
選んだのは、襟付きのシャツで動きやすさを重視したものばかりだ。
ズボンも足首まで覆うにも関わらず、すごく伸縮性があり動きやすいものだ。
「それにしても、本当によかったんですか? こんなにいただいて無料というのは......」
「いいの、いいの。こんな垂涎物の服を見させていただけるなら、安いくらいよ! うへへ......」
「は、はい」
さすがにやばいのではと尋ねるが、彼女は問題ないと返す......発作のように口元が緩んでいるが。
(これも一種の職業病なのかねぇ)
そんな風に考えてしまうのも仕方がないだろうと思う。
そうして服屋での買い物を終えたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
聖女じゃない私たち
あんど もあ
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生二人。王太子によって、片方は「聖女」として王宮に迎えられ、片方は「ただの異世界人」と地方の男爵に押し付けられた。だが、その判断に納得する二人ではなく……。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる