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15.辺境伯邸の人々
しおりを挟む「今日は、ここの使用人等と領地民を紹介するね。」
ヴィルヘルム様は、朝食後に言った。
応接室に集められたのは、執事のイーサン、メイドのキーナとアンヌ、騎士のベン・サム・ニールの六人だった。
イーサンは白髪の上品さ漂う老紳士。
キーナとアンヌは私と同じ位の歳かしら。
騎士三人組も若そう。
「みんな朝から集まってくれて、ありがとう。この方はマクレガン公爵家のサラーシュ嬢だ。みんな、彼女がここでの暮らしに早く馴染めるように、くれぐれも頼んだぞ。」
ヴィルヘルム様は、ちょっと偉そうに話す。
領主だから当たり前なんだけど、私の前の可愛い人とは別人のようで、笑いを堪えるのが大変だ。
「お嬢様、ようこそ辺境の地へ。ヴィルヘルム様の大切なお方と伺っておりますので、どうか何なりとお申し付けください。誠心誠意お使えさせていただきます。」
イーサンが挨拶をすると、皆、深々と頭を下げてくれた。
「北部は初めて訪れましたので、いろいろ不慣れなことがあると思いますが、よろしくお願い致します。」
私も深々頭を下げる。
「サラーシュが頭を下げなくても!」
「お嬢様!頭をお上げください!」
皆、同時に叫ぶ。
「でも、私は新参者ですのよ?皆さんに教えを乞うのは当然のことです。これは譲れません。」
にっこり笑ってみた。
ヴィルヘルム様は困り顔。
「出たよ…サラーシュの人たらし…」
「領主様、お嬢様にメロメロですからねー!ここに来るまでの領主様ったら、みんなに見せたかったですよ。そりゃーもうだらしない顔で!」
ベン・サム・ニールはニヤニヤ。
「女っ気ゼロの領主様が?それは是非ともお嬢様に貰っていただかねば!」
「男好きを心配しておりましたが、領主様に春が来そうですね!」
キーナとアンヌもニヤニヤ。
頼みの綱の筈のイーサンでさえニヤニヤ。
「領主様、じいやは嬉しいです。お子様が抱けますかな?」
「おいっ、お前ら!いい加減にしろ!!」
真っ赤なお顔で怒鳴ってみても、ねぇ。
「ここは皆さん仲がよろしいのですね。私も混ぜてくださいませ。気軽にサラーシュと呼んでくれたら嬉しいです。」
「では、サラーシュ様と呼ばせていただきます。」
和気藹々。最初にしては良い雰囲気。
「サラーシュ、俺は?」
「はっ?ヴィルヘルム様は、既にサラーシュと呼んでいるではないですか。」
「うーん…何かみんなと同じって…うーん…うーん…うーん…」
誰ですか、この人は?
一体何故、今こんななの?
「じゃーあ、ヴィルヘルム様は『サラ』と呼んでくださいます?」
「うん!サラ、いいね。特別親しい感じがしていい!俺のことも『ヴィル』って呼べ。」
満面の笑みのヴィル。
室内に漂う気配。
私達は、何を見せられているのでしょうか…って感じなんですけど?
気まずい。
大変気まずい。
どうしてくれよう、この男。
「この後は、領地を案内してくださるのですよね?」
話題変えなきゃ。
「ここはあまり広くない領地だし、居住地も狭いので、馬で行くぞ。」
「私、馬に乗れませんけど…」
「もちろん、俺と一緒に乗る。騎士は来なくていい。」
あー、みんな同じ表情をしてる。
領主様、下心が丸わかり!って。
「では、ヴィル様、お願いしますね。」
「ヴィル、だけでいいのだが…」
「もう少し、慣れたら、ねっ?」
両手でヴィルの頬をスリスリ撫でる。
こんな小っ恥ずかしい会話を締めるのは、私しかいないことに気付くには、この短い時間で充分だった。
「サラーシュ様は、領主様を黙らせる方法を手に入れた…」
キーラが呟く小さな声を私は聞き逃さなかった。
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