19 / 50
19.ジークフリードの正体
しおりを挟む二日後、レナリアはジークフリードと久しぶりにセルフォート公爵家へ戻った。
父のウィルヘルムと母のヘライザが笑顔で出迎えた。
「レナリア、まずはお茶にしましょう。」
ヘライザの声掛けで、応接室で寛ぐ。
「元気そうで良かったわ。」
「元気よ。」
にこにこと話すレナリアとヘライザに、ウィルヘルムが話し掛ける。
「ちょっとジークフリードと話があるから、席を外すぞ。」
ウィルヘルムの穏やかな顔にレナリアは少し安心しつつも、ジークフリードを不安げに見た。
「お嬢様、少し失礼します。」
ウィルヘルムとジークフリードは、応接室を出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウィルヘルムとジークフリードは執務室に入ると、向き合ってソファに腰掛けた。
「ジークフリード、そなたの出自を調べさせてもらった。」
「はい、手紙を受け取り、大至急訪れるようにとありましたので、何となく察していました。」
「騎士として有能であれば出自は関係ないと思っていたが、まさかクロムウェル公国の公子だったとは…」
「黙っていてすみません。こちらは出自は関係なく雇っていただけたので。」
「それはいいとして、レナリアとはどうなっているのだ?」
「結婚したいと思っています。公子と言っても二男ですので、騎士として働かせていただく分には、特に問題ないと思っていました。しかし、十三歳で家を出てから一度も帰っていないので、流石に結婚となると戻らなくてはなりません。」
ジークフリードの澄んだ瞳にウィルヘルムは感心しながらも、敢えて意地悪な質問を投げ掛けた。
「公子様は、レナリアとの結婚が容易く出来ると思っているのでしょうか?」
口調が変わったウィルヘルムの意図を、ジークフリードは試されていると悟った。
「はい、お嬢様が追い詰められて頼ったのは私ですから。これまで真摯に向き合ってきたことは自負しておりますし、公爵様ご夫妻も裏切らぬよう、お嬢様の純潔は守り通しています。」
ジークフリードの言葉は殆どが真実で、純潔云々はレナリアの為だったが、主従関係でもあった為にそこは暈した。
「なるほど。確かにレナリアはそなただけを連れて行ったしな。私もそなたがレナリアを傷付けるようなことはしないと、漠然とした想いはあった。だから、影は派遣したが、強制的にレナリアを連れ戻そうとは思わなかった。しかし、公爵家として言うのであれば、この結婚の利点は何なんだ?ルーセントのバカは、未だにレナリアと結婚するつもりだ。レナリアが家を出ていたことにも気付かず、たまに花を贈ってくる始末だ。念の為、皇帝は婚約解消として文書化してあるがな。」
「私はクロムウェル公国にて鉱山を三つ所有しております。一つは公国に返還、一つは帝国に譲渡、最後の一つはセルフォート公爵家というかお嬢様に差し上げましょう。」
「その鉱山というのは?」
「公国はサファイア、帝国はダイヤモンド、お嬢様にはウルトラマリンを、と考えています。ウルトラマリンは遠方の国ではラピスラズリという名前で、レナリアの瞳と同じ瑠璃色です。」
ウィルヘルムは、ジークフリードの考えに驚き、笑った。
「宝石を買い与えるのではなく、鉱山ごとレナリアに与えるとは!あはははっ、そなた、面白いな!!」
「お褒めに預かり光栄です。お嬢様には私の命すら差し出す所存です。」
「分かった。二人の結婚を認めよう。公国に戻って、大公殿に許可が得られれば、我が家としては反対する理由はない。レナリアをそなたに託す。皇帝も、あのバカ息子の所業に気付いているようだし、ダイヤモンド鉱山なら文句はあるまい。その交渉は私に任せなさい。ごちゃごちゃ言うなら、公国に亡命でもするか?」
「ありがとうございます。陛下につきましては、宜しくお願い致します。お嬢様には、ひと月留守にすると伝えてあります。なるべく早く戻りますので、それまでどうかお嬢様の身を守っていただきたく。」
「当たり前だ。可愛い娘だ。任せてくれ。」
こうして、ジークフリードはウィルヘルムにレナリアとの結婚を承諾させ、あとは公国に戻り許可を得るだけとなった。
628
あなたにおすすめの小説
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。
絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。
王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。
最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。
私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。
えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない?
私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。
というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。
小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。
pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。
【改稿版について】
コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。
ですが……改稿する必要はなかったようです。
おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。
なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。
小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。
よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。
※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。
・一人目(ヒロイン)
✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前)
◯リアーナ・ニクラス(変更後)
・二人目(鍛冶屋)
✕デリー(変更前)
◯ドミニク(変更後)
・三人目(お針子)
✕ゲレ(変更前)
◯ゲルダ(変更後)
※下記二人の一人称を変更
へーウィットの一人称→✕僕◯俺
アルドリックの一人称→✕私◯僕
※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました
ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。
ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。
それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の
始まりでしかなかった。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる