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50.ラスボス!
しおりを挟む「ヴェリティ、見るに耐えない蝿は追い出したわ。心置きなくパーティを楽しみなさい。」
ファビオラ夫人は、先程までの険しい表情を緩め、私に優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。何も言えなくて、ファビオラ様やグレイシア様に助けていただいてばかりで…申し訳ございません。」
「いいのよ。ヴェリティがエミリオンと結婚してくれただけでも、私としては感謝してるもの。リオラやリディアも可愛いし。エヴァンス公爵家が賑やかになって、私も楽しいわ。」
「そんな…私こそ、受け入れていただいて、嬉しいです。エミリオン様にも、エヴァンス公爵家の皆様にも、感謝しかありません。」
「ほら、ヴェリティ!あなたも、もうエヴァンス公爵家の人間よ?感謝は嬉しいけど、あなたは家族なの。だから、何も心配しないで。遠慮はまだ健気だけど、萎縮されても困るから、ヴェリティは今のままでいいですからね?」
「お義母様、本当にありがとうございます!そのお言葉、何よりも嬉しいです。」
「では、また後でね。エミリオン、ヴェリティの傍は、絶対に離れないでね?」
ウィンクして、ファビオラ夫人はその場を後にした。
「やっぱり母上は…」
「もしかして、エヴァンス公爵家のボスって…お義母様?」
「はあ…もうバレちゃったな。そう、母上だよ。社交界の重鎮、ラスボス。」
エミリオンは笑いを堪えながら話す。
「うちはさ、父上は入り婿なんだ。実際の決定権は、全て母上が握っている。事業も息子の結婚もね。」
「……………」
「だから、ヴェリティは母上に気に入られてるし、安心して欲しい。そうでなきゃ、あの場に母上は出て来ない。久しぶりに扇のぴしゃりを聞いたよ。」
「迫力…ありましたよね…ぴしゃり…」
「俺だって怖いもん!」
身を震わせるエミリオンに、私は笑ってしまう。
「でも、味方についていただけたら、最強ですね。
私のような者を受け入れてくださる優しさや、懐の深さも有り難いです。
私も、もっとしっかりしなくちゃですね。」
「そんなに気負うなって!母上も今のままでいいって言ったろう。
ヴェリティには、双子達の休暇が終わったら、事業を手伝ってもらうから、それまでは、のんびりしよう?頼りにしてるよ。」
「はい、頑張ります。」
「いや、頑張り過ぎなくていい。俺との時間も大切だからな?」
「ふふふ、分かりました。」
甘々なエミリオンに、心があたたかくなる。
周りの雰囲気も優しくなり、私はエミリオンと他愛ない話をして、パーティを楽しんでいた。
「「お母様!!」」
「エミリオン、ヴェリティ、楽しんでるか?」
そこへ、双子達と手を繋いだグラナード公爵が現れる。
「お義父様に、リオラ、リディア!」
「お祖父様とケーキ食べたの。」
「リオラなんて三つも食べたのよ!」
グラナード公爵は、ずっと双子達にべったりだ。
「ヴェリティ、この子達は賢いし可愛いなぁ。何時間、一緒に居ても飽きないぞ。」
「まあ、お義父様、可愛がってくださるのは嬉しいのですが、あまり二人を甘やかさないでくださいね?」
「いや、甘やかすだろう?今だって抱っこしたいのを我慢しているんだから。はっはっは!」
「「お家に帰ったら、抱っこしてください!!」」
「いいぞ、いくらでも!」
「「わーい、お祖父様、大好き!!」」
双子達は、私以外には、あまり抱っこをされた記憶はないだろう。
レオリックは、外商で居ないことが多かったし、恐らくレオリック自身も、父親からそのように触れられたことがないのかもしれない。
そして、私も両親に抱っこをしてもらったという記憶がない。
嫡男の兄ばかり可愛がる母、愛人ばかり大切にする父。
ただ、その記憶がないからこそ、双子達は思う存分抱っこして、甘えさせてあげたいと思ってきた。
そんな双子達が、十一歳にしては、グラナード公爵にべったりなのは、祖父という存在に対する憧れがあったのだろうと私は思った。
そして、グラナード公爵の差別や偏見なく、双子達を受け入れる大きな心に、双子達は甘えたいのだろう。
エミリオンを慕う気持ちと同じ位に、祖父としてグラナード公爵を慕う双子達。
無条件で甘えられる存在が居るから、人は自分もそう存りたいと思ったり、その優しさに応える為に頑張ろうと思う生き物だ。
私も双子達も、偶然や奇跡であろうと、この環境を大切にして、想いを返していこうと思った。
「ヴェリティ、また考え事?」
「幸せだなぁって思って。双子達のあんな笑顔が見られて、隣にはエミリオン様が居る。私、本当に幸せです。」
「それは良かった。でも、リオラとリディアがあんなに懐くと、俺は父上に嫉妬してしまいそうだ。」
「やだっ、そんな心配要らないわ。リオラもリディアも、エミリオン父様が大好きですよ。
エミリオン先生の頃から慕っていましたもの。
その人が父親になってくれて、とても嬉しいと思います。」
「そうか。」
エミリオンは、グラナード公爵と戯れる双子達を優しく見守っていた。
その顔は、血の繋がりなど全く関係なく、ただの父親の顔だった。
その横顔を見ながら、私はエミリオンにまた恋をする。
私の為に怒り、私を甘やかし、私の大切な双子達も愛してくれる。
私の人生を丸ごと受け止めてくれるエミリオン。
最初にエミリオンと結婚していたら、双子達には出会えなかった。
だから、こういう運命なのだと思うことにする。
後悔よりも、前へ、前へ。
明日を迎えることが楽しみな人生を、エミリオンと送ろう。
双子達に心配を掛けるような生き方は、もうしない。
いつか双子達も愛する人と出会い、本当の意味で巣立つ時、安心して飛び立てるように。
そして、安心して心の拠り所になれるように。
そう思えるような優しい夜だった。
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