【完結】 仮面で隠していた傷痕を撫でたら愛が溢れてきた大公様 〜普通じゃなかったらしい私の中の普通〜

紬あおい

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40.迷路

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朝になり、テオドリクスが目を覚ます前に起きたので、一晩中傍に居たことはバレなかった。

「今日も来てくれたのか。すまない。」

「いえいえ、心配なだけですから。」

あくまでも訪問者な私は、何とか笑顔を作る。

「ご迷惑でなければ、このまま身の回りのお世話をさせていただきたいのですが…宜しいでしょうか?」

「それは申し訳ない。大丈夫だぞ、本当に。」

「テオドリクス様がお一人で動けるようになるまで…ダメですか…?」

同じようなやり取りが何度も続き、テオドリクスは私がしぶといので、渋々了承した。

それが良いのか悪いのか、その時の私には判断がつかず、ただテオドリクスの傍に居たいだけだった。
まず背中のケガが治ってくれたらいいと思っていた。

実際、傷の回復は早く、ケガから10日で湯浴みも出来るようになった。

「さすがに湯浴みは若い女性には頼めない!」

テオドリクスは真剣に訴えたが、私はするりと交わして湯浴みに付き合った。
もちろん、私は脱がないが。

こうしてひと月、あっという間に過ぎた。
その頃になると、テオドリクスも私と打ち解けて、大抵のことは任せてくれるようになった。

「不思議だな。公爵邸に遊びに行っていた時よりも、セシリアが身近に感じるよ。いろいろありがとう。」

「それは良かったです。もうすぐ執務も出来そうですね。そちらもお手伝いしましょうか?」

「いや、そこまでは…セシリアは何れ公爵邸に帰るだろう?頼り過ぎたら、きっと帰したくなくなる…」

心なしかテオドリクスの頬が赤い。

「それでも宜しくてよ?ふふっ。」

私は努めて明るく笑う。

「じゃあ、もう少し頼ろうかな。」

テオドリクスは、照れたように笑った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


換気の為、窓を開けるついでに、バルコニーに出た。
少し冷たい夜風が心地良い。
そして、いろんな想いが頭をよぎる。
両親に言われた言葉が、今私に重くのし掛かる。

「気負わず、自然体で行きなさい。生涯身を置く場所になるのだから。」

「セシリアは勝ち気だから、周りをよく見て行動するのよ?大人しいだけでは大公妃は務まらないけど、妙な軋轢は生まないように。今後のことも考えて、ちゃんとしなさい。」

(私の所為だ…私が煽るような態度を取ったからだ…)

傷が治っても、未だにテオドリクスの記憶は戻らない。
私は、この先どうしたらいいだろう。
公爵邸から遊びに来た友人を、いつまで演じられるだろう。

抜け出せない迷路に来てしまったようで、心細い、悲しい、苦しい。
ぐるぐると渦巻く感情に飲み込まれそうになる。

でも、今日みたいに笑ってくれたら、それだけで嬉しい。

テオドリクスが私とのことを忘れてしまったのなら、もう一度振り向かせたらいいのだろうか。
そんなこと出来るだろうか。

もう一度、愛してると、口付けたいと言って欲しい。
あの呆れるような愛情表現が懐かしい。
それが叶うなら、私は何でもする。
この身を削ろうと、この命を差し出そうと。
あなたが笑う為に、幸せになる為に。
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