【本編完結・新章スタート】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

文字の大きさ
51 / 97

50.ラスボス!

しおりを挟む

「ヴェリティ、見るに耐えない蝿は追い出したわ。心置きなくパーティを楽しみなさい。」

ファビオラ夫人は、先程までの険しい表情を緩め、私に優しく微笑んだ。

「ありがとうございます。何も言えなくて、ファビオラ様やグレイシア様に助けていただいてばかりで…申し訳ございません。」

「いいのよ。ヴェリティがエミリオンと結婚してくれただけでも、私としては感謝してるもの。リオラやリディアも可愛いし。エヴァンス公爵家が賑やかになって、私も楽しいわ。」

「そんな…私こそ、受け入れていただいて、嬉しいです。エミリオン様にも、エヴァンス公爵家の皆様にも、感謝しかありません。」

「ほら、ヴェリティ!あなたも、もうエヴァンス公爵家の人間よ?感謝は嬉しいけど、あなたは家族なの。だから、何も心配しないで。遠慮はまだ健気だけど、萎縮されても困るから、ヴェリティは今のままでいいですからね?」

「お義母様、本当にありがとうございます!そのお言葉、何よりも嬉しいです。」

「では、また後でね。エミリオン、ヴェリティの傍は、絶対に離れないでね?」

ウィンクして、ファビオラ夫人はその場を後にした。

「やっぱり母上は…」

「もしかして、エヴァンス公爵家のボスって…お義母様?」

「はあ…もうバレちゃったな。そう、母上だよ。社交界の重鎮、ラスボス。」

エミリオンは笑いを堪えながら話す。

「うちはさ、父上は入り婿なんだ。実際の決定権は、全て母上が握っている。事業も息子の結婚もね。」

「……………」

「だから、ヴェリティは母上に気に入られてるし、安心して欲しい。そうでなきゃ、あの場に母上は出て来ない。久しぶりに扇のぴしゃりを聞いたよ。」

「迫力…ありましたよね…ぴしゃり…」

「俺だって怖いもん!」

身を震わせるエミリオンに、私は笑ってしまう。

「でも、味方についていただけたら、最強ですね。
私のような者を受け入れてくださる優しさや、懐の深さも有り難いです。
私も、もっとしっかりしなくちゃですね。」

「そんなに気負うなって!母上も今のままでいいって言ったろう。
ヴェリティには、双子達の休暇が終わったら、事業を手伝ってもらうから、それまでは、のんびりしよう?頼りにしてるよ。」

「はい、頑張ります。」

「いや、頑張り過ぎなくていい。俺との時間も大切だからな?」

「ふふふ、分かりました。」

甘々なエミリオンに、心があたたかくなる。
周りの雰囲気も優しくなり、私はエミリオンと他愛ない話をして、パーティを楽しんでいた。

「「お母様!!」」

「エミリオン、ヴェリティ、楽しんでるか?」

そこへ、双子達と手を繋いだグラナード公爵が現れる。

「お義父様に、リオラ、リディア!」

「お祖父様とケーキ食べたの。」

「リオラなんて三つも食べたのよ!」

グラナード公爵は、ずっと双子達にべったりだ。

「ヴェリティ、この子達は賢いし可愛いなぁ。何時間、一緒に居ても飽きないぞ。」

「まあ、お義父様、可愛がってくださるのは嬉しいのですが、あまり二人を甘やかさないでくださいね?」

「いや、甘やかすだろう?今だって抱っこしたいのを我慢しているんだから。はっはっは!」

「「お家に帰ったら、抱っこしてください!!」」

「いいぞ、いくらでも!」

「「わーい、お祖父様、大好き!!」」

双子達は、私以外には、あまり抱っこをされた記憶はないだろう。
レオリックは、外商で居ないことが多かったし、恐らくレオリック自身も、父親からそのように触れられたことがないのかもしれない。

そして、私も両親に抱っこをしてもらったという記憶がない。
嫡男の兄ばかり可愛がる母、愛人ばかり大切にする父。
ただ、その記憶がないからこそ、双子達は思う存分抱っこして、甘えさせてあげたいと思ってきた。

