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67.リルアの新たな夢
その後、初日にしては盛り沢山のスケジュールだった三つ子に疲れが見え始めたので、リュグラン公爵邸に戻り、三つ子をゆっくりとお昼寝をさせることにした。
「昼食もそこそこに寝てしまいましたね。皆、楽しそうでしたわ。」
「アルカロイドにはないものがたくさんあったからなぁ…
何店舗か買い上げて、アルカロイドに店を開こうか?」
「……はっ!?」
「アルカロイドで手に入る普段着や下着のデザインがダサいだろ?
父上に言えば、その辺りの品や流通経路も整うだろう。」
「なるほど!だったら、日用品や薬品なども手配出来たらいいですね。」
「リルアの希望は全て叶えてやる。何せアルカロイドには、正真正銘お宝の山があるからな。
資金には困らないし、経済を回す為にも金は使うべきだ。」
私の些細なひと言も聞き漏らさないヴェルシスは、直ぐさま父のケインとの商談に入り、ものの数時間で企画書の案が出来上がっていた。
「リルアの目線で、この企画書に目を通して仕上げてくれないか?」
夕食後に手渡された企画書には、商店街を構成する店舗の候補や、山を切り拓いての販売ルートまで記載されていた。
「これはっ!?」
「皇都からアルカロイドまでの道のりを今の半分にするには、山が邪魔なんだよ。
だったら、買い取って道を造ればいいじゃないか。」
「ーーーっ!?山が邪魔っっっ!!」
「道は、切り拓くものだろう?」
ヴェルシスが言葉にすると、何故か叶う気がして、私はこの計画が楽しみになってきた。
「是非やらせてください。」
「流石、俺の妻だ。でも、棍を詰めるな?」
「はい!」
その日から三日間、私は公爵邸の図書室に籠る時間を取り、企画書の補足や修正に没頭した。
それは執務に専念していた過去を思い出して、懐かしい気持ちになった。
(あの頃は、やらなければと躍起になっていたけど、今は三つ子の将来の為にと思えば楽しいわね!)
図書室には、帝国では秘匿事項第一級に準ずる詳細な地図の写しがある。
これは父のケインがカレノイド皇帝陛下より直々に賜った物だ。
「ヴェルシスやお父様の案だと、エレイヤ山脈の北側の一部を切り拓くのか…
いや、それよりも…」
その時、ふと背後に気配を感じて振り向くと、ヴェルシスが私を見つめていた。
「俺の妻は…あまり言うことを聞いてくれないようだなぁ…」
「……えっ…?」
「もう昼時だ。」
「あっ……」
「厨房を借りて、サンドイッチを作ってきた。食べろ。三つ子は母上やシェリーヌと遊んでいるし。」
ヴェルシスは、少し怒ったような顔をしながら、机の空いたスペースにサンドイッチと紅茶を並べた。
紅茶を口に含むと、ダージリンの香りが鼻から抜けて、緊張感も薄らいでいく。
そして、過去はこんなふうに気遣ってもらった記憶はないことを思い出し、心があたたかくなった。
「ヴェルシスはお料理上手ね。とても美味しいわ。」
「作ったのはローストビーフとソースだけで、あとは挟んだだけさ。」
「まあ!出来立てだからローストビーフがしっとり温かいのね。薄切りの食感がいいし。
ヴェルシス、ありがとう!」
ヴェルシスは頬杖をついていた顔を赤らめた。
「二日目までは…黙って見ていようと思ったのだが…三日目は流石に我慢が出来なかった…
リルアは執務に関しては…閨より体力があるようだがな…」
「っ!?」
「でも、楽しそうだったから、せめて食事だけでもちゃんとして欲しくて…」
しゅんとするヴェルシスが可愛くて、私はちゅっと口付けた。
「リルア…玉ねぎのソースの味がする。」
「ーーーっ!?もう、知らないっ!」
「いや、だめだ、拗ねるな!」
その後、いじけたヴェルシスを宥め、私は夕方まで企画書に没頭した。
そして、完成した時、私は新たな夢の実現にわくわくするのだった。
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