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60.ドレスと制服
しおりを挟む「なぁ、ヴェリティ、ハーネスト公爵家から夜会の招待状が来ているが行くか?」
ハーネスト公爵家といえば、リリアン・ハーネスト公爵令嬢とその取り巻きのカレナ・サルトワ侯爵令嬢とフィリナ・マグジー侯爵令嬢が頭に浮かんだ。
「あっ…リリアン様と、その取り巻きの方々…」
年上のヴェリティがエミリオンをどうやって射止めたのかと言い、グレイシアにこてんぱんに打ちのめされた令嬢達だ。
「エミリオン様と一緒でしたら、参加させていただきますわ。」
「ヴェリティが行くなら、もちろん俺も行くさ。
なら、イヴにドレスを見繕ってもらうか。」
エミリオンは、ファビオラ夫人に相談し、イヴ・カルーレを呼ぶことにした。
「イヴは私が呼んだら、すぐに来るから!
ヴェリティはエミリオンに素敵なドレスを買ってもらいなさい。
エミリオンは、たーくさんお金を持っているから、贅沢しても大丈夫よ?
私もドレスを作ってもらおうかしら。」
ファビオラ夫人がエミリオンに、にこやかな顔を向けると、エミリオンは苦笑いした。
「はいはい、母上もどうぞ。何着でもいいですよ。ドレスは構いませんが、アクセサリーはご自分の品位維持費で用意してくださいね?」
そんなやり取りにヴェリティが驚いていると、エミリオンは不思議そうな顔をした。
「ヴェリティも、ブランフォード侯爵家の時は、社交の場に出る機会が少なくても、品位維持費があっただろう?」
「…………?」
「「まさか!?」」
ファビオラ夫人がヴェリティに過去はどうしていたか問う。
「ヴェリティは、パーティのドレスは、あちらでは、どうしていたの?」
「お義母様のドレスとサイズが合ったので、それをお借りしていました。胸元だけ、ちょっときついので布を巻いて押さえたりしていましたが、問題なく着られました。」
エミリオンとファビオラ夫人は、微笑むヴェリティをじっと見つめた。
「エミリオン、これからは季節ごとにヴェリティのドレスを作りなさい。
イヴは、いつでも呼べるように、年間契約にしましょう。
エヴァンス公爵家以外のドレスは作らせなくてもいいわよね?」
「はい、そうしましょう。年間契約の費用なんて、俺が出しますよ。」
話の展開について行けず、ヴェリティはおろおろしてばかりだ。
「申し訳ありません…私、何も知らなくて…
何か変だったでしょうか…?」
「ヴェリティ、俺の為にドレスで着飾って欲しいんだ。
夫なんだから、それは俺の為でもあるんだよ?」
「別に変じゃないわ、ヴェリティ。あなたが贅沢をしたがらないのは分かっているから。
でも、エヴァンス公爵家としては、対外的に必要な場合があるし、流行の最先端をいく必要もあるから、エミリオンに甘えて、ドレスも宝石も揃えてちょうだいね?」
「は、はい。エミリオン様のアドバイスもいただければ。」
「いいぞ!ヴェリティを俺色に染めてやる!!」
ファビオラ夫人は、そんなエミリオンを見て、しみじみ思う。
(あのやさぐれて、人生生き地獄だった子が、こんなにも幸せそうだなんて。)
ファビオラ夫人は、ヴェリティを迎えて良かったと、改めて思うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、イヴ・カルーレがエヴァンス公爵家にやって来た。
アシスタントやお針子を引き連れ、総勢二十名の団体だ。
「あら、イヴ、気合い充分ね?」
「ファビオラ様、それはもう気合いを入れて参りましたわ!