そんな双子達が、十一歳にしては、グラナード公爵にべったりなのは、祖父という存在に対する憧れがあったのだろうと私は思った。
そして、グラナード公爵の差別や偏見なく、双子達を受け入れる大きな心に、双子達は甘えたいのだろう。

エミリオンを慕う気持ちと同じ位に、祖父としてグラナード公爵を慕う双子達。
無条件で甘えられる存在が居るから、人は自分もそう存りたいと思ったり、その優しさに応える為に頑張ろうと思う生き物だ。
私も双子達も、偶然や奇跡であろうと、この環境を大切にして、想いを返していこうと思った。

「ヴェリティ、また考え事?」

「幸せだなぁって思って。双子達のあんな笑顔が見られて、隣にはエミリオン様が居る。私、本当に幸せです。」

「それは良かった。でも、リオラとリディアがあんなに懐くと、俺は父上に嫉妬してしまいそうだ。」

「やだっ、そんな心配要らないわ。リオラもリディアも、エミリオン父様が大好きですよ。
エミリオン先生の頃から慕っていましたもの。
その人が父親になってくれて、とても嬉しいと思います。」

「そうか。」

エミリオンは、グラナード公爵と戯れる双子達を優しく見守っていた。
その顔は、血の繋がりなど全く関係なく、ただの父親の顔だった。

その横顔を見ながら、私はエミリオンにまた恋をする。
私の為に怒り、私を甘やかし、私の大切な双子達も愛してくれる。
私の人生を丸ごと受け止めてくれるエミリオン。

最初にエミリオンと結婚していたら、双子達には出会えなかった。
だから、こういう運命なのだと思うことにする。
後悔よりも、前へ、前へ。
明日を迎えることが楽しみな人生を、エミリオンと送ろう。

双子達に心配を掛けるような生き方は、もうしない。
いつか双子達も愛する人と出会い、本当の意味で巣立つ時、安心して飛び立てるように。
そして、安心して心の拠り所になれるように。

そう思えるような優しい夜だった。
しおりを挟む
感想 246

あなたにおすすめの小説

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

妹の方が良かった?ええどうぞ、熨斗付けて差し上げます。お幸せに!!

古森真朝
恋愛
結婚式が終わって早々、新郎ゲオルクから『お前なんぞいるだけで迷惑だ』と言い放たれたアイリ。 相手に言い放たれるまでもなく、こんなところに一秒たりとも居たくない。男に二言はありませんね? さあ、責任取ってもらいましょうか。

【完結】元サヤに戻りましたが、それが何か?

ノエル
恋愛
王太子の婚約者エレーヌは、完璧な令嬢として誰もが認める存在。 だが、王太子は子爵令嬢マリアンヌと親交を深め、エレーヌを蔑ろにし始める。 自分は不要になったのかもしれないと悩みつつも、エレーヌは誇りを捨てずに、婚約者としての矜持を守り続けた。 やがて起きた事件をきっかけに、王太子は失脚。二人の婚約は解消された。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

新妻よりも幼馴染の居候を優先するって、嘗めてます?

章槻雅希
恋愛
よくある幼馴染の居候令嬢とそれに甘い夫、それに悩む新妻のオムニバス。 何事にも幼馴染を優先する夫にブチ切れた妻は反撃する。 パターンA:そもそも婚約が成り立たなくなる パターンB:幼馴染居候ざまぁ、旦那は改心して一応ハッピーエンド パターンC:旦那ざまぁ、幼馴染居候改心で女性陣ハッピーエンド なお、反撃前の幼馴染エピソードはこれまでに読んだ複数の他作者様方の作品に影響を受けたテンプレ的展開となっています。※パターンBは他作者様の作品にあまりに似ているため修正しました。 数々の幼馴染居候の話を読んで、イラついて書いてしまった。2時間クオリティ。 面白いんですけどね! 面白いから幼馴染や夫にイライラしてしまうわけだし! ざまぁが待ちきれないので書いてしまいました(;^_^A 『小説家になろう』『アルファポリス』『pixiv』に重複投稿。

処理中です...