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51.オーレリアの変化
しおりを挟むその頃、パーティ会場を追い出されたレオリックは、ブランフォード侯爵家に戻り、オーレリアに手を焼いていた。
馬車の中でもムクれたままのオーレリアは、ひと言も発しなかったのだ。
「オーレリア、一体どうしたんだ!?使用人の契約に訪れたエヴァンス公爵令息と会ってから、君はおかしいし、先程の態度は何なんだ?」
事情の分からないレオリックは、先ずはオーレリアの考えていることを知りたかった。
隣同士でソファに座り、オーレリアの手を握って、極力優しく話し掛ける。
「何故…何故、ヴェリティ様はエミリオン様と正式に結婚したのですか…?」
「エヴァンス公爵令息の初恋がヴェリティだったそうだ。」
レオリックは、オーレリアの妊娠を機に、ヴェリティを離れに住まわせ、体調を崩してエミリオンが救い出したことを、自分が知る限り正直に話した。
「どうして…ヴェリティ様ばかり…レオリック様からは侯爵家の様々な権限を任され、使用人達にも頼られて好かれて…エミリオン様まで…
私とヴェリティ様の何が違うのでしょう?
私は、嫡男となるマテオも授かったし、ヴェリティ様よりも、もっともっと尊重されていい筈ではないですか!?
何故、皆、ヴェリティ様ばかり…」
「ヴェリティの時は、母上が居たから自然と侯爵夫人としての教育は受けていたし、その中で使用人達とも打ち解けていったのだろう。
しかし、オーレリアには家庭教師だけだったからな。
しかも、マテオを孕ってくれて、教育が中途半端になってしまった。
オーレリアは、侯爵夫人として堂々と俺の隣に立ちたいのか?
それならば、また家庭教師を雇い、一から教育を受けることも許可しよう。」
「今のままではいけませんの!?教育、教育って、私はそんなに恥ずかしい存在なのですか?ただ、あの場で質問しただけではないですか!
それなのに、会場から追い出すなんて、あまりにも酷いではないですか!!」
二十歳になったというのに、オーレリアの心は幼さを残しており、ヴェリティとは全く違う性質にレオリックは困惑した。
レオリック自身も、比較対象がヴェリティだけということもあり、オーレリアの心が読めない。
「社交の場では、マナーやルールは重んじられるのだ。
高位貴族から話し掛けられるまでは、こちらから声を掛けてはならない。
ましてや、許可なく名前で呼ぶことは許されないんだ。
ヴェリティは次期公爵夫人だし、エヴァンス公爵令息も次期公爵だ。
今夜のようなことが再びあれば、ブランフォード侯爵家は、社交の場に出られなくなる。
それだけの力を持っているのだよ、エヴァンス公爵家は。」
「扇を持った方は、エミリオン様のお母様でしょうか?」
「そうだ、ファビオラ・エヴァンス公爵夫人だ。」
「では、あの方に気に入られたら?」
レオリックは、耳を疑った。
あれだけの態度を取られて、まだ気に入られる要素があると考えるオーレリア。
「オーレリア…君は何がしたいんだ?ファビオラ夫人に気に入られたい理由は何だ?
エヴァンス公爵令息にでも惚れたのか?
あの者は、正式なヴェリティの夫だ。
そして、あの者の父親は、このレイグラント帝国のジェスティン皇帝陛下の弟君だ。
エヴァンス公爵家に婿入りしたとしても、皇位継承権を持つ皇弟殿下には変わりはない。
エヴァンス公爵令息やファビオラ夫人だけでなく、グラナード公爵に睨まれでもしたら、ブランフォード侯爵家とはいえ、無事ではいられない。
これからも社交の場に出たいなら、エヴァンス公爵家とは関わるな。
そして、先ずはマナーや教養を身に付けなさい。
乳母を二人雇うのだから、その時間も確保出来るだろう。」
レオリックは、今夜の失態は、オーレリアのヴェリティに対する嫉妬だと判断した。
マテオを孕って優位に立った筈のオーレリアは、公爵令息と再婚し、またもや自分より上に立つヴェリティが羨ましいのだろう。
そんなオーレリアでも、せめてマナーだけでも身に付けば、伯爵家や侯爵家の令嬢達との親交位は築けるだろう。
「新しい使用人達は、いつ来るのですか?今の者達は、追い出してくださるのですよね?」
「ああ、そのつもりだ。オーレリアにきちんと仕えられるよう、それなりの家柄と経験を積んだ者を手配している。
だから、オーレリアもヴェリティに引け目を感じず、侯爵夫人として堂々と振る舞えばいい。」
「……分かりました。」
「ドレスも、今より大人っぽい物に新調したらいい。身なりが整えば、気も引き締まるし、それなりに見えてくるものだからな。」
ジェスティン皇帝陛下のパーティに遅れたのは、土壇場になってオーレリアがドレスを着替えたからだった。
子どもを産んでも、まだ心が幼いオーレリアは、レオリックと対の濃紺のドレスを地味だと嫌がり、白地に金の刺繍が入ったドレスに着替えたのだ。
それは、まるで花嫁を思わせるデザインで、レオリックは頭を抱えつつ、時間が迫っていた為に、急ぎパーティへ向かった。
ある意味、ファビオラ夫人に、早々に追い出されたのは、幸運だったのかもしれない。
ヴェリティなら絶対に選ばない筈のオーレリアの白いドレス。
先程見たショコラ色のドレスを纏ったヴェリティは、控えめながら上品で、ブランフォード侯爵夫人だった時よりも、美しく輝いていた。
(それに比べて、オーレリアは…中身は子どもと同じだ…)
レオリックは、今更ながらヴェリティを手放すことになってしまったことを少しだけ悔いた。
だが、ヴェリティよりも若いオーレリアがマナーや教養を身に付ければ、そのうち、きっと周りも認めるだろう。
しかし、レオリックの気持ちとは裏腹に、オーレリアはヴェリティに対する嫉妬を膨らませていた。
(どんな手を使って、エミリオン様を手に入れたの?
エミリオン様の初恋と言っても、ヴェリティ様なんて年上じゃない!
きっとお優しいエミリオン様は騙されている。)
この日を堺に、オーレリアは少しずつ壊れていき、レオリックの心もオーレリアから離れゆく事態になったと気付くのは、まだ少し後のことだった。
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