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7.慰めの手
しおりを挟むあれから何をするでもなく、ひと月が過ぎた。
家族は特に態度が変わるわけでもなく、普通に過ごしていた。
お姉様に至っては、結婚の準備で私など眼中にも無さそう。
私といえば、庭園と邸内の図書室で過ごすことが多かった。
普段から、あまり人が来ないので、落ち着いて過ごせるからだ。
それに、リュシフェル様を追いかけていないと、やることが特にないんだなぁと今更ながら思った。
今日は、珍しく図書室にお姉様がいたので、避けるように、庭園のガゼボで1人ぼーっとしていた。
カサっと足音のする方を見ると、見覚えのある青年がいて、話し掛けてきた。
確か、スペンサー公爵家の次男のヴィルヘルム様だ。
三歳上で、黒髪とサファイアのような瞳を持つ美しい人だ。
いつもなら「えぇもん見たぞー!」とテンション増し増しになる位のお人だ。
「サラーシュ嬢、お久しぶりですね。」
「ヴィルヘルム様、ですよね?お久しぶりでございます。」
「お隣り、座っていい?」
にこにこと人懐っこいヴィルヘルム様は、返事も聞かずに座った。
「珍しいですね、ヴィルヘルム様。三年振り位でしょうか?相変わらず素敵です。」
「ありがとう。照れますな。ちょっと北部に行ってて、久々に帰って来たよ。リサーナ嬢はおめでたい話が出ているようだけど、サラーシュ嬢は元気?」
あぁ、これは誕生パーティーの時のことを何処で小耳に挟んだな?と察した。
「元気…だとは思います。ヴィルヘルム様は、私がリュシフェル様に片思いしていたこと、気付いてました?」
以前の歯に衣着せぬ印象のヴィルヘルム様に、恐る恐る聞いてみる。
「あれに気付かない人、いる?」
にこにこ顔を崩さないヴィルヘルム様。
やっぱりヴィルヘルム様は正直だ。
だよねーって顔してる筈の私。
「みんな、そこ触れないんですよ。まるでなかったことのように、お姉様達の婚約は進んでいくし。ヴィルヘルム様、私ってこの世で一番マヌケじゃないですかね?」
ヴィルヘルム様は、ちょっと眉間にシワを寄せて、顔を近付けてきた。
「そんなことないよ。あんなに楽しそうに恋してる君、可愛かったよ?自分を恥じてるのか?」
ヴィルヘルム様があまりにも真っ直ぐ見るから、何だか急に鼻の奥がツンとしてきた。
「恥ずかしいのは、周りが全然見えてなかった自分です…気を遣ってみんなが言わないのか、そもそも相手にもされていなかったのか。もう分からなくなってしまって…消えてしまいたいです。」
「泣けば?2人しか居ないんだから泣いていいよ。」
ヴィルヘルム様は頭を撫でてくれた。
あったかい手だった。
その後は、私の泣き顔に大笑いするヴィルヘルム様につられて、私も笑ってしまった。
「ふっ、ははははは!サ、サラーシュ!は、鼻水!」
ハンカチでゴシゴシ拭いてくださる。
ヴィルヘルム様、喜んでいただけましたでしょうか。
呼び捨てですわよ?
サラーシュ、別の意味で恥ずかしかったですわ…
「明日も会おう。」
でも、ヴィルヘルム様が約束してくれたので、何だか久々に楽しい気持ちになりましたわ。
捨てる神あれば拾う神あり。(拾われてないけど。)
ヴィルヘルム様、今日のあなたはそんな感じ。
あったかい手。あったかい人。
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