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【外伝】 エステファンの恋
しおりを挟む第一皇子として生まれ、皇太子としての教育に明け暮れた日々。
リリティア・オーランド侯爵令嬢との出逢いは、俺の中では衝撃的だった。
淑やかな令嬢とばかりお茶会で引き合わせられていた俺は、キリリとした表情と、剣も扱うという活発なリリティアに心動かされた。
事業の為に、オーランド侯爵と共に近隣諸国へ訪問し、他国の文化にも知見があり、話題が尽きなかった。
俺は秘密裏に、陛下にリリティアを皇子妃候補にしたいと打診した。
女性に興味を持たないと思われていたのか、陛下は驚いた。
しかし、息子の希望を無碍に扱わず、しばし待てと言われた。
『しばし』というのがいつまでなのか。
何度も何度も陛下に問い掛けたが、なかなか色良い返事は聞けなかった。
そして半年後、陛下に言われた。
「エステファン、リリティア嬢は駄目だ。影の調査を待って判断しようと思っていたのだが…なかなか尻尾を掴ませなくてな…まず、現段階での情報では、オーランド侯爵家は我が国の騎士団の配置や見回り時間、皇宮の大まかな地図など、機密情報を他国に売っていた可能性が大きい。それと…リリティア嬢はルーセントとデキていたようだ…しかも、既にルーセントに捨てられた。」
俺は目の前が真っ赤に染まるのを感じた。
それが怒りなのか、羞恥なのか、分からない位に。
「ルーセントから更なる情報でも引き出したかったのかもしれんが、そんな情報はあいつの耳には何一つ入れていないから無駄骨だ。ただ…リリティア嬢は諦めてくれ、エステファン…」
「父上…」
敢えて、陛下ではなく父と呼ぶ。
「俺が浅慮でした。影を使うことすら失念し、数回会っただけの令嬢に入れ上げたこと、恥ずかしいです。申し訳ありません。」
「いや、エステファンにも、そんな面があったのかと私は嬉しくも思うぞ?あまりゆっくりされても困るが、生涯の伴侶となる人を探すがよい。」
「はい…漏れた機密情報の対策はお任せください。オーランド侯爵家は国外へと追放します。」
こうして、俺は恋に臆病になってしまった。
恋と思っていただけの気持ちかもしれないが、ルーセントとリリティアのことを聞いた時は、この身を焼かれる痛みを感じた。
こんな気持ちは、もうたくさんだ。
恋なんて、愛なんて、俺には必要ない。
でも、陛下の誕生パーティでレナリアてジークフリードのダンスを見た時、お互いに見つめ合う二人の優しい眼差しが羨ましかった。
(ああいうのが恋するってことなんだな。)
レナリアは幼い頃から知る子だ。
礼儀正しいし、社交の場では完璧な淑女だったが、普段は茶目っ気のある可愛い令嬢だった。
ルーセントが欲に溺れ、おかしくなるまでは。
だから、俺はルーセントからレナリアとジークフリードを遠去けた。
可愛い妹を守る兄のような気持ちで。
(そう、妹だ…それ以上の気持ちは、絶対に持ってはならぬ。見ない振りをする気持ちなら、そのまま風に流されて行け。)
知らぬ間に、俺は二度も失恋していたたようだ。
いや、レナリアが初恋なのだろうか。
今となっては、想いは風の向こうだ。
しかし、運命の女神は俺を見放さなかった。
クロムウェルでの合同結婚式の場で、クリスティに出逢った。
心臓を直に握られたように、俺の心は乱れた。
目の前に天使が現れたような気がした。
後からレナリアに、右手と右足が一緒に出ていたと揶揄われたが、これも運命の女神のいたずらということにしておこう。
クリスティは、語学も様々な知識も豊富で、明るくハキハキとした令嬢だ。
「エステファン様のお顔が、もう素敵で!大好きです!!」
「っ!?」
ダンスの後に、もっと話したくて連れ出したバルコニーで、クリスティ叫んだ声が披露宴会場まで筒抜けだったのも女神のいたずらか?
後ろから聞こえる歓声に、ちらりと振り返ると、レナリアとジークフリードが手を繋いで、笑顔で万歳し、キルリードが頭を抱え、ヴィヴィアンが頭をヨシヨシしていたのは見ない振りをした。
翌日、にこにことレナリアとジークフリードがお祝いに来た。
そこで、ルーセントの話も少しした。
「殿下も…おつらかったのですね…」
涙ぐむレナリアは、やっぱり素敵な妹だ。
普段はあまり感情を出さないジークフリードが、レナリアの肩を抱きながら、唇を噛んで一緒に苦しみを共有してくれた。
「殿下!クリスティ様と!!ぜーったい、くっ付けますから!ホルヘン皇帝陛下もセラフィ皇后陛下も、私の言うこと、聞いてくれます!!」
レナリアは熱く語り、ジークフリードは不敵な笑みを浮かべた。
二人が何をしたのか分からないが、あれから、何の障害もなく結婚し、最愛の妻を溺愛する毎日だ。
そんなある日、妻に聞いてみた。
「クリスティ、歳を取って俺の顔がしわしわになっても、変わらず愛してくれるだろうか…?」
「当ったり前じゃないですか!あの日、お顔が素敵と言ったのは本心ですけど、ああでも言ってインパクトを与えなきゃ、もうエステファン様に会えないかもしれないと焦っていたのです。私、エステファン様の心、掴めたでしょう?」
「ああ、がっつり掴まれて、もうクリスティ無しでは生きていけないよ。」
ふふふと嬉しそうに笑うクリスティに、また恋に落ちる。
そして、それをこっそり見ていた陛下に翌日笑われる。
「エステファンが一目惚れとはなぁ。レナリアとジークフリード、クリスティを熱く推してたぞ?あはははっ!!」
「陛下っ!あれを見ていたのですか!?」
慌てる俺を見て豪快に笑う陛下は、息子の幸せを喜ぶ父親の顔だった。
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