魅了体質な鬼のあやかしは、隠れ陰陽師にご執心。

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side四季「君とのこれから」

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 ――良い子にしていないと、恐ろしい陰陽師が退治にきてしまうよ。


 あやかしや妖怪の子どもならば、大人たちから一度は耳にしたことがある脅し文句。
 
 子どもを大人しくさせるための方便だということは、成長するにつれて皆当然のように知っていく。

 呪力という特別な力を用いて怪異を退ける陰陽師は、遠い昔たしかに存在した。
 しかし、現代においてその血筋は途絶え、記録上でしか知り得ない一族だ。

 他者に限らず、俺もそうだと思っていた。


 ***


「天王先輩は、少し距離感を見直すべきだと思います」

 唇を可愛らしく尖らせた彼女は、拗ねた調子で言った。

「うーん、必要ないと思うけど」

 すると、彼女――俺の番相手である西ノ宮にしのみや 依十羽いとはちゃんは、じとりとした目を向けてくる。


「必要あります。ご存知だと思いますけど、天王先輩の顔はとんでもなく綺麗なんです。そんな人にいきなり距離を縮められたら……」

「縮められたら?」


 俺は至極真面目な顔で諌めるイトちゃんに、少しすっとぼけて聞き返す。

「びっくりするんです。特に心臓が! 間近にアイドルが迫ってきたような……なんだか居た堪れないというか」

 と、イトちゃんは必死な様子で饒舌に語る。

 彼女と番契約をする前、俺は妖力が強いため周囲を魅了してしまう体質に日々を振り回されていた。
 特に異性からは下心や劣情などの感情を受けることが多く、精神的にも滅入っていた。


 そんな自分の前に現れたのが、陰陽師の血を引くイトちゃんだった。
 彼女が持つ呪力は、俺が放つ妖力を打ち消しているのか魅了の影響を受けない。

 それを知った当初は、ただ一緒に過ごす誰かの存在を欲して昼を食べようと誘った。
 そうして少しずつ話をしていくうちに、彼女の人となりに惹かれていることに気づいた。

 色々あって番契約にまで至れたわけだが、イトちゃんと時間を過ごすようになってみると、もうあの頃の自分には戻れないなと改めて思う。

 それだけ彼女の傍にいるのは、楽しく、心地がいい。


「番契約で妖力が安定したからといって、その顔は変わりませんからね。うっかり距離感を間違えたら、天王先輩を好きになってしまう女の子も続出してしまいますよ」

 きっと俺のこれまでの境遇を考えて、イトちゃんは心配してくれているんだろう。

 その気遣いが嬉しくもあり、当たり前のように自分を抜きにした客観的すぎる意見に、よくわからないが少しだけ面白くないと感じている自分がいた。

「天王先輩、聞いています?」

 じっとこちらを見上げるイトちゃんには、俺の顔を直視しても照れや恥じらいといったものがない。
 顔を合わせただけで好意を寄せてくる子たちとは、そもそも本質が違うのだろう。


「もちろん、聞いているよ。でも、俺が距離感を間違える相手は、君だけだから」

「あ、そ……そうですか」

 本心のままに伝えると、ようやく少しだけ意識した顔をする。

 恥じらいを残しながらも、その顔にはわかりやすく「そんな小っ恥ずかしいセリフをよく言えますね」と書かれていて、たまらず吹き出してしまった。

 そんな裏表のないイトちゃんだから、つい反応が気になってしつこいくらい構いたくなってしまう。

 女の欲望を映した瞳ではなく、その時の気持ちを素直に伝えてくる真っ直ぐな瞳が、俺は好きだ。


「で、イトちゃん」

「はい」

「いつになったら、俺のことを名前で呼んでくれるんだい?」

「え!? ええと……それは……でも、やっぱり天王先輩は、先輩でもあるし……」

 イトちゃんは口をもごつかせ、指先をつんつんと合わせながら言った。
 四季くん、と呼ぶのに抵抗があるらしく、この話題を振ると大抵こうなる。

 妹の影響もあり、長らく名前を呼び合うような友人を作れなかったというイトちゃんには、ハードルが高いようだ。

 ならまずは、四季先輩、でもいいんだけどな。
 そう思いながらもじっと見つめていれば、


「し、しし、四季……くくくく、くん」


 小さな声で、一生懸命に名前を呼ぶ。
 あまりの自分の吃りっぷりに、イトちゃんは頬をカッと赤くさせた。


「……くっ、ごめんごめん。まずは四季先輩、でいいから……ふっ、はははっ」

「そこまで笑わなくても」

 次の瞬間にはすんと真顔になり、冷静さを取り戻すイトちゃんの様子が面白おかしくて、さらに笑ってしまった。


 魅了体質によって受けてきた様々な感情により、俺は他人に対する不信感が強くなっているようだった。
 故に今は、番相手であるイトちゃんがいてくれるだけでいい。


「君で遊ぶのはここまでにして、そろそろ昼食を食べようか」

「私で遊んでいたんですか」  

「ごめんごめん、そう膨れないで」


 食堂での一件以来、彼女の表情は以前よりも数段に豊かになった。
 感情の起伏がわかりやすいのは初めからだったが、なによりも俺に信頼を預けているのが伝わってくる。

 だからもう少しだけ、色んな君の反応に楽しんでしまうことを許して欲しい。



 来週になれば、イトちゃんは学園寮に越してくる。
 すでに両家の会談は済ませており、話によると妹や義母、使用人からの嫌がらせはめっきりなくなったという。

 番相手が天王家のあやかしということで、無闇に手出しできなくなったのだろう。

 だからといってイトちゃんを苦しめてきた事実が消えるわけではない。
 彼女が報復を望むなら、いくらでも手を貸すつもりでいる。

 しかし、そんなことをイトちゃんは望んでいないと言った。
 ただあの家から離れられるだけで、十分に救われていると、そう言い切ったのだ。


 なら、俺がやることはひとつ。


 世間から血筋を隠さなければならない立場にいる「陰陽師」だろうと関係ない。

 これからの彼女の生活が希望ある晴れやかなものになるように、誠心誠意尽力するだけである。



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