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30.白竜の王
しおりを挟むその日の深夜、1人の男性が訪ねてきた。
「ヘルベルト、起きてるか?」
低い声が仮設テントに響く。
ヘル様は剣を掴んで飛び起きる。
「誰だ?」
同時に、私に声を出すなと合図する。
「俺だ。白竜の王ゼフォンだ。話がある。」
ヘル様は、ベッドから出て立ち上がる。
「ゼフォン、久しぶりだな。魔獣狩り程度であなたが出て来るのは、不穏な気配のせいか?黒魔術とか…」
「そうだ。黒竜の姫のザラが暴れている。ヘルベルトに懸想してな。」
ゼフォン様によると、ザラ姫は幼い頃からヘル様に憧れて慕っていたらしいが、結婚すると聞いて嫉妬に狂って大暴れしているそうだ。
結婚式を挙げられないよう、黒魔術を使い黒竜を大量発生させているので、今回の魔獣狩りの時期も早まっている。
「俺から見ても、今のザラは常軌を逸している。ヘルベルト、何とかならんか?」
「ぶっ殺しても構わないか?」
ヘル様、ぶち切れは結婚式の遅れのせいですね?
「俺としても、今回はやり過ぎだと思うので判断は任せたいとも思う…しかし、幼い頃は可愛かったのだが、どうしてあんなふうになったのやら。」
「…………」
ヘル様も悩んでいるのだろう。
「取り敢えず、下っ端の黒竜狩りを先に頼む。あいつらはどうにもならん。ザラは、本来なら黒竜だから狩りの対象だが、白竜に戻せる可能性があるんだ。上位にしか無い能力だが、それを引き出せればいいのだが…」
「そんな手があるのか?」
「ザラが人間の姿になり、想い人と閨を…」
「ふざけるな!この話の流れだとザラと寝ろってことか?断る。ぶっ殺す!!」
ゼフォン様の話を遮って、ヘル様が怒鳴る。
「そう言うと思った。婚約者殿に嫌な話を聞かせてしまったな。すまない。」
「もうマリは妻だよ。陛下の承認が下りてるからな。さっさと狩りを終えて帰りたいんだよっ!何とかしろよ!!ぶっ殺していいなら、明日やるぞ?」
「1日、時間をくれ。」
ゼフォン様は帰って行った。
ヘル様は考え込んでいる。
きっと幼き日のザラ姫は可愛かったのだろうか。
「そんなふうに思っているなんて、想像もしてなかったよ…」
そうだ、この人はそういう人だ。
興味すら持っていなかったのかもしれない。
「ケイシーの最強版ですね…」
知らず知らずのうちに、誰かに好まれることがある。
それが、縺れて拗れることも。
「黒竜のマナ使いの方が厄介だ。だからといって、ザラと寝る気は無い。俺にはマリだけだからな。」
ヘル様は私を抱き締めたまま、眠れずに夜を過ごしただろう。
ピリピリとした雰囲気を夜通し感じた。
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