番えなかった私達は 〜竜人は盲愛する番の為にココロを与えた〜

紬あおい

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ロゼリアは、幼き日に母を失い、孤児院で育った。
物心ついた時から父の存在はなかったし、母は何も語らなかった。

そして、ロゼリアが六歳のある日、貧しい暮らしと働き過ぎが祟り、流行病で呆気なくこの世を去った。

「ロゼリア、ごめんね…弱い母さんで…」

最期の言葉は、何が弱かったのかロゼリアには理解出来なかった。
弱かったのは、体なのか心なのか、幼いロゼリアが分かったのは、独りぼっちになったことだった。

母の亡き骸を前に呆然としていたロゼリアを、村の人は気の毒がっても引き取ってはくれない。
唯一世話をしてくれたのは、見たこともない綺麗な服を着た男性で、母を集合墓地に埋葬し、ロゼリアを孤児院の前に連れて行ってくれただけだ。

その男性が村を治める領主の部下だったことは、後から孤児院の年上の女の子に聞いた。
母を埋葬してくれたことは優しさではなく、飽く迄も仕事で、遺された子は孤児院に捨てられただけなのだと、その女の子は悲しげに笑った。

ロゼリアに話してくれた女の子は、名前も覚えられないうちに居なくなってしまった。
六歳のロゼリアでさえ、亡くなったのだろうと察する位、孤児院は劣悪な環境で、子ども達に満足な食事も出さず、ただ飼われているような場所だった。

孤児院に当てられた予算は院長始め、古株の職員が搾取し、子ども達は古びた衣服にぼろぼろの靴を身に付けていた。

そんな中、年に一度、三日間だけ高位貴族が養子縁組する為に訪れる日は、きちんと湯浴みをし、髪型を整え、小綺麗な服を着て、真新しい靴を履いていた。

湯浴みさえままならず、真冬でも冷たい水に浸したタオルを絞って体を拭いていた。
一年の大半を劣悪な環境で過ごす子ども達は、目の輝きすら失っていた。

しかし、年に一度のこの三日間だけ人として扱ってもらえる。
それは、子どもに恵まれない高位貴族が養子縁組の為に孤児院を訪れる日だ。

高位貴族に気に入られれば、孤児院から抜け出せるだけではなく、まともな生活や学ぶ機会も与えられる。
そして孤児院には寄附という形で莫大なお金が入る。
だから、この三日間だけは、子ども達も孤児院の院長や職員も『売る』ことに専念する。

丁度、今日は高位貴族の訪問日で、子ども達は祈るような気持ちで来客買い手を待っていた。

ロゼリアもその一人で、少しだけ期待を胸にその時を迎えた。
そして、一組の夫婦がロゼリアの前に立った。

「あなた、見て!この子、ローズマリーにそっくりよ!!」

淡いブルーのドレスを着た女性が、夫らしき男性の腕を引っ張った。

「……あっ…」

男性は言葉を失ったが、女性はロゼリアに質問してきた。

「あなたのお母様も、あなたと同じ髪や瞳の色だったの?」

「…はい、母も金髪で、目は青かったです…私は母によく似ていると言われていました。」

「お母様とあなたのお名前は?」

「母はローズで、私はロゼリアです。」

夫婦と思われる男女は顔を見合わせて頷いた。

「ロゼリア、私達の子にならない?」

「はい。」

「よし、決まりだ!」

こうしてロゼリアは、養子としてへーゼンベルグ侯爵家に迎え入れられた。
ロゼリアが九歳の時である。

養父母となったフランソワは、ローズマリーの姉だそうだ。
夫のギルバートとの間には子が授からず、偶然訪れた孤児院でロゼリアを見つけた。

「ずっとローズマリーを探していたの。」

「詳しい話は家に帰ってからにしよう。」

優しく微笑むギルバートとフランソワに、ロゼリアは引き取られて行った。
その姿を恨めしげに見つめる子ども達を背に。


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