こんなの勇者じゃない!! 外道勇者とうだつの上がらないシーフは国を裏切る (下書き版)

テラコン

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冒険の書1 『外道は訪れる』

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 コンコン 扉を叩く音が聞こえ、俺もバッカスも天敵に見つかったネズミのようにピクっと一瞬だけ反応し固まる。

 無音の時間が流れる。誰も入ってこない。

 コンコン もう一度ノックの音がギルド内に響く。

 今は深夜。深夜にも動けるほど手練れの冒険者ならノックなんてせずに入ってくる、そもそもギルドに加入している奴ならノックしてこっちの返事を待つなんてことは殆どしない。

 ならばこんな時間にギルドの門を叩く人なんて部外者であり、例えば重大な問題依頼を抱えた人か、この村でもとりわけ金の集まるであろうギルドを襲いに来た夜盗なのか、どんな厄介ごとが飛び出すのか......

 今日は厄日かもしれない

 俺は万が一に備えて腰の短剣を静かに一本抜きそのが入ってくるのを構える。

 バッカスは大きな声で「入れ」と口にする。その言葉に呼応するようにギルド『異端の地』の門は静かに開いていく。

「失礼する、父の指示の下でここを訪れさせてもらった」

 入ってきたのは15......いや10歳ぐらいにも見える金髪の目立つ美少年だった。彼の服は滑らかな生地でしっかりと整えられており、腰には金やルビーなどの宝石類が散りばめられた長剣と鞘がある。

 大貴族、もしくは大商人の子であることはあからさまである。つまり少なくともギルドに襲撃を仕掛けに来たわけではなさそうだ。どちらかと言えば依頼人だろうか。

「何の用だ」

 バッカスが問いかけるのを横目にナイフを鞘に戻す。殺し合いのようなことにはならなくて良かったとホッと胸をなでおろす。

「誰でもいいが冒険者の仲間を探している.......ほかには居ないようだし、そこの弱そうな男を仲間にに加えたい」

 そういって、少年は俺を指さした。

 唐突な指名になでおろされた胸は状況を掴めず早く鼓動している。意図が分からない。
 
「ちょっと待て、どういうことだ」

「国王より領地内で自由に人員を集める許可は取ってある」

 こちらの話もまともに聞かず、少年は一枚の紙をカバンから取り出し見せつけた。そこには『王家の名の下においてアベルに、ギルドにて自由に仲間を募り、パーティーを結成することを許可する。また、ギルド及びそこに所属する冒険者は特別な場合を除きこれに従わなければならない』と書いてある。

 そして何より右下には王冠と杖をモチーフにした王家の印も刻まれていた。それは誰がどう見ても銀貨に刻まれているのとまったく同じの国章であった。

 そして右下にはヤハウエ王の名が記載されていた。偽物かと考えたが、わざわざ国王の名を語ってまでやることがパーティーメンバーを募集するというのはあり得ないだろう。

「なぜわざわざ国王がこんなことを......」

 当たり前の疑問を口にしたバッカスに対して少年は一つため息をつく。

「それをわざわざお前らに教える必要はない。そもそも知ったところでなんの意味があるのか。僕はそこの男が仲間になるかどうか聞いている。こんな廃れた村のギルド長はそれすら理解できないのか?」

 クソガキはバッカスをゴミを見るような目で見つめる。

「おい、待てよ仲間に加えるってどういうことだよ」

「言葉の通りだが? 本当は仲間など要らないのだが、冒険者として旅をする以上父から一人は仲間を付けろとのことでな、弱くても構わんから一人欲しい」

「断ったら?」

「これは王命だ。協力するように書いてあるにも関わらず断るならば反逆者になるかもな。そもそもお前はただ付いてくるだけで良い、敵はすべて僕だけで倒せる。お前は僕の荷物持ちでもしてればいいんだ」

 俺に対してもゴミを見るような目を向ける。

 ここまで馬鹿にされたらさすがに腹が立つ、こんな貴族のボンボンのガキなんて刃物を見せただけで委縮するだろう。一泡ぐらい吹かせてやろう、そう考えてナイフに手をかける。

「このクソガキ......」

 しかし刃物を抜く前に、俺の目の前が真っ暗になる。光の一つすら見えない完全な暗闇。少年もバッカスも何もかも見えなくなる。

 そして手に強い衝撃を受ける。構えていたナイフは手元を離れ、床に落ちたのだろう。カランカランと音を立てている。鞘で殴られたのか単に蹴られたのか、全く見当はつかない。しかし暗闇の中、武器を落としたということはまごうことなき敗北である。

「な、なにをした!?」

「ただのブラインド暗闇魔法だ。しかし次断ったらこんな魔法だけで済むと思うな。弱者なら弱者なりの立ち振る舞いを心掛けろ」

 直ぐに視界は戻る。クソ、クソ、クソ、これでもEランクとは言え、10年以上冒険者をやってきたんだ、それがこんなクソガキに負けた? ありえねぇ。

 不意を突いてナイフを抜こうとしたはずだ、抜いて構える速度よりもブラインドを詠唱する法が早かったということは、殺気に気が付いていたのか、単純に反射神経が良いだけなのか。

 いずれにしても俺とコイツには大きな差があるということは明確だ。

 情けなく床に転がっていたナイフを拾いながら、感情とは別に脳は合理的な判断をしていく、最終的に出た結論は逆らってはいけないということだけだった。

 力量を弁える、この判断からできないやつから先に死んでいく。それは冒険者であれば理解していなければならないことだ。

 あのガキが使った魔法がブラインドじゃなくて攻撃魔法なら間違いなく俺は致命傷を負っていただろう。

 ボンボンを怯えさせるつもりが、一瞬で敗北するという恥辱を味わっている俺を横目に、次に口を開いたのはバッカスだった。

「カインを打ち負かすとは中々腕が建つようだ」

「それはそれとして、ギルドや冒険者に協力を仰ぐということは金は出せるんだろうな」

「もちろん。少なくともそこらの依頼の数十倍以上は国より報奨金が出るだろう」

 何を聞くのかと思えば報酬の話?

「なぁカイン、お前ツケが溜まっていたよな」

 おい、嘘だよな?まさか......

「働いてこい」

 バッカスはそう言った。

 今日は厄日だった。
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