深愛なる魔女 〜場違い女ですが、信仰対象は前世の私のようです。〜

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4 黒の騎士団1

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 移動船がゆっくりと港に停船する。
 教団使者に促されるまま下船したところで、目の前にずらりと並びこちらを見ている集団を発見した。

 黒と灰色を基調とした装い。皆デザインがほとんど同じなので制服だろうか。なんとなく騎士服のようなデザインをしている。
 そして、集団の中から二人組の男女が前に出た。

「ジア帝国レグシーナ教団よりお越しの"聖女"アシュリー様でしょうか」

 男女二人のうち、紫がかった髪と褐色肌の男性が礼儀正しく口を開いた。

「…………。はい、アシュリーです」

 にこりと愛想よく微笑みながら返答する。

(聖女とは言ってない聖女とは言ってない聖女とは言ってない)

 さすがに今ここで「じつは聖女ではなくて……」と切り出すほど愚かではない。自己申告するにしてもシュバルツィア公爵に打ち明けるのが先だ。
 なので名前だけ声を大にして告げたのだが、罪悪感と後ろめたさが半端ない。
 
「シュバルツィア騎士団所属、騎士団長のノクス・ポーと申します。この者は副団長のラナ・フー。アシュリー様をお迎えに参じました」
「ラナと申します。以後お見知りおきを」

 ノクス団長の隣に立つすらっとした銀髪の女性が敬礼をした。私よりもいくらか背が高く、加えて騎士然とした美しい佇まいが素敵で惚れ惚れとしてしまう。
 
「ノクス団長に、ラナ副団長。お会いできて光栄です。どうぞよろしくお願いします」

 私も二人を倣って深くお辞儀をする。直後、ノクス団長とラナ副団長は揃って目を見開いた。
 なぜそこまで驚いているのかしら。ただ挨拶し返しただけなのに。

 彼らの様子は気になったが、それよりも先に私は尋ねた。

「ところで、シュバルツィア公爵様はどちらに……?」

 きょろきょろと周囲を確認してみるけれど、それらしい人は見つからない。
 決して義務ではないものの、テイル大陸では妻や花嫁を娶る際、夫が自ら出迎えるのが通例となっている。もちろん緊急事態などの場合を除いてだけれど。

「公爵様は現在、魔女の都にて招集会に出席されております」

 魔女という単語が出たことにドキッとする。しかし、すぐに疑問のほうが前に出た。

「魔女の都とは?」

 ノクス団長はチラッと私の背後を確認したあとで、丁寧に説明してくれた。

「…………。我々ルベスト諸侯連邦の民の大聖地であり、中心都市としている場所です。数ヶ月に一度、各諸侯が一同に集い議会が行われています」
「はっ、大聖地とは大きく出たものだ。災いの魔女を信仰する輩の考えることは理解できないな」

 後ろで話を聞いていた教団使者の嘲笑が大きく響き、途端に空気が変わる。

 ノクス団長とラナ副団長は表面上特に変化は見られないが、そのさらに後ろに控えていた騎士たちの形相は凄まじいものだった。
 騎士団員だけではなく、私たちの様子を少し離れた場所で窺っていた港の人々も顔を顰めている。

(いくらレグシーナ教団が強大な地位を得ているからといって、傲慢にもほどがあるわ)

 アシュリーとしての「私」も長い月日を教団で過ごしたとはいえ、このような発言には不快感を覚える。
 
「……偉そうに。そもそも俺たちは聖女の到着日時が急に変更になったのをつい数日前に聞いたんだぜ。魔獣をかっ飛ばして迎えに来てやったってのに、なんでおっさんの嫌味を聞かなきゃなんねーんだよ」

 と、ノクス団長とラナ副団長の後ろで控えているシュバルツィア騎士団員からそんな発言が飛んできた。
 
(到着日時が、急に変更になったですって?)

 私が無言のまま教団使者のほうに振り返ると、その中にいた使者長が心当たりのある表情で鼻を鳴らした。

「ちゃんと日時変更の旨を伝える鳥をそちらに飛ばしたではないか。それぐらい文句を垂れずに対処していただきたいものだな」
「んだとっ!」
「よせ」

 使者長の発言に騎士団員が声を荒らげてざわつき始める。それをノクス団長は一声で制した。

「アシュリー様は、我々の主が必要とする聖女だ。そして、そんなお方をお連れしてくださった使者の皆様に無礼な真似をすることは許されない」
「ほう、さすがは騎士団長。立場をよく心得ているな」

 満足そうにした使者長に、お願いだからもう黙ってと言いたかった。しかしここで私が口を挟んでもさらにややこしくしてしまう気がして、ぎゅっと拳を握り我慢した。

「我々の護送任務はここまでだ。あとはそちら側でシュバルツィア公爵の元にお連れしてくれ」
「どなたも婚姻式には出席されないのですか?」
「すでに調印は済ませてあるのだ。だというのにわざわざ長居などするものか」
「…………。左様ですか。では、我が主に代わり、シュバルツィア騎士団一同、責任をもってアシュリー様の御身をお守りいたします」

 ノクス団長はなにか勘づいた様子だったけれど、追求せずに騎士の礼をとった。
 絶対におかしいって思っているわよね。レグシーナ教団の人間が、こんなにもあっさり聖女を手放すだなんて。それも付き人のひとりも付けずに。

(さっさと私を引き渡して終わりにしたいのね)

 冷ややかな気持ちで教団使者たちに視線を送る。この中にも、私に自分の罪を擦り付けた人がいるのだろうか。

「では、アシュリー様。あなた様に聖なる御加護の羽が舞い降りますように」
「ええ。どうも」

 最後に残していった使者長の言葉に、こめかみがピクリと動いた。それでも素っ気なく返すだけで済ませられたことに誰か褒めてほしいわ。

(あのちょび髭おやじ……)

 私はにっこりと深い笑みを浮かべ、移動船に乗り込んでいく教団使者を見送りながら手を振った。

 聖なる御加護の羽が舞い降りますように。この文言は、ある特定の状況の者にしか使わない。

 通常なら、聖なる御加護があらんことを、だけでいいのだ。羽が舞い降りますように、というのはすなわち──。

(聖なる御加護の羽は天までの道標とされているもので、死んだあなたが迷わず天の国に召されるよう心から願っています、という意味になる…………もうそれ死ねってことじゃない!)

 やはり教団は、私がルベスト諸侯連邦で処断されることを望んでいるのかもしれない。
 ちょび髭おやじの言い残した言葉で、憶測に留めていたものが、少しだけ信憑性を持ってしまった。

(でも、絶対に思いどおりに死んでやらないんだからっ!)


「……あのう、ゲゲール司祭様」
「なんだ」
「あの罪人、船に乗る前と先ほどの様子とで、かなり変わっていませんでしたか? なんといいますか、妙に活力が湧いているというか」
「はて、そうだったか。大方自分が死ぬ運命を悟って変に開き直りでもしたんだろう」

 そんな会話をしながら、レグシーナ教団使者一行はのんびりジア帝国に引き返して行ったのだった。

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