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6.おかあさま
しおりを挟むラディアスとの三日間の初夜は、完全に快楽を体に覚え込ませる濃密な日々だった。
ラディアスは飽く迄も優しく紳士だが、夢中になると獣になったかのようにミルゼを攻め立てた。
激しく抱いた後の労りと優しさに、ラディアスを愛する気持ちが抑えられなくなりそうで、ミルゼは怖かった。
それでも、ここに居る限りはラディアスを誰よりも愛そうと心に決めた。
(政略結婚で愛のない夫婦もたくさん居るもの。そんなご時世で、愛する人を見つけられた私は幸運だわ。だから、ラディアス様の前では綺麗で居たいな。)
ラディアスは朝食後に所用で外出したので、見送ってから私室で考え事をしていたら、エマに呼ばれた。
「奥様、大奥様がお呼びです。お着替えが済みましたら、ご案内します。」
実家から持参したデイドレスだったので、もう少しマシだと思えるドレスに着替えた。
しかし、リリスの代わりにパーティに行く以外は、あまりドレスを持っていなかったので、公爵家の夫人としてどうなのかは不安だった。
「大奥様、お待たせ致しました。」
エマとアザリア夫人の執務室を訪ね、見事なカーテシーでミルゼが挨拶をすると、アザリア夫人は厳しい表情で言った。
「ミルゼ!」
「は、はい…」
アザリア夫人の表情に、失礼なことをしてしまったのかとミルゼは焦った。
しかし、アザリア夫人の口から出た言葉は意外なものだった。
「私のことは、大奥様じゃなくて『おかあさま』でしょう?早く慣れてちょうだい!」
「お義母様…」
「そうよ!息子の嫁だもの。おかあさまでしょう?」
その表情はやわらかなものに変わり、アザリア夫人が本心で話していることをミルゼは実感し、嬉しくなった。
「お義母様!」
「はい、ミルゼ。呼んだのはね、ミルゼにドレスをプレゼントしたいの。チェルニエ夫人は、あまり趣味が良くないでしょう?フィレンツェ侯爵家の娘なら仕方ないとして、シグネスティ公爵家の夫人としては、それなりの物を身に付けて欲しいの。」
「申し訳ありません。お恥ずかしい限りです…」
「あらやだ!ミルゼを責めている訳じゃないわ。チェルニエ夫人のせいでしょう?もしかしたら、今着ているドレスは、まさかリリスのお下がり…」
ミルゼは穴があったら入りたいと思った。
アザリア夫人の想像通りだったのだ。
「お義母様の仰る通りです。リリスは一度着たドレスは着ないので、高価なドレスは売り、そうでない物は私に…逆に私が新調したドレスは、リリスとサイズが合わないので、それも持ってきましたがパーティ用なので…」
「ああ、リリスは体格がいいから。ミルゼのドレスは、リリスには胸はスカスカで、ウエストは窮屈でしょうね。ぷぷっ!」
アザリア夫人は、耐え切れずに吹き出した。
厳しいと評判のアザリア夫人の笑顔に、ミルゼもくすくすと笑った。
「明日にでもラディアスと一緒にドレスを作りに行きなさい。ラディアスの色をちゃんと入れてね?」
「承知しました。ありがとうございます。今日は如何致しましょう?何か私に出来ることがあれば、教えていただきたいと思いますが…」
アザリア夫人は少し考えて微笑んだ。
「その気持ちは嬉しいし感心するけど、ラディアスが無理をさせて疲れているでしょう?あの子ったら、限度を知らないと言うか…まあ、執務はそのうち教えるから、ラディアスが戻ったら庭園でも案内してもらいなさい。今は薔薇が綺麗よ。それまで、のんびりしていていいわ。」
「はい。ありがとうございます。」
(本当のお母様ってこんな感じなのかしら…ラディアス様と一緒で、お義母様もとても優しい。)
執務室を出て、ミルゼは人を見掛けや噂で判断してはいけないと強く思った。
実際のアザリア夫人は、緊張するかと思いきや、とても優しかった。
ミルゼはほっとしたと同時に、胸が熱くなるのを感じた。
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