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33.隣国の王女
いよいよグレシャム国のベントレット国王とアンジェリーナ王女の訪問の日がやって来た。
初日は対面式、二日目の歓迎パーティを含め、滞在は全日程二十日間だ。
その間、エルネスト帝国とグレシャム国の親交を深め、様々な政策についての討論会も開催される。
そして、その中にはアンジェリーナ王女の王配候補を選定するかもしれないという噂もある。
リースハルトは、ザカリー皇帝陛下とシルヴェスタ殿下の護衛を担当するが、そこにリンネも帯同するという異例の警備体制だ。
リンネは、急病人に備えた一般的な薬だけでなく、万が一の為に新しい解毒剤をひっそりと持ち、更に念を入れて媚薬用の解毒剤まで準備していた。
この先二十日間、何があっても対応する覚悟だ。
しかし、それ以外にも気になることがあった。
皇族との対面の時、アンジェリーナ王女がずっとリースハルトを見つめていたのだ。
リンネは、人が狙いを定める瞬間とはこういうものなのかと思った位に、アンジェリーナ王女の表情は分かりやすかった。
アンジェリーナ王女は、リンネの二歳年上の十八歳、煌めく黄金の髪と瞳の肉感的なプロポーションの女性だった。
自信に満ち溢れた妖艶な佇まいに、周りの者が息を呑む気配がした。
リースハルトを除いては。
(リースハルト様は、全く興味を示さないのね…周りばかり注視されているわ。でも、王配の噂もあるし…心配だわ…)
リースハルトの広い背中、辺りを見回す射るような瞳。
それは任務を遂行することしか考えていない。
浮き足立つ他の騎士とは格段に違う志で、リースハルトはその場に立っていた。
リースハルトの後ろで、リンネはその姿を誇らしく思っていた。
そして、最初の謁見が終わり、アンジェリーナ王女は、自国の眉目秀麗な護衛騎士を従えているにも関わらず、帝国の護衛も付けて欲しいと言い出した。
「あの者を私の護衛に付けて欲しいわ。」
視線の先には、リースハルトが居た。
「あの者は、皇帝陛下と私の専属近衛騎士でございます。王女殿下の護衛は別の者に。」
「そう…」
シルヴェスタ殿下が即却下すると、露骨に嫌な顔をしたアンジェリーナ王女だったが、その場では引き下がった。
「ねぇ、あの者の後ろに居る令嬢はどなた?」
「近衛騎士の夫人でございます。薬師として帯同しております。」
「はあっ!?結婚しているの?それに、夫人を連れて護衛?」
呆れた顔をしたアンジェリーナ王女は、リンネをひと睨みし、去って行った。
「本日、この後の予定はありませんね?リンネと過ごしたいのですが?」
リースハルトは何事もなかったように、シルヴェスタ殿下に声を掛ける。
「ああ、ジルフリードも居るから君達は休め。」
「では、失礼いたします。リンネ、行くぞ。」
「はい!」
リースハルトはリンネと腕を絡ませ、控え室として用意された皇宮の客間に向かった。
その後ろ姿をアンジェリーナ王女は物陰から見つめていたとは、リンネは気付いていなかった。
しかし、敏感なリースハルトは気配を感じ取り、リンネと組む腕に少しだけ力を込めた。
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