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53.使用人達の入れ替え
しおりを挟むブランフォード侯爵家には、エヴァンス公爵家の執事のベンジャミンが新しい使用人達を連れて行った。
そして、顔合わせの為に、応接間には、レオリックとベンジャミンの他に男性二名、女性四名の使用人が通され、その他の侍女達は広間で待機した。
応接間では、その場でベンジャミンが持参した引き渡し書にレオリックはサインをする。
「これから一年間は、エヴァンス公爵家の派遣事業と交わした契約書を基に、この者達はブランフォード侯爵家様に仕えます。
執事のクロード 、執事補助としてアーサー、侍女長のナージェル、奥様付きの侍女のローザ、乳母としてミリアンヌとアリアです。
後の者は追々名前を覚えていただければと思います。
では、私はこれにて失礼いたします。」
「ご苦労であった。エヴァンス公爵様によろしく伝えてくれ。」
事務的な笑顔を見せ、ベンジャミンはブランフォード侯爵家を後にした。
残ったクロード達にレオリックは早速指示を出す。
「現在、執事は不在だ。溜まった執務に取り掛かってもらいたい。」
「以前、執務にあたっていらしたお方は、離れにお住まいだったと伺っています。
そのお方の執務室を拝見してもよろしいでしょうか?
マニュアルがあると伺っております。」
クロードは、ヴェリティからの引き継ぎの話はせずに、レオリックには執務室が見たいとだけ告げた。
あの時のエミリオンの薄ら笑いの意味を感じ取り、ここではヴェリティの名を出さないと決めていたからだ。
「マニュアルか…以前の者はマメだったからな…
後ほど、本邸と離れの執務室に案内させよう。」
「畏まりました。執務につきましては、私、クロードとアーサーにて承ります。」
「侍女については、そなた達と入れ替わりで引退する者が引き継ぎをする。
今の侍女長のクレシアと話してくれ。」
「はい。侍女達の取りまとめは、私、ナージェルが担当いたします。
奥様付きの侍女にはローザ、乳母としてミリアンヌとアリアが交代でお坊ちゃまのお世話にあたります。」
「では、引き継ぎを頼む。」
「承知いたしました。」
レオリックは、グラナード公爵の人選に満足していた。
第一印象は、皆、礼儀も弁えており、見目もなかなか良い。
これだけの人材を送り込む、グラナード公爵の人望や力量は大したものだと、レオリックは感心した。
しかし、一つ問題があった。
それは、オーレリアだ。
パーティから摘み出されたオーレリアは、あの日から口数が少ない。
マテオの世話も碌にせず、ベッドで伏せっていた。
いつまでもそのままにはしておけないと、レオリックは寝室のオーレリアを訪ねた。
「オーレリア、新しい使用人達が来た。体調が許すなら、顔を出さないか?」
「部屋の外に出られる姿ではありませんので、私付きの侍女を寄越してください。」
「ああ、そうだったな。直ぐに遣わそう。」
レオリックは、クレシアに声を掛け、ローザをオーレリアに向かわせた。
「奥様、ローザと申します。よろしくお願いいたします。」
「オーレリアよ。これから、よろしくね。」
儚げに微笑むオーレリアに、ローザは上品な微笑みで返す。
「では、奥様、お体は大丈夫でしょうか?
差し支えなければ、お支度をいたしましょう。
皆が奥様にお会い出来るのを待っております。」
「…えっ…?」
「格式高いブランフォード侯爵家様での、新しいご主人様となる奥様ですから。
期待に胸を弾ませて、こちらに参りました。
お美しい奥様にお会い出来たら、皆、仕事もやる気が出ると思いますし、誠心誠意お仕えいたします。」
「そ、そうなの?皆、歳はいくつ位なの?」
「私は十六歳です。執事のクロードは二十歳、その他は十六歳から二十歳までです。」
「そうなの。私は二十歳よ。皆、若いのね。」
オーレリアは、今までの使用人達も愛想よく身の回りのことをしてくれたが、年が上の所為で、何となく気まずさを感じていた。
しかし、新しい使用人達は皆、自分と同い年か年下だ。
つまり、自分が一番地位のある立場なのだ。
年齢だけで萎縮していた今までとは違い、ブランフォード侯爵夫人として、皆に指示を出す立場になったのだ。
「ローザ、そこのドレスがいいわ。髪は、緩く纏めてちょうだい。」
「はい、奥様。」
手際よく支度を手伝い、髪を結い化粧も施し、仕上げに紅を引くと、オーレリアは落ち着いた品のある夫人に仕上がった。
「ローザ、凄いわ。あっという間に!」
「奥様のお美しさを引き出せましたでしょうか。
今も充分お美しいのですが、毎日お肌もぴかぴかに磨き上げましょう。
これからは流行も取り入れて、奥様のお美しさを外にも知らしめましょう。」
「ローザ…今まで、そんなことを言ってくれる使用人は居なかったわ…ありがとう。」
「奥様!奥様は、ブランフォード侯爵夫人様なのですよ?当たり前のことです。」
オーレリアは、本邸に移っても、静かに暮らすだけの人形だった。
それが当たり前と思ってきたのに、新しく来たばかりのローザは、自分を侯爵夫人として既に尊重してくれる。
「ローザ、本当にありがとう。」
オーレリアは、ローザの手を握り、感謝のあまり目に涙を浮かべた。
「奥様、せっかくのお化粧が取れてしまいますわ。さあ、皆に会ってあげてくださいませ。」
微笑みを浮かべたオーレリアは、儚さの中にも、少し芽生えた自信に心が弾んだ。
背筋を伸ばし颯爽と歩いて広間に向かうと、侍女達はオーレリアをお辞儀をして迎えた。
「ブランフォード侯爵家のオーレリアです。
これからよろしくお願いしますね。」
侍女達の前に出たオーレリアは、堂々と女主人の挨拶をし、ローザ同様、皆はオーレリアに傅いた。
その様子を見ていたレオリックは、オーレリアの堂々とした態度を好ましく思い、使用人達を一新して良かったと胸を撫で下ろすのであった。
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本日12時 更新
スピンオフ グレイシアのお話
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