ファビオラ様やヴェリティ様にお似合いの生地も持参しました。
最短で最先端のドレスを仕上げさせていただきますわ。
では、先ずデザインから!」
手際良くデザイン画を広げて、どんどん提案していくイヴ・カルーレに、エミリオンは希望を伝える。
その時も、ヴェリティの要望は必ず聞き、皆で作業をしている一体感に包まれた。
「こうやって、ドレスは形になっていくのですね!」
楽しそうに話すヴェリティを、イヴは不思議そうな顔をして見たが、エミリオンと目が合い、すぐに察したようだ。
「そうですわ、ヴェリティ様。でも、ここまで旦那様が奥様のドレスに拘りを仰るのも珍しいのです。
ヴェリティ様を美しく着飾らせたいエミリオン様のお気持ちがたくさん詰まったドレスになりますわね!」
顔を赤らめたヴェリティを見て、イヴ・カルーレも微笑ましく思う。
小さい頃から見てきたエミリオンが掴んだ幸せのお裾分けをもらったような、優しい気持ちになった。
「何なら、普段着もお急ぎでなければデザインいたしますわ。」
「普段着………あっ、エミリオン様、訓練所にイヴ様のような素晴らしい方のデザインした制服があったら、皆、更に学ぶ意欲が湧くのではないでしょうか?」
「侍女達の制服か…今もあるが、デザインはイマイチだよなぁ…」
「でも…すみません…イヴ様に侍女達の制服なんて、失礼でした。聞かなかったことに…」
そこで、イヴ・カルーレは、拳を握り立ち上がった。
「ヴェリティ様、それは素晴らしいです!やりますわ、是非やらせてください!!どこよりも品があり、動きやすい制服!働く女性の戦闘服、それこそ、私の真骨頂ですわ。」
「おっ、イヴ、やってくれるか!」
「はい、お代はエミリオン様に、しっかりといただきますから!
少々お時間ちょうだいいたしますが、やらせていただきます。
私、働く女性の最先端もリードしてみせますわ。
ヴェリティ様と流行を作り上げてみたいです。」
イヴ・カルーレの予想外の反応に驚きつつも、ヴェリティは嬉しかった。
「イヴ様、よろしくお願いいたします。」
そんな二人を見て、エミリオンはまたヴェリティの新たな一面を見た気がした。
(俺の妻、最高じゃん!!!人たらしだけじゃなく、発想が素晴らしいな。)
ヴェリティとイヴ・カルーレが手を握り、ジャンプして笑い合う姿に、エミリオンは癒されたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
デザインも決まり、最速で仮縫いまで終わらせたイヴ・カルーレは、そろそろ帰ろうとしていた。
「ヴェリティ、この後、お茶が飲みたいから、コリンヌに準備させて?俺はイヴを見送るから。」
「はい。イヴ様、お気を付けてお帰りくださいね。」
ヴェリティはイヴに笑顔で挨拶し、部屋を出た。
ドアが閉まったことを確認し、エミリオンはイヴ・カルーレに話し掛ける。
「なぁ、イヴ…ヴェリティは前の結婚では、義母のドレスでパーティに出ていたんだって…
俺さ、我儘を言わないからこそ、ヴェリティには何でもしてやりたいんだ。
だから、エヴァンス公爵家とは年間契約で、いろいろ相談に乗ってくれないか?」
「もちろんです!永年契約でも構いませんわ。フィビオラ様への恩返しにもなりますもの。
しかし、ヴェリティ様…お義母様のドレスですか…?
以前のお家は、貧乏貴族か何かでしたの?」
「いや、ブランフォード侯爵家だ。当主はレオリックだ。」
「あ…ブランフォード侯爵家ですか…
この前、ドレスを作りたいと遣いの者が来ましたけど、忙しいから断りましたわ。
今の奥様には、ドレスを新調なさるのに…」
「はっ!?あの女に?」
「はい…その後も、予約をしてきましたけど、断っておきますね。
私、ヴェリティ様に素敵なドレスを着ていただきたいですし、制服も作りたいですから!」
「頼んだよ、イヴ。ヴェリティを軽く扱った報いは、俺が受けさせてやる。
但し、ヴェリティは優しいから秘密だぞ?」
「承知しておりますわ!でも、殺しちゃ駄目ですわよ?」
「俺自らは殺したりしない。そんなことはヴェリティは望まないよ。
もし何かあっても、その為の裁判所で、我が国の裁判所は、冷酷なほど罪人に公平だからな。」
頷くイヴ・カルーレに、エミリオンは淡々と話した。
「エミリオンお坊ちゃま、今本当に幸せなのですね。」
「ああ、幸せだ。ヴェリティが居ると、毎日そう思うよ。」
「良かったです。」
「結婚式は来年を考えている。双子達の学園の休みも考慮したいしな。ウェディングドレスと双子達のドレスも頼んだぞ。」
「それは楽しみです。このイヴ・カルーレ、渾身のドレスを作って見せますわ!!」
イヴ・カルーレは、涙を滲ませながら、エミリオンの幸せを祝福したのだった。
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