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5.侵食
しおりを挟むそれから、ローズは別邸に移り住み、私の世話を焼いてくれた。
酷い悪阻は三週間程で治まり、結婚式まで、あとふた月程になった。
「ジェスター、結婚式のドレス、ちょっとだけお直しした方がいいかしら…悪阻が酷かったから、そんなには食べられなかったし、大きめに仕立てたから、サイズはそんなに変わらないと思うんだけど?」
ジェスターは、私の腰回りを抱き締めて、ふむふむと唸っている。
「寧ろ、痩せたんじゃないか?この分だと直さなくて良さそうだ。」
「痩せてはいないわ。赤ちゃん、もう五ヶ月に入るもの。」
ジェスターはお腹に手を当てて、笑顔だ。
「全く…あなた達は本当に仲が良いわね。いつも、どこかしら触っているんだから。ふふふ。」
そんな私達をローズは微笑んで眺めている。
そんな何気ない日常を、私は幸せに感じていた。
(結婚式に出産かぁ。楽しみだな。)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
順調に過ごしていたある日、体調が良かったので、私は一人で庭園に出た。
付き添ってもらおうとしても、誰も傍にいなかったからだ。
(少しなら大丈夫よね?お天気も良いし、最近運動不足だし。お散歩しようかしら。)
ゆっくり歩き、庭園に出ると、咲き誇る白い薔薇の陰に、ジェスターとローズが立っていた。
(二人もお散歩かしら?)
何となく声を掛けずに立ち止まっていたら、会話が聞こえてきた。
「ジェス、どうして…?私とミラが似ているから?」
何の話だろうと、私は更に身を潜めて聞き入る。
「似てるよな、ローズとミラ。ミラは似ていないと言うけど、顔立ちや立ち姿はよく似ている…」
「ジェスは、ミラを私の代わりにしたの!?病気で、ジェスと結婚出来ない私を捨てて、似ているミラを?」
「あの頃、結婚は出来ないと、ローズが言ったんじゃないか!だから俺は君を諦めて… 俺から捨てたつもりはない!!」
「仕方ないじゃない!あの時は治る見込みがなかったんだから……でも、今は………今でも、私は…」
そう言って、ローズはジェスターに抱き付いた。
私は、もう、その場にいられなかった。
どうして?
何故あの二人が?
私はローズ叔母様の代わりだったの?
ジェスターが私を初めて抱いたのは、ローズが訪ねてきた日だった。
優しいジェスターが獣のように私を抱いたのは、ローズの代わりだったのだろうか。
ローズに対する溢れる想いを、私で発散したのだろうか。
先程の会話では、明らかに以前二人は恋人同士だった。
嫌いになって別れたのではない。
公爵家の後継ぎが、治るか分からない病気の女と結婚は出来ない。
だからジェスターは、ローズに似ている私、しかも健康で子が産める私を身代わりにしたのか。
ただの政略結婚なら、こんなに苦しくないだろう。
でも、私はジェスターと恋愛して結婚をするつもりだった。
いや、事実、恋愛だった。
苦しい。
胸がどうしようもなく苦しい。
信じてきたものが崩れていく。
愛した人は、別の女を愛している。
心に、また鉛のようなモノが詰まっていく。
吐き出せない想いは、徐々に私を侵食していった。
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