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156.弱さを認めること
その頃、リシャールは執務を切り上げ、物思いに耽っていた。
「結婚式のカレナは美しかったなぁ…」
純白のウェディングドレスも素敵だったが、ドレスよりも遥かに清らかなカレナに、もう一度恋をした。
「初夜も最高だった…」
侍女に磨き上げられたカレナは、まるで花のように愛らしく、恥じらう姿は妖精のようで、この世のものとは思えない美しさだった。
「はぁぁぁ…カレナ…もう会いたい…」
リシャールは目を閉じて俯いた。
「あのぅ…」
その時、カレナの声がした。
「ーーーっ!?い、いつからそこにっ!?」
「初夜も………から…?」
「ーーーっ!!!」
カレナは笑いを堪えながら、リシャールの傍に近付いた。
「そろそろお茶の時間と思い、ノックをしたのですが、全然お気付きにならなくて。ふふっ。」
リシャールは顔を真っ赤に染めて、また俯いた。
「リシャール?」
「穴があったら…入りたい…」
「あら、あなたの定常運転ではないですか?でも、側近に聞かれたら恥ずかしいので、執務の時間はしっかりなさって?」
「………き、気を付ける…」
カレナはリシャールのこんなところをとても愛していた。
うっかり気持ちがダダ漏れる可愛らしい夫のリシャールを。
「ヴェルシスは、アルカロイドに戻る準備を着々と進めているな。あいつは抜け目がないから、皇都から優秀な人材を連れ去るつもりだ。」
「でも、大公殿下は夫人と三つ子ちゃん達の為に動いているのですから。
アルカロイド公国が盤石でないと、有事の際に帝国と提携出来ませんもの。」
「分かっている。ヴェルシスは、自分が弱いと他者を護れないというのが口癖だからな。
家族さえも弱味にならないような、強固な基盤を作りたいのだろう。
私は、既に完成された人材を活かすことは出来ても、人を育てるところからは出来ない。
しかし、ヴェルシスは、その人を丸ごと受け入れ、未完成な能力を完璧な実力に育て上げる力がある。
ハルトやアンドレが良い例だ。
あの者達は、最初は落ちていた剣を振り回すだけだったからな。」
カレナは、リシャールがヴェルシスの生き方に憧れているのだと思った。
そして、その生き方は、リシャールには到底出来ない立場と気質であることを理解しているのだ。
「リシャールには、リシャールの良さがあるから、大公殿下は寄り添い続けているのですわ。
リシャールが隙を見せれば、誰かに足を掬われることを懸念して、帝国と公国の関係は強固であると、陛下もアピールしたかったのでしょう。
リシャールの足を掬う存在として一番近い第二皇子殿下が大公になれば、謀叛を企てることは国同士の戦争に直結しますから。
流石にそのような事態を招く貴族は居ませんからね。」
「カレナは、やはり聡明だな。今は帝国内に大きな動きはなくとも、それは小さな芽をヴェルシスが潰してくれたからだ。
あいつは、二年掛けてやり遂げてくれた。
誰しも、帝国の盾になど、なりたくてなるのではないが、ヴェルシスは両陛下や私の為に…」
リシャールは、ヴェルシスに感じていた負目を未だ払拭出来ずにいる。
「これからは、私もお傍に居ますわ。リシャールが剣を振り翳す必要はありません。
人にはそれぞれの役割があります。
リシャールも、誰かに頼ることを覚えて?」
「いや、私は皆に頼ってばかりだよ。」
「弱さを認めることも、その人の強味なのですわ。
己の器量を過信したり誤認する者は、進む道をも誤ります。
得手は得手に任せよという言葉がありますわ。
リシャールは、その頂点で采配を振るう広い視野があると思います。」
事実、ヴェルシスを的確に動かしてきたのはリシャールであり、それを認めているからこその兄弟の信頼関係なのだと、カレナは思っていた。
「私の最大の幸運は、カレナを娶れたことだな。
君は、私が失いそうになる度に、自信を持たせてくれる。」
リシャールは、カレナを抱き寄せ、ちゅっと口付けた。
「リシャールが可愛らしい人だから、愛さずにはいられないの。」
カレナは、微笑みながらリシャールに口付けを返すのだった。
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