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22.ポペス侯爵家の行く末
しおりを挟む「あなた、ジェニファは…」
夜会が終わり、侯爵邸内が静まり返る中、俺は私室に戻った。
妻のソフィーは、心配そうに様子を伺う。
そんなソフィーには何も悟られぬよう事を運ばなければ、ポペス侯爵家は終わりだ。
俺は、安心させる為に穏やかに笑う。
「ジェニファは、精神的に病んでいる可能性もあるから、先ずは医師に診せることにした。クリストファー殿下は、静養が必要ならば、しばらくは罪は問わず保留にすると言ってくれた。ソフィーは、ひと足先に保養所となるイリージアの別荘に行き、ジェニファを迎える準備を整えてくれないか?俺が一緒に行ければ良いのだが、慰謝料など諸々やらねばならないことがあってな。すまない、頼めるか?」
「ええ、分かりました。イリージアなら穏やかな土地ですし、ジェニファの静養に良いわね。」
「あちらに着いたら、費用は気にせず準備をしてくれ。早い方がいいな。」
「ジェニファは、今…」
「気が立っているのか、本当に精神がやられてしまったのか、訳の分からないことを叫び続けているので、可哀想だが牢に入れてある。そんな姿を見るのも、ソフィーはつらかろう。早急に医者に診せて、落ち着いたらイリージアに連れて行く。ソフィーも心労が溜まっているだろうから、明日にでも出発して、少し心を休めてから準備をしてくれ。侯爵邸もしばらくは騒々しいだろうしな。」
「ありがとうございます。そうさせていただきますわ。」
これが夫婦として、まともに話す最後の機会となるだろう。
俺は、愛した妻に嘘だらけの話をした。
仮面を被り続けた妻は、最後に俺の被った仮面には気付かないようだ。
俺の愛した女は、こんなにも馬鹿だったのだろうか。
ソフィーは、イリージアなどには行かせない。
馬車は真っ直ぐにトラジック修道院へ向かう。
途中で気付いても、馬車の扉は中からは開かない。
装飾だけが豪華な、走る牢屋と化した馬車だからだ。
クリストファー殿下は、聞きしに勝る冷酷さを持ち合わせていた。
馬車も離縁も、ジェニファの医師に至るまで、全てクリストファー殿下が手を回した。
これ以上、殿下のお気持ちを害したら、ポペス侯爵家は本当に終わる。
ジェニファだけは守りたかったが、あの様子だと、もう侯爵令嬢としては生きて行けないだろう。
家を守るということは、一族も民も守ること。
妻と娘を捨てることになろうとも、親から任されたこの侯爵家を俺の代で潰す訳にはいかない。
後添えを迎え入れれば、また子は産まれる筈だ。
いざとなれば、優秀な養子を迎え入れてもいい。
そうとでも考えないと、気が狂いそうだ。
ソフィーを愛していた。
贅沢が好きで派手な美人だったが、侯爵夫人としては問題なかった筈だった。
嫡男には恵まれなかったが、ジェニファだって可愛かった。
しかし、ソフィーはヴァーミリアン侯爵に、ジェニファはチカプリオン伯爵令息に、叶わぬ想いを持っていた。
人として、生きていく上で、時に諦めなければならないこともあるという、たった一つのことが理解出来ない。
何と憐れな母娘だろうか。
しかし、一番憐れで惨めなのは俺か。
二人を懸命に愛し、守ってきたつもりなのに。
結局、守らなければならないのは侯爵家だった。
そして、死ぬまでそれを続けていくだろう。
齢三十も半ばを越して、もう他の生き方は出来ない。
死ぬまで貴族を、侯爵を貫かねば、俺は、俺の全てを失ってしまうだろう。
でも、もし、平民として生きる決意が妻と娘にあったのなら。
それが出来る二人なら。
俺もそう出来たのかもしれない。
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