【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

文字の大きさ
60 / 90

59.侯爵夫人

しおりを挟む

使用人を一新して三ヶ月。
オーレリアとの関係は、表面上は悪くない。
執務はクロードとアーサーがあっという間に片付けて、ブランフォード侯爵家は、以前のような落ち着きを取り戻していた。

(やっぱり、エヴァンス公爵家から派遣される者は有能だな。ヴェリティが特別有能だった訳じゃなかったのだな。)

その日レオリックは、珍しく休暇を取り、オーレリアとゆっくりお茶を飲んでいた。

「オーレリア、マテオはどうだ?」

「すくすくと良い子に育っていますわ。ミリアンヌとアリアよく面倒を見てくれますもの。
あの二人は赤子を亡くして、婚家を追い出されたみたいですわ。
夫がすぐに次の女性を娶ったみたいで、用済みになってしまったそうです。お可哀想に…
でも、お乳は出るので、女性の体は不思議ですね。」

「そうか。しかし、貴族には嫡男が必要だから、そういった女性が乳母をしてくれると助かるな。
オーレリアの母乳は止まってしまったし…
あれは、馴染まない使用人達に感じていたストレスかもしれないな。」

「そうですわ、きっとストレス。女性は精神的なストレスに弱いものですから。」

そう言いながら、オーレリアは内心レオリックを嘲笑っていた。

(何で母乳が出る乳母を雇ったのに、私がしなきゃならないのよ。
ミリアンヌとアリアが言ってたわ。お乳をあげると胸の形が崩れるって。
乳母が居るのだから、仕事は任せてって。
何て良い子達なのかしら、ミリアンヌとアリアは。
レオリック様、良い子達を雇ってくれたわ。)

そんなことを考えているとは露程も知らず、儚げに微笑むオーレリアを見て、レオリックは満足だった。

「ナージェルやローザは、問題ないか?」

「はい、良く仕えてくれますわ。今日の髪型、如何ですか?ローザは器用で、あっという間に仕上げてくれますの。
流行にも敏感で、いろいろ話してくれますわ。」

「ああ、綺麗だよ。そのドレスにも似合ってる。」

「良かった!嬉しいです。ねぇ、レオリック様、私、ドレスが欲しいですわ。それに、お茶会や夜会にも行きたいです。」

レオリックは、あのパーティから摘み出された夜を思い出し、一瞬躊躇した。
しかし、今目の前のオーレリアは、ブランフォード侯爵家に来た時よりも、所作が美しくなっている。

「大丈夫か?貴族の夫人達はマナーにうるさいぞ?」

オーレリアは、不快感を隠しもせず、レオリックを見つめた。

「ナージェル やローザが教えてくれましたの。侯爵夫人らしい振る舞いを。
ナージェルは侯爵家出身だし、ローザは伯爵家出身だそうですわ。
以前の家庭教師ガヴァネスよりも、分かりやすく教えてくれましたの。
家庭教師ガヴァネスは指摘するだけでしたけど、ナージェルもローザも丁寧に教えてくれるし、優しいわ。」

「そうなのか、そんなことまで侍女達が…まあ、確かに茶を飲む所作は美しくなったな。
なら、クロードに言って、良さげなパーティを選ぼう。 
確か直近では、ハーネスト公爵家から夜会の招待状が来ていた筈だ。
ドレスは、フレデリック商会でも呼んで見繕うか。」

「イヴ・カルーレはどうでしょう?有名なデザイナーなのでしょう?」

レオリックは、オーレリアがデザイナーの名を知っていることに驚いた。

「何故、イヴ・カルーレの名を?」

「若い使用人達でも知っている、有名なデザイナーらしいですわ!帝国一の!!」

「ああ、そうらしいな。しかし、ブランフォード侯爵家とは縁がない。」

(ヴェリティはドレスになど興味がなかったし、双子の世話が忙しくて、パーティにも連れて行かなかったしな…)

「でも!侯爵夫人ならば、イヴ・カルーレのドレスは相応しいと思いませんか?」

「うーん…一応、遣いの者を送ってみる。」

「ありがとうございます!」

(確かに、ブランフォード侯爵家ならば有名デザイナーの衣装でもいいが…あのデザイナーは人気だから、果たして呼んでも来るだろうか…)

オーレリアは喜んでいるが、レオリックは内心厄介だと思っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



数日後、イヴ・カルーレから返事が来た。

『只今、エヴァンス公爵家様のご依頼でいっぱいでございます。
またの機会にご用命いただけますと幸いです。』

その手紙を見たオーレリアは、即座に破り捨てた。

「またヴェリティ様なの!?あの方は私の邪魔ばかりするのですね!」

人が変わったように怒鳴るオーレリアに、レオリックは頭を抱えた。

「ヴェリティの名を気安く呼ぶな。以前、注意を受けただろう?
もうあの者に拘るな。別のデザイナーを手配するから、好きなドレスを作ればいい。」

「でも!またの機会っていつなんですか?私もイヴ・カルーレのドレスが着たいです!!」

「今から予約して、建国祭に間に合うようにすればいいだろう?
取り敢えず、今回は違うデザイナーにして、アクセサリーも買えばいい。」

「………分かりました…」

やっと落ち着いたオーレリアに、レオリックは胸を撫で下ろす。

(ヴェリティへの敵対心は、まだ捨てられなかったのだな。
何故、あんなに拘るのだろうか?厄介だな…)

儚げだと思っていたオーレリアが、だんだん我儘になっていく様を見て、レオリックは動揺していた。

(オーレリアをこのままにしていいのだろうか…
ヴェリティはこういう我儘を一切言わなかったな。
黙々と執務を熟し、それ以外は双子達といつも過ごしていた。
年一回の領地の視察を、旅行だと思って喜んで付いてきた。
扱いやすかったな、ヴェリティは。)

オーレリアに嫌気がさす度に、ヴェリティが少し懐かしくなるレオリックだった。

そして、多忙な仕事や、このもやもやを感じる日々に忙殺され、レオリックは肝心なことを失念していたのだった。
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...