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47.夢見た日常
しおりを挟むあれから更に5年後、結局テオドリクスの記憶は全て戻っていない。
私もテオドリクスも、そこに拘らず、毎日を健やかに、穏やかに過ごすことに重きを置いた。
定期的に行う魔獣退治や国境線の警備も、テオドリクスと拡充した軍隊で難なく制圧し、平和が保たれている。
大公閣下と軍隊の総司令官であるテオドリクスの妻という立場も、やっと板に付いてきた感じがする。
年一回の陛下への報告は、里帰りも兼ねて私も同行する。
去年、兄のエイデンと私の専属侍女のリリアナが結婚した。
エイデンは、過去の婚約者のナリエラの所為で結婚には臆病になっていたが、リリアナに一目惚れし、時間を掛けて自分と向き合い、リリアナの心も掴んだようだ。
「奥様と離れたくありません!それに、私には公爵夫人は務まりません!!」
リリアナはエイデンに断り続けたが、時間はゆっくりとリリアナの心を溶かしたようである。
最後の決め手は、私の「リリアナと家族になれたら嬉しい」のひと言だったとエイデンに感謝された。
「伯爵家生まれの私が奥様の家族になれるなんて、夢のようなお話…それに、エイデン様は笑顔が奥様に似ていらっしゃるのですね。」
リリアナは、もしかしたらエイデンよりも私の方が好きなのでは?ということは、内緒にしておこう。
エイデンの幸せに満ちた笑顔を見てしまったら、そんなことはどうでもいい。
そして私は今、3人の男の子に恵まれ、子育てに試行錯誤しながらも、楽しく暮らしている。
3人ともテオドリクスそっくりだ。
しかし、3人の男の子をそれぞれ可愛がっていても、テオドリクスは私に似た女の子がどうしても欲しいようで、毎日のようにお強請りしてくる。
「セシリアに似た女の子は、きっと物凄く可愛いと思うんだ。フェリシアンもレナールもベルトランも、絶対に妹を可愛がると思うんだ!」
「テオ、自然に任せましょう?もう後継ぎは充分だし、女の子を選べるわけではないですからね?」
毎日のように繰り広げられる会話に、マービンが傍で微笑む。
「お嬢様も、きっと可愛らしいでしょうね。」
「だろう?マービン!セシリアは母になってもこんなに可愛いんだ。女の子なら、より一層愛おしいに決まってる!だから、セシリア、口付けていいか?」
マービンがお茶を吹く。
いつか見た光景だ。
「テオ!ほんとに、あなたって人は!!」
「奥様、これが閣下の普通ですから。奥様が閣下をこんなふうに変えてしまったので、そろそろ諦めた方が宜しいかと?」
「もう…マービンまで…」
私は溜め息しか出ない。
テオドリクスは、ふふふんと上機嫌で私に口付ける。
でも、これがあのつらかった日々に、切実に夢見た日常なのかもしれない。
早くに両親を亡くし、一人息子だったテオドリクスに、愛する存在がたくさん増えたことは、私にとっても、人生の大仕事をやり遂げたような達成感もあり、充実感もある。
それに、テオドリクスが私にべったりするのは、基本的には子ども達と過ごし、寝かし付けてからだし、たくさん愛して触れ合ってくれる良き父なのだ。
「うーん…あと1人位ならいいかな…?確かに、女の子も可愛いわよね…」
独り言のように呟くと、テオドリクスの瞳がギラギラしてきた。
「セシリア?取り敢えず、口付けていいか?」
まだ言ってると、マービンに視線を送り助けを求めるが、すっと視線を逸らされた。
「あ…仕事が…急ぎの仕事がありましたな…」
空気を読んだマービンは、ぶつぶつ言いながら部屋を出て行く。
その足取りが軽いことも、私は気付いている。
「テオ…普通は、次のお休みの前夜まで我慢なさるでしょう?新婚という時期は過ぎましたし…それに、マービンに気を遣わせるのは、やめてくださいませ?」
「分かった、今度からはそうする!だから、今日は許して?子ども達は昼寝しているし。セシリアと居ると、普通って何なんだ?って思うけど、こういうのも俺達の普通じゃないか?」
テオドリクスは、笑いながら私に口付ける。
この人には敵わないと思うのは、きっといつも私の方だ。
仮面で隠した素顔は、何年経っても、記憶を失っても、普通とはちょっと違うらしい妻を溺愛し、優しい微笑みを浮かべる人だった。
【完】
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
これにて完結となりました。
悲しい場面をもっと続けた方が良かったのかとも思いますが、書いている私がしんどかったので、こういった完結としました。
ここまでお読みいただき、感謝致します。
続けて、連載スタートします。
タイトル
生まれ変わってもあなたと
短編程度の文字数です。
お時間ございましたら、お立ち寄りいただけますと幸いです。
いつもありがとうございます。(^∇^)
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