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9.試される
しおりを挟む応接室には、父ニコラウスと母マルガリーテがソファに並んで座っていた。
その表情は怒っているのか、呆れているのか、全く読めない。
ただ、じっと私とテオドリクスを見ている。
仮面を外したままのテオドリクスは、応接室に入るや否や土下座する。
「公爵様、夫人、申し訳ありません。」
「申し訳ないとは、どういう意味だ?私達夫婦は、君を家族のように大事に思ってきた。それなのに謝るということは、君は遊びでセシリアに手を出したのか?それならば、今後の付き合い方は考えさせてもらう。」
父はそう言うと、口をへの字にした。
「とんでもございません!セシリア嬢を愛しております!!結婚させていただきたいです!」
土下座のまま、テオドリクスは叫ぶ。
「君は、結婚を考える程に愛している女なのに、結婚まで待てずに手を付ける男だったのか?まずは順番というものがあるだろう?」
「そうよ、テオドリクス。セシリアの為にすべきことがあったんじゃないの?」
「申し訳ございません」
両親に責められて、テオドリクスはひたすら小さくなっている。
「お父様もお母様も、その位にしてあげてください。テオドリクス様の心のうちを聞いて、結婚を迫ったのは私ですから!」
テオドリクスだけが責められる状況が居た堪れなくなり、割って入る。
「セシリア、テオドリクスの気持ちとは?」
「両親である大公と夫人を亡くし、まだ若いのに大公家と領地を守り、総司令官として魔物退治までやらなければいけないテオの責任の重さや、傷痕のせいで人にいろいろ言われるつらさを、私なら分かってあげられます!」
「それは、一時の感傷じゃなくて?」
母が試すような顔で聞く。
「違います!テオの人柄は、昔からよく知っているでしょう?責任感があって、優しくて、素晴らしい人です!顔の傷痕が何だって言うんですか!名誉の勲章としか思えないわっ!!誰かがテオを軽んじるなら、私がテオを守りますから!!」
父と母が顔を見合わせて頷く。
「テオドリクス、うちの娘は君の妻に相応しいだろうか?」
土下座のまま私の言葉を聞いていたテオドリクス。
「はい。こんなセシリアに惚れました。俺にセシリアは勿体無いかもしれませんが、この命を捧げるつもりで愛していきたいと思います。どうか、結婚を許してください。」
顔を上げた時、テオドリクスの目からは涙が溢れていた。
「あらあら、うちのお婿さんは泣き虫さんだったのね?これからは息子になるんだから、泣かなくていいのよ。ほら、座りなさい。」
母が立ち上がって、テオドリクスの肩をポンポン叩き、ソファに座らせる。
「テオドリクス、そなたがセシリアを娶ってくれて嬉しいぞ。気の強い娘だが、根は優しいからな。」
父も笑っている。
私は気付いてしまった。
これは父と母の思惑通りではないかと。
「お父様、反対なさらないの?」
「何で反対する必要が?テオドリクスが息子になるんだぞ?こんなに嬉しいことはないだろ?」
「そうよ、セシリア。まあ、セシリアがテオドリクスの心を掴めるかは心配だったけど?元々あなた達はお似合いだと思っていたのよ。勝気なセシリアを上手く扱えるのは、穏やかなテオドリクス位でしょう?」
「そうだったの…」
「でも、まさか帰宅したら、2人が部屋に籠ってるとは想定外だけどねぇ。お父様とびっくりしたわ!」
「怒らないの?」
「怒りはしないわ。だって、テオドリクスに逃げられた方が困るもの!滅相もない!!」
母が慌てる。
「あぁ…応接室に入った時の違和感の意味が分かったわ。お父様もお母様もムスッとしているようで変だったのは、笑わないように口元を引き締めてたのね?」
もう、この親達はと私は呆れた。
土下座までしたテオドリクスが可哀想に思えてきた。
「テオ、どうやらこの場は、私が両親に試されたようです。テオに相応しい人間であるかどうかを。」
両親は大きく頷き、テオドリクスはぐちゃぐちゃの泣き笑いでほっとしていた。
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