【完結】 その身が焼き切れるほどの嫉妬をあなたにあげる

紬あおい

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19.ジークフリードの正体

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二日後、レナリアはジークフリードと久しぶりにセルフォート公爵家へ戻った。
父のウィルヘルムと母のヘライザが笑顔で出迎えた。

「レナリア、まずはお茶にしましょう。」

ヘライザの声掛けで、応接室で寛ぐ。

「元気そうで良かったわ。」

「元気よ。」

にこにこと話すレナリアとヘライザに、ウィルヘルムが話し掛ける。

「ちょっとジークフリードと話があるから、席を外すぞ。」

ウィルヘルムの穏やかな顔にレナリアは少し安心しつつも、ジークフリードを不安げに見た。

「お嬢様、少し失礼します。」

ウィルヘルムとジークフリードは、応接室を出て行った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ウィルヘルムとジークフリードは執務室に入ると、向き合ってソファに腰掛けた。

「ジークフリード、そなたの出自を調べさせてもらった。」

「はい、手紙を受け取り、大至急訪れるようにとありましたので、何となく察していました。」

「騎士として有能であれば出自は関係ないと思っていたが、まさかクロムウェル公国の公子だったとは…」

「黙っていてすみません。こちらは出自は関係なく雇っていただけたので。」

「それはいいとして、レナリアとはどうなっているのだ?」

「結婚したいと思っています。公子と言っても二男ですので、騎士として働かせていただく分には、特に問題ないと思っていました。しかし、十三歳で家を出てから一度も帰っていないので、流石に結婚となると戻らなくてはなりません。」

ジークフリードの澄んだ瞳にウィルヘルムは感心しながらも、敢えて意地悪な質問を投げ掛けた。

「公子様は、レナリアとの結婚が容易く出来ると思っているのでしょうか?」

口調が変わったウィルヘルムの意図を、ジークフリードは試されていると悟った。

「はい、お嬢様が追い詰められて頼ったのは私ですから。これまで真摯に向き合ってきたことは自負しておりますし、公爵様ご夫妻も裏切らぬよう、お嬢様の純潔は守り通しています。」

ジークフリードの言葉は殆どが真実で、純潔云々はレナリアの為だったが、主従関係でもあった為にそこはぼかした。

「なるほど。確かにレナリアはそなただけを連れて行ったしな。私もそなたがレナリアを傷付けるようなことはしないと、漠然とした想いはあった。だから、影は派遣したが、強制的にレナリアを連れ戻そうとは思わなかった。しかし、公爵家として言うのであれば、この結婚の利点は何なんだ?ルーセントのバカは、未だにレナリアと結婚するつもりだ。レナリアが家を出ていたことにも気付かず、たまに花を贈ってくる始末だ。念の為、皇帝は婚約解消として文書化してあるがな。」

「私はクロムウェル公国にて鉱山を三つ所有しております。一つは公国に返還、一つは帝国に譲渡、最後の一つはセルフォート公爵家というかお嬢様に差し上げましょう。」

「その鉱山というのは?」

「公国はサファイア、帝国はダイヤモンド、お嬢様にはウルトラマリンを、と考えています。ウルトラマリンは遠方の国ではラピスラズリという名前で、レナリアの瞳と同じ瑠璃色です。」

ウィルヘルムは、ジークフリードの考えに驚き、笑った。

「宝石を買い与えるのではなく、鉱山ごとレナリアに与えるとは!あはははっ、そなた、面白いな!!」

「お褒めに預かり光栄です。お嬢様には私の命すら差し出す所存です。」

「分かった。二人の結婚を認めよう。公国に戻って、大公殿に許可が得られれば、我が家としては反対する理由はない。レナリアをそなたに託す。皇帝も、あのバカ息子の所業に気付いているようだし、ダイヤモンド鉱山なら文句はあるまい。その交渉は私に任せなさい。ごちゃごちゃ言うなら、公国に亡命でもするか?」

「ありがとうございます。陛下につきましては、宜しくお願い致します。お嬢様には、ひと月留守にすると伝えてあります。なるべく早く戻りますので、それまでどうかお嬢様の身を守っていただきたく。」

「当たり前だ。可愛い娘だ。任せてくれ。」

こうして、ジークフリードはウィルヘルムにレナリアとの結婚を承諾させ、あとは公国に戻り許可を得るだけとなった。
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