29 / 61
29.ポペス侯爵夫人 ①
しおりを挟む保養所となるイリージアの別荘に行き、娘のジェニファを迎える準備を整えようと、いつもより豪華な馬車で出発した。
「行き道に必要な物は、全て馬車のキャビン内に準備させた。気を付けて行くように。」
「はい、ありがとうございます。ジェニファのこと、宜しくお願いします。」
夫のギルバートは、いつものように笑いもせず、私を見送った。
まあ、ジェニファのことで、いろいろあったから仕方ないだろうと納得した。
つまらない男だ。
侯爵家の嫡男という肩書だけの男。
容姿に秀でている訳でもなく、甘い言葉も囁けず、仕事ばかりしている。
それでも、私にはその『侯爵家』という肩書きが必要だった。
あのエリザベスよりも家格を下げない為に。
ディーゼル・ヴァーミリアン侯爵令息は、私の初恋の人だった。
私がまだ五歳の頃、教会で退屈していた時、ディーゼル様は護衛騎士とやって来た。
年は少し上だろうか。
目に付く物全てに興味があるのか、頻りに護衛に話し掛けていた。
「ねぇ、君も教会に来たの?」
急に話し掛けられ、手を掴まれ、私は固まってしまった。
「あれ、どうしたの?」
「あっ……お父様と…来ました…」
「ふーん、護衛付けないと危ないよ。気を付けて帰ってね!またねーーー!!」
きらきらした笑顔と柔らかな手が離れていく。
ほんの一瞬だったのに、それがとても寂しく感じた。
(でも、またねって言ってくれた!きっとまた会える!!)
その時から、私の初恋は始まった。
名前も分からず、五歳の私が見ても、高価な服を身に付けた男の子。
月日が経っても忘れられなかった。
寧ろ、その想いは強くなっていった。
私の運命の人と再会したのは、十歳の時。
ヴァーミリアン侯爵家の嫡男の婚約者を選ぶお茶会だ。
コルトナ伯爵家の長女である私にも招待状が届き、母は気合いを入れて、真っ赤なドレスを準備してくれた。
「ジェニファ、ヴァーミリアン侯爵令息のお目に止まるよう頑張るのよ!」
そう言われても、私には初恋の男の子が居る。
気の進まないお茶会だが、両親には逆らえない。
しぶしぶ参加した時、運命は動き出した。
「ディーゼル・ヴァーミリアンです。今日は宜しく。」
お茶会の冒頭の挨拶で、私はあの時の男の子だと気付いた。
(またね!って言ったのは、今日また会えるからだったのね!!)
ディーゼル様とは順番に挨拶をするようで、私はわくわくしながら待っていた。
こっそり聞き耳を立てれば、ディーゼル様は同い年であることも分かった。
(あの時は年上だと思っていたけど、同い年なんだ。私にぴったりじゃない。)
私は、テーブルに並んだ焼き菓子を食べながら、只管順番を待った。
そして、やっとその順番が回ってきた。
「コルトナ伯爵家のソフィーです。」
「こんにちは。焼き菓子は美味しいかい?」
「はい!とっても美味しいです。」
「では、楽しんでね。」
にこりと笑って、ディーゼル様は次の令嬢の元へ行ってしまった。
(照れているのかしら…行っちゃったわ…)
後日両親に聞いたら、その年のお茶会では婚約者は決まらなかったそうだ。
680
あなたにおすすめの小説
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?
青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。
エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・
エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・
※異世界、ゆるふわ設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